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カテゴリ:文芸
前巻では、結衣に振り回され、臥薪嘗胆の日々を過ごす幸の姿が描かれましたが、 今巻は、それを乗り越え、五鈴屋が太物商として大ブレイクを果たす痛快な展開。 特筆すべきは、幸と五鈴屋を支える、菊栄の先を見越した言動の数々です。 *** 力造が仕上げた木綿地の藍染反物を寛ぎ着としての浴衣地に、幸はこれを密やかに進めていく。 一方、西隣の提灯屋・三嶋屋からは、遠州に移るので家屋敷を買ってもらえないかとの話が。 そして、大坂を出発した菊栄、鉄助、お梅の3人が、長雨や川止めに遭いながらも江戸に到着。 翌々日、菊栄は幸と共に蔵前屋に出向き、そこで惣次に出会うが、二人は初対面を貫き通す。 幸は、端午の節句に来店した若い母親の一言をヒントに、反物の扱い方や裁ち方の手解きを始め、 皐月二十八日の川開きには、主従や力造一家と一緒に花火見物に出かける。 その帰途、子猫を拾ったお梅は、その世話をするため暫く江戸に留まることを決意。 鉄助は、お梅と既にこのまま江戸で暮らすことを宣言していた菊栄の二人を残し翌日帰坂する。 菊栄は足場を固めるべく東奔西走、三嶋屋売却の誘いも五鈴屋に代わり自らが受けることに。 さらに、菊栄は賢輔を誘って湯島の物産会へ出かけ、浴衣地の図案に苦しむ賢輔に助言。 「惚れた女子はんでもええし、身近な人でもええ、 自分にとって大事なひとに着せてみたい、と思う柄を描いたら宜しい」(p.147) 創業日から12日後、黒船街から出火し、紙問屋・千代友屋は店は無事だったが水浸しに。 幸は、紙を買い取ると共に、お結びや貸し布団を手配し届ける。 一方、白子から道具掘りの型掘師・誠二が弱り切った体で江戸に辿り着くが、次第に回復。 賢輔は両国の川開きの打上げ花火を描いた図案を、力造と梅松、そして誠二に見せる。 しかし、誠二はもっと大きい紙に描いた方が良いと助言、しかし大きな型地紙の入手は難しい。 また、梅松がこの図案は錐彫りでは無理なので、道具彫りの誠二に任せたいと言うが、 誠二は、錐彫りでないと出せない味わいもあると述べ、二人で力を合わせて彫ることに。 そして、賢輔の新しい図案が完成し、寸法の大きな地紙も千代友屋の尽力で入手の目処が立つ。 鉄助が文次郎の仲介で在方の機屋と繋がることに成功し、大量の白生地が江戸店に運ばれてくる。 賢輔は、花火柄、柳に燕、団扇、蜻蛉等の図案を考え、梅松と誠二が型紙を彫って力造が型付け。 幸は、菊栄の好意で元三嶋屋の土地と屋敷全てを買い上げると、店舗や蔵を拡大すべく改築開始。 浴衣を縫い上げるのは、もと御物師・志乃を中心に帯結びや裁ち方指南の参加者15人と、 お才の伝手の染物師の女房10人で、来年の両国川開きの日を披露目の日と定め作業を進める。 さらに、近江屋から壮太と長次を奉公人として再び迎えることで接客体制を整えると、 湯屋仲間と繋がり浴衣を無料提供、その浴衣を着た湯屋仲間の500人が、 川開きの日に20艘の涼船に乗り込むと共に、翌日からは店番が浴衣を着て高座に上がることに。 当日、五鈴屋の浴衣は、市村座の役者を伴う豪勢な音羽屋の屋台船を上回る人々の関心を集めた。 翌日以降、湯屋の高座に座る店番を通じて浴衣の評判は広まり、店には多くの客が押し寄せる。 また、菊栄が奥の小物問屋で商う花火柄の藍染の団扇も評判となり、こちらも大人気。 さらに、夏が終わると新柄を売り出し、寝間着や肌着にも使われるように。 そして冬、「木綿の橋を架ける手掛かりを得た」梅吉は、ようやくお梅に求婚したのだった。 *** 「ただなぁ、惣ぼんさん、否、井筒屋三代目保晴さんが、敵なんか味方なんか、 私には今ひとつ、判断がつかしまへん。 なぁ、幸、あのおひとに纏わる今までの経緯を、 洗いざらい、話してもらわれへんやろか」(p.71) これは、菊栄の言葉ですが、前巻の記事に書いた私の思いと一致します。 やっぱり、少々怪しいのか? 杞憂に終わることを願っていますが…… そして、次もやっぱり菊栄の言葉です 「旦那さんの紙入れ、あれは極上の桟留革だす。 御寮さんの簪と櫛と笄はお揃いの白鼈甲。 一見、地味な装いだすが、あそこまでの品を普段使いしはるて、相当だすなぁ」(p.155) こう菊栄に言わしめた、1年に1度、創業の日だけに五鈴屋を訪れる、夫婦連れの買い物客。 その夫が幸に耳打ちしたのが、 「私はねぇ、この店が太物に新しい風を吹き込んで、天下を取るに違いない、 と睨んでいるのですよ」(p.155) この言葉から、いつかきっと千代友屋と同じように幸の力になってくれるのでしょう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2025.10.11 21:08:16
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