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いざこざの外

[松文館わいせつコミック裁判] カテゴリの記事

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まだ引きずってます

ダメです。正直、助けて下さいとブログに救いを求めています。この間、台風が首都圏を直撃した時にもそうだったんですが今も軽い妄想というのか、不安よりも少し強い恐怖感で逃げ出したくなります。たーすーけーてーくぅーれぇ～！！松文館の事件から、もう何年も経ちました。娘も３歳を過ぎて、七五三の写真も撮りました。旦那の仕事も増えて、アシスタントを増やしてます。お隣さんとも親しくなって、子供達が家を行き来したり。暑い日が続くから、衣替えのタイミングがなかなか難しかったり娘が覚えて来た素っ頓狂な言葉に夫婦で大笑いしたり実際に何もないんです、怖いことなんか。毎日のやる事を繰返して、穏やかで、幸せなんです、きっと。でも道を歩いている人が家を見張りに来ているんだとか。家の前に停車した車が覆面パトカーなんじゃとか。そして台風が来ると、旦那が嵐のどさくさで連行されるんじゃとか。月代わりに又、大きなトラブルが起こって孤立するんじゃとか。ふと手を止めた瞬間に、そんな考えが体を覆います。思い立って服を段ボールに詰め込んでみたり通帳や実印をまとめてみたりふと正気に戻ると、何してんだと泣けてきます。そのくせ、少し調子が戻って「大丈夫」と思うとテンションの上がりが止まらなくなって、自分は何でも上手く行くと根拠の無い自信がわき上がって来て、別の意味で何かしそうだし平均台の上で左右にユラユラしながら、何とか立ってる感じです。どうすればいいのか知ってます。そして全ては過ぎて行って、何とかなるのも知っています。でも自分を御すことだけが分からないなんて情けない。これ以上、旦那の負担になりたくないです。誰か私に喝を入れて下さい。私の現状が情けないから黙ってられないんだよって叱ってやって下さい。１０月になります。旦那が連行された１日は目前。でも一ヶ月なんかすぐに過ぎて、冬になり年が変わります。そしたら春になるんです。私も又、歳を重ねます。なのに今が怖いなんて。鬱のバカ！お前なんて、どっか行け！！

Sep 29, 2007

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何が起こってる？

同人エロ漫画家逮捕と同日、日本ビデオ倫理協会に家宅捜査が入ってる。このビデ倫は警視庁の天下り先というもっぱらの噂が立っていた。なのでビデ倫にお金を払っていれば大丈夫という神話が崩れる。ビデ倫へわいせつ物頒布ほう助の容疑で強制捜査が入ったということとその陰に隠れる様にして同人漫画家個人を逮捕して、関係者それぞれにも捜査が入ると言われている。この件の関係者は、印刷所・委託販売書店。となると国が風紀取締強化を図るために動いている様に見える。新しい法規制が出来るのか、新しくわいせつ物認定を審査する団体を（映像・絵・写真を問わず）設立するつもりなのか。何にしても、今回逮捕されたイラストレーターの売上げは超有名サークルや作家に比べたら劣る人で、もっと摘発されそうな人はいたと思われる。けれど人に知られる大手サークルはそれだけの売上げ分お金も持っているし、所得税も納税している。だから中堅所で、個人を狙ったのではないかと思う。松文館はエロ漫画を出版しているけれど、業界で決して規模の大きい会社ではなかった。それでも検挙された後、社長だけ１人、法廷で争って結局検察の方は当初の「執行猶予付き懲役刑」から減刑された「罰金刑」を最高裁でも認められた形なので、担当検事は左遷されたという話しも聞いた。松文館の様な中堅所出版社がこれ程抵抗出来るとなれば、他大手出版社を相手にするのは到底、同等の時間や費用がかかる。それならば「自分には関係の無い話し」と思っている同人漫画家へと個人攻撃に方針を変えたのでは無いかと思う。突然逮捕されるショックに加え、実際に弁護士等を雇って争う金銭の負担はかなり重い。私達だって色々な事はあったけれど、会社や身内の援助がなければ今の生活は絶対になかった。娘だって産まれなかったろうと思う。それくらい人生に重くのしかかる。情報は恐らく月曜日以降にならないと、入って来ない。でも何か大きな動きが、見えない所であると思う。

Aug 24, 2007

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同人誌で、イラストレーター逮捕

と言うニュースが出たらしい。わいせつ図画頒布罪だから、旦那の時と同じ内容。ただ１つ違うのは、旦那は出版会社から出された単行本でこの人の本は印刷会社を通じて書店販売されていた同人誌。これが結構、大きな違いだと私は思う。同人誌は個人・ないしグループで本を作って、しかるイベントで販売。勿論、個人の責任で全てを制作・販売するのだから、公共機関のチェックは特に入らないと思う。旦那が唯一参加している、コミックマーケットは事前に見本誌という形で提出して、チェック体制があるみたいだけどアダルト関係のものを、どういう基準で審査しているのかは知らない。旦那の時と同じで、性器の消しが問題になってくるのだろうけど具体的な指導要綱みたなものを見たことがないから、あくまで個人のモラルに判断をゆだねて、表現の自由に規制をかけていないのではないかと思う。すみません。私が成人向け同人誌は好きではないので、勉強不足です。理由は今回逮捕されたイラストレーターがくしくも言っているけれど「同人誌でキャラクターものの漫画を書いたが売れず　わいせつ漫画を書くようになった」と言う様に、自分の表現した物を誰かに見てもらいたいという欲求だけでなく、売りたい・儲けたいで過激な描写になって、流行のゲームキャラや漫画・小説キャラを使い安易なエロ漫画を描いている人って、多いと思う。それがオリジナル作品の世界観を広げる良作であればまだしも人気にあやかって、売れるものを作るというのが果たして表現の自由なのかと。著作権関連も含めて、最近の同人活動はかなりグレーゾーンが多いと思う。同人作家という肩書きがあって、年２回のコミケで数百万・数千万を売上げをする人も少なからずいるという話しも聞く。今回逮捕された人も、１万１０００冊を１冊１３５０～１６００円で販売。旦那が１回に刷る冊数よりも多いです、実際。印刷費・郵送費・委託料はそのうちの何割かになるから、ほぼ丸儲けになるし、その儲けを忠実に確定申告で申し出る人がどの程度いるのか謎。今回はネット上で販売されているのを見て捜査が開始されたというから誰かのたれ込みである可能性は多いにある。父兄からの連絡だけでなく売上げに嫉妬した身内からのたれ込みという可能性だってある。同人誌でも成人向けの内容だから「性的刺激」を与えるものには違いない。それを個人が作って、楽しみに持つ。それを知った人が欲しいと言う。商売になってしまう以上、個人的楽しみで終わらない状況になる。法に触れる様な作品を間違って世に送り出してしまっているのならそれは当然、個人の責任で罪を認めなければならない。でも。そもそも「漫画のわいせつ性」というのが何かの明確な規定がない。消しの濃さなのか、絵柄なのか、ストーリーについてなのか。いたずらに性欲を刺激する物が、一体どういう物なのか。それを明確に示されない限り、どんな「わいせつ図画頒布罪」も私は納得出来ない。好き・嫌いじゃなくて、法規制には一貫性がなければ絶対に誰かが後ろで得をする為に利用するに決まってる。正規出版ルートを経ている・いないに関わらず「絵のわいせつ性」が誰にでも分かる様に規定されなければ、出る杭や・目立つ邪魔な杭が打たれる。表現の自由は、規定されてない今だからこそ、全てを認めなきゃいけない。その上で未成年がアクセス出来ない様にする、安易な個人販売を控えるなどの措置をとってもらうことを要求する方が先ではないのかと思う。この人の作品が一体どんな物だったのか、逮捕までの経緯がどんなだったのか詳細を知りたいが、情報が無い。しかもこの人は、容疑をすんなり認めたらしい。「まさか自分が」と言ったところだろう。わいせつの基準も分からないまま自分の描いた漫画は「いやらしい物だから」＝わいせつと認めたのか後ろ盾がないから不安・パニックになって警察の言われるままに認めたのかのどちらかだと思う。冬に行われるコミケには、どんな影響が出るのやら。又、業界周辺が騒がしくなりそうだ。と、書いている今。私は稿料未納金の会社に通告書を出す準備と平行して簡易裁判の申立準備もしている。慌ただしい１日の始まり。今月中にはケリがつくだろうけど、色々と重なって心がざわつく。こんな時こそ、気持ちを落ち着けなくては。

Aug 24, 2007

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いざこざが一段落

何だか、まだ気が抜けてボンヤリしてるのですが。支離滅裂覚悟で、ご報告です。先日、とうとう最高裁判決が出ました。上告棄却ということで２審での罰金刑１５０万が確定。１審では懲役刑が出ていたのだから一応、喜んでいいとは思う。思うのだけど、何だか釈然としない。歴史に残る大事件とは思わないけれど漫画という一つのジャンルが初めて罪を問われ表現の自由とか、見たい人と見たく無い人の権利とか社会通念の変化とか、諸々の事を確かに包括している事件だとは思ってました。大袈裟かもしれないけど一つ間違えば、国家による表現規制に発展する可能性もなきにしもあらずだとも思ってました。１９５７年に出されたチャタレー裁判のわいせつ三要素１９８０年「四畳半襖の下張り」でわいせつ性を判断する要素。それがお偉いさんの判断一つで旦那の漫画がビンゴしてしまった。でも成人漫画がコンビニでも簡単に手に入るのが現状だから古い規定が見直されるきっかけになって、新しい規定が出来ないかとちょっと期待してたんです。例えば作品内の性器描写に関して言えば、修正基準を決めるとか販売時に何かしらの制限をして、青少年に悪影響が無い売り方を考えるとか。そういうのが、全く無い終結。私はこの国に何か妄想を抱いていたのかもしれない。本当にそんな風に考えて、美しいも何もクソミソだとよく分からない怒りで、ふて寝し続けてた日曜日。で。この判決ですが、土曜日の朝刊を見て知った訳です。旦那もネットで偶然見て、判決を知ったと言うしまぁ社長が自社出版物での裁判を闘ってたとは言え最後まで、いざこざの外で傍観していた様な。しかも作者本人もそうなのか？と少しツッコミ。でもありがたいことに、旦那は仕事してます。エロ漫画家としても健在だし、イラストレーターとしても。私はまだ鬱で治療継続中だけど、少し旦那から離れたところで色々な物を見たり、色々な人に会ったりしようと決めました。考えてみると、私の視点は旦那に向けられてばかりいたし私自身のことを旦那抜きで知る友人との交流はとても少ないと今ごろになって気がついてしまい、自分にダメ出ししてました。ブログも自分自身のことより、旦那観察が多すぎかなぁとちょっと読み直してみたり。私は大した人間ではないし、出来た人間でもないので相手のことを思って動いている時でさえも自分が偽善的で良いカッコしいみたいに思えて、嫌いなんです。それに加えて、事件の後に周囲の人が手のひらを返した様にどんどん離れて行った時の、淋しさとか不安とか悔しさとか。それがいつの間にか、無条件で旦那の味方でいることが自分の価値にすり替わって、すごく依存してるんです。そのくせ、旦那付属品としてしか見られていないのが無性に嫌で、その矛盾した想いが鬱の原因だったのかなと最近になって少し絡まっていた糸が解けて来た気がしてます。もう少し自分を可愛がってやろうかと。変な言い方ですが。そして娘に対して視点を移して、旦那離れをしようかなとか。ブログも裁判が一段落したし、これを区切りに模様替え予定。予定は未定ですが、しばらくは鬱日記かなぁw相変わらず味覚変動が大きくて、食いしん坊は大変です。でもお気に入りの食べ物、２つ見つかったんですよ！ネタなので今日はナイショですが、旦那がショックを受けてました。正直、しんどいです。頭に浮かぶ言葉はネガティブなことばかり。娘に対しての影響も心配で、今という時間に集中して過ごすことがどんなに大切なことだったか、こんなにも難しいことだったのかと痛感します。でも、そんな愚痴を口にするのは私のプライドが許しませんw周囲にまで鬱の空気を流すなんて、それこそ罪作りですよね。鬱ネタを笑ってやるんです、こんな時こそ。作り笑いも笑ってりゃぁ、楽しくなるってモンでぃ！（江戸っ子調で）方向が定まってないのは不安ですが、大丈夫。まだまだ行けますよ、私は。ブログも不定期更新し続けます。時間を割いて私の文章を読んでくれる人が楽しんでくれる様なそんな話が出来る様に、とにかく動き続けてみます。これで離れる方もいるかもしれませんし、まだ細く長くブログでお付合いが続く方もいるかもしれません。そんな訳で、今日はひとまずの区切りをつけてご挨拶させて頂きます。裁判の経過を読み続けて下さった皆様、ありがとうございました。今後もブログに立ち寄って下さる皆様、改めてよろしくお願い致します。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　藤原しぇり

Jun 19, 2007

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控訴審判決

審判決が覆り、懲役刑から罰金刑になりました。主文、原判決を破棄する。被告人を罰金１５０万円に処する。この罰金を完納することができないときは、金２万円を１日に換算した機関被告人を労役場に留置する。原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。刑だけをみると減刑です。今後もし、成人向けコミックが摘発されるとしても懲役刑にはならず、罰金刑での判決が下ることが考えられます。それがどういう事か。つまり余程悪質な作品でなければ、お金で問題が片付くことになるので出版側も対策が取りやすくなるし、検察側も罰金刑程度の罪を必死に追うことは可能性として少なくなる訳です。この減刑だけを見れば、勝利と言えます。ですが判決文を見ると、密室は完全にわいせつ物と断定されています。しかも写真の様な実写表現物と漫画の相対比較が問題なのではなく「密室という漫画そのものがわいせつの定義に該当するかどうかを考えた場合」「本件漫画本がその作品性・思想性・芸術性により性的刺激の度合いが緩和　されているとは認められない」し、この様な本がいくら書店でゾーニング（区分け）されて販売されていたとしても「見たい人に対する規制とは　なり得ない」という判決文が出ています。お分かりでしょうか。わいせつ図画にあたる物は見たく無い人・見せたく無い人に対してだけでなくいかなる人にも見せてはいけない物となり、例え自分の嗜好で「見たい人」に対して販売する様に配慮しても、ダメという判決の内容です。しかも成人向け漫画において、何がわいせつなのかの線引きが、全く出されなかった。修正の度合いを気をつければいいのか、内容に関して扱ってはいけないものがあるのか全く分からない状況です。判決文だけを見ると、完全なる敗北。ゾーニングが認められないという点では、書店等の販売側にも大きな波紋を投げかけました。東京都では青少年健全育成条例もあって、警察が書店での見回りを強化しているらしく、成人向けコミックの扱いを止める書店も多くなったと聞きます。大手出版社では成人向けコミックから撤退する動きもあるといいますから、それをメインにしていた中小出版社のダメージはかなり大きいのではないでしょうか。最高裁での判決は、まだ出ていません。判決は控訴審判決の罰金刑か、無罪かのどちらかになります。無罪になることはまず無いだろうという見方が、大半を占めています。今のところ、審議の経過も結審予定も、何も耳に入ってきません。こちらに控訴審判決全文が掲載されていますので、お時間のある方はどうぞ。http://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Tone/9018/shoubun0616hanketsu.html

Apr 14, 2006

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ちばてつや先生の証言（後）

ちば先生の証言の中で印象深い言葉が幾つかありました。描写が露骨で生々しいし、何もここまで書くことは無いのではないかと言う検察側の意見に自分も同感ではあるけれど、それは表現する漫画家の感性であり描きたいから描くことであって、又、本を買って読む人もそういう所を見たくて買うのではないかと思う。子供には見せたくないけれど、世界にこういう趣味や嗜好があるし、成人が個人の判断で読むことはあると思うと言われました。本人の好き・嫌いを越えたところで表現の自由を認めるということです。又、線で描いた絵は、刺激を受ける程度に描写されてないといけないという主張は面白いものでした。かわいい・きれいな等の違いがあっても女性としての美を描けなければ、刺激に結びつかない。そう考えると、成人向け漫画の中にも絵としての芸術性を垣間見られる部分があるということになります。又、暴力的・嗜虐的・反道徳的というものが人間の持っている側面である以上これに絡んだドラマが生まれるし、それを描きたくなることもあるだろうと続けて話されています。ちば先生ご自身は、暴力的な描写は好きではないとおっしゃっています。血しぶきが飛ぶ描写は自分の嗜好から離れているけれどストーリの流れで必要、又は必然な描写であったから描いたと言われています。証言の最後に、残酷な描写・卑猥な描写を良しとせず、世の保護者達が不買運動を起こして漫画を燃やす等の抗議運動をするのは構わないけれど、法律という縛りで発禁という形にはしないで欲しいとも言われています。子供達に見せない様にする規制を厳しくするのは構わないけれど、表現に関しての規制はしないで欲しい。１つの規制を始めると、全ての表現に関して取締が行われる様になるだろうしそういうものは読者の感覚に任せて、発禁はしないで欲しいと言って証言は終了しています。良いものは残り、悪いものは消えていく「自然淘汰」は漫画においても起こりますし、それが読み手が持つ権利の反映でもある筈です。安易に自分達が持つ権利を他者に委ねることが、どういう結果を招くのか。それがどんなに小さな規制でも、いずれ拡大解釈される可能性が強いということをもう少し認知されたらと思います。私はちばてつや先生が証言して下さったことに関して、筋違いではありますがとても感謝をしています。先生は「表現の自由」を守るためにしただけの事で決して旦那の漫画を擁護している訳ではないし、旦那の為ではなく、むしろ社長の為に証言に立ったのですから、私が喜ぶことではありません。でも著名な漫画家の中には、成人向けコミックを蔑む方が少なからずいますし大手出版会社になるとエロ漫画を描いた経歴だけで、契約しないこともあると複数の人から話しを聞いたこともあります。そういう事もあって、ちば先生の様な方に切捨てられなかったことそれ自体が本当に嬉しかった。少し分かりにくい感情だとは思いますが。旦那自身は既に「傍聴してても、何だか他人事の様に聞こえる」と言うのですが最初から離れた位置で見ているしか出来なかった自分は、今でも裁判が気になるし形はどうであれ「旦那の表現が嫌いでも、認めてくれる人」には無条件で感謝したくなるのです。

Apr 11, 2006

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ちばてつや先生の証言（前）

前にも少し書きましたが、控訴すれば必ず二審が開かれる訳ではありません。一審判決を踏まえた上で、新しい証言や証拠があることを裁判所に提示して審議の必要があるという決定がされれば、裁判が開かれます。二審の大きな目玉となったのは「あしたのジョー」の作者である漫画家ちばてつや先生が、証言に立たれることでした。先生の傍聴をするのには抽選が行われました。傍聴希望者が多数になる時に整理券が配られるという、あれです。旦那も当たるかどうか分からないけどと言いながら支度をしていました。でもこの時、私はなぜかは分かりませんが旦那は絶対に傍聴出来るからと言い切って送り出しました。「まぁそうだと有難いんだけど」と言いながら出かけた旦那。ところが旦那はすぐに帰って来ました。あれだけ確信していたのに勘が外れたかしらと事情を聞くと、松文館裁判の経過をアップしている人が抽選に外れていたので、交代して帰って来たと言います。その為、私達夫婦はどちらも、先生の証言を直接聞いてはいないことを先に断っておきます。ネットでアップされた証言全文や、その他の記事・旦那が聞いた話しなどから、この日のことを書いているので、ご了承下さい。さて、ちばてつや先生は旦那の漫画について、決して評価している訳でも認めている訳でも無い立場の方でした。わいせつな漫画は嫌いだし、作品内で性器描写をここまでする必要は無いと思うと、新聞のインタビューにも答えていらっしゃいます。でも１つの表現を規制することの危うさを感じてこの裁判での証言に立って下さったと聞きました。誰でも知っている大御所の先生が、表現の自由を守るためにご自身の嗜好を別にしてお話し下さるのは、有難いことだと思います。報道でもほとんど取り上げられることの無い裁判が、世間の注目を得る手段は、もう著名人の協力しか無い状態でした。世間が注目したからと言って、何か良い結果が出る訳ではないし逆に成人向けコミックに対する批難の目が、もっと集まる可能性もあります。それでも私は業界関係者だけでなく、沢山の人に考えてもらえるきっかけがどんな形でもあった方が良いと思っている方です。母親という立場になってから、自分の考えが揺れます。「子供が大きくなった時に、父親の仕事がそんな内容じゃ可哀想だ」と言われる時に、完全否定出来ません。でも子供にとって害になるであろう物はいつでも世に溢れかえっているし、それが無くなるとは到底思えません。住み良い環境を得るために、取捨選択をしなくてはならないとしてもそこを選択するのは自分の意思でありたいし、誰かの強制が働くことに対して私は強い不快感を覚えます。何を見るか、読むかの選択は全て自分で出来る社会であった方が嬉しい。だからこそ単純に良い・悪い、好き・嫌いでの二元論で話しを片付けずに、もっと議論を深めていくこと。それが「自己責任」の最も基本になるのではないかと私は考えているので自分自身だけでなく、娘に対しても選択の自由を残している社会がずっと続くことを強く望んでいます。

Apr 11, 2006

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良い裁判長に当たる様、祈る話し

私が民事裁判で訴訟を起こして、初めて裁判長との面会が決まった時に弁護士から服装のことをアドバイスされました。裁判官と言っても同じ人間だから、好感を持たれないと不利になることがあると。だから余り華美にならない、きちんとしたスーツで来る様にと言われました。弁護士さんと打ち合わせをする時にもスーツでしたが、少しカジュアルよりのパンツスーツの時もあったので、念のためのアドバイスだったのでしょう。ところで、今回はなぜこんな話しをしているのかと言うと法の尺度で公平に事件を判断する裁判官にも、やはり一個人としての嗜好があり、感情があるという言う話しです。地方裁判所では余り画期的な判決が出ないという話しを、裁判中に聞いたことがあります。それは何故かというと、地方裁判所にいる裁判官は枠から外れた判決を出すと、色々と目をつけられて出世に響くことがある様なんです。生臭い話しですが、根も葉もない噂と片付けるにはリアルな内容です。そうでなかったとしても一審を担当した裁判長である中谷氏は松文館裁判に対して、求刑そのままの厳しい判決を出されたのでスーパーフリー事件を担当したことも合わせて、風紀関係・倫理関係には厳しい見方をする人間というイメージがあります。高等裁判所の担当裁判長が年配で、これ以上出世の見込みの無い様ならばもしかしたら検察側に一発食らわせる判決が出る可能性もあるのではないかと誰が言い出したのかは分かりませんが、そんな話しも耳に入って来ました。冗談とも本気とも取れる内容で、こちらとしては反応に困りましたが「担当裁判長に恵まれます様に」と祈ったことは正直に話しておきます。法という物差しがあっても、それをどこに当てはめて、どう使うのか。そこにはどうしても個人判断が入って来てしまうのは仕方の無いことです。だけど裁判官になる様な人が成人向け漫画の事情に明るいとは思えないし積極的に出版業界の状況を調べて考えてくれるだろうとも期待出来ない。しかもわいせつコミックが初めて摘発を受けた事件なので、判例も存在しません。無い無い尽くしの裁判に有利な状況を見いだすことは難しい気がしました。わいせつコミックに対して、映倫の様な認定シールを付ける審査機関を警察が天下り先として作ろうとしている。そんな話しもちらほら出ていたので話しはますます複雑になってきます。誰にでも見せられる様な物ではないいかがわしい物だからと、旦那の描いた物を「わいせつ」として発禁処分にしたところで、世間の大多数は困らないし逆に成人向けコミックごときが偉そうに表現の自由を語るとは笑止とばかりに公平な審判の場にさえ登れないのではないか。あれこれ頭に浮かんで来てしまい控訴審が開かれる前は、やはり落ち着きませんでした。

Apr 9, 2006

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論告求刑から最終弁論・第１０、１１回公判から結審まで

ずっとさぼっていたというのか、公判について書ける内容が残り少ないので最高裁で動きがあってからアップしようかと思っていたのですが審議に動きがありません。取りあえず一審については終わらせてしまいます。第１０回公判は論告求刑、第１１回は最終弁論が行われました。論告求刑とは検察側が刑を要求する場であり、最終弁論は弁護側が今までの裁判を総括する様にして自分達の罪の軽減を主張する場。そんな感じです。検察側の論告求刑では、漫画「密室」のわいせつ性の根拠・女性が完全に男性の性的快楽の対象として描かれ、性器部分への修正も消しが弱く、かえって性欲を刺激しかねないと言って、善良な性道徳観念に反することは充分に認定出来ると言い切りました。又、この様な内容の本が法の許容する範囲のものでないことは一見して分かるので、被告人である社長さんの故意に欠けることは無いと断定。そして今まで弁護人が主張してきた、コミックの芸術性やわいせつを判断する社会通念の変化については理由が無いとした上で、証拠として提出された他の成人コミック等は、密室と比較するとわいせつ性の程度が相当劣るものと反論されました。逆に言えば旦那の「密室」はで最もわいせつな漫画と、検察から認定されたことになります。以上の様な理由から、検察は社長に懲役１年を求刑しました。当初、検察側の強い姿勢から懲役２年程度の求刑をされるのではないかと言う話しもあったので、少し弱腰になったというか１年程度が妥当とトーンダウンした様だと聞きました。弁護側の最終弁論では憲法２１条、言論・出版等の表現の自由の保障の視点から刑法１７５条の違憲性を主張し、わいせつ性の判断基準が曖昧であることやゾーニング措置を取って発売していたことを挙げていました。検察の理論で娯楽規制が行われるのであれば酒・タバコ・その他成年者の嗜好品も全て販売の見直しや全面規制という理論になる訳ですから、未成年者に向けての販売をしていなかったことを、重ねて主張した形でしょう。更に被告人の故意がなかったことを密室が発行された時の出版状況（他の出版物の消しや、わいせつ判断に関する基準の有無等）から判断しても無かったことを挙げ、当然ながらの無罪主張です。一審判決の主文は以下の通り。被告人を懲役１年に処する。当裁判確定日から３年間刑の執行を猶予する。訴訟費用は全て被告人の負担とする。執行猶予付きとは言え、懲役刑が求刑されました。ある程度の覚悟は出来ていたとは言え、完全敗訴という様相が濃く皆、強く落胆していました。勿論、私達夫婦も同じです。社長が争っている裁判とは言え、旦那の描いた作品が問題になっているのです。それが刑法に引っかかり、有罪判決を下される物となってしまったことは心中穏やかではありません。仕事の内容が好き・嫌いというのではなくて良い・悪いの判断が何処でされるのかの明確な線引きがなされていないのでもう捕まり損というのでしょうか。救いが何１つありません。とにかく「わいせつな物はわいせつ」それだけで片付けられた気持ちです。ダメな物はダメという、論理を越えた道徳観というのが必要な時はありますが憲法と刑法が衝突する事件で、こういう扱いをされるのかと悔しい思いでした。裁判は全て社長の手に渡っているので、こちらは何も言えませんでしたが上告してとことん争ってもらいたいという気持ちが半分。上告しても、わいせつコミックというだけで門前払いになるのではという懐疑的な気持ちが半分。社長はすぐに上告を決断されました。http://picnic.to/%7Eami/news/etc/040122hanketsu.txtに一審判決文全文が掲載されています。お時間のある方はご覧になって下さい。

Apr 7, 2006

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最高裁における裁判のこと

光市母子殺害で最高裁が弁論決定を開くことで、無期懲役の判決が見直される可能性と報道されています。弁論は明日開かれるそうですがそもそも最高裁で弁論が開かれることが、なぜ見直しの可能性になるのかお分かりでしょうか。松文館裁判にも関係あることなので、今日はその事を（かなり大雑把ですが）書いておこうと思います。「一審での判決を不服として場合に、その当事者が上級裁判所に再審を求めることを控訴といい、更に控訴審での判決に不服がある場合には上告をすることが出来る」これは一般知識として多くの人が認知しているとは思います。でも一審と二審は全く性質が違います。そもそも二審と言う言葉通り、一審の続きとして裁判を開くので最初から裁判をやり直すという訳ではありません。一審でやった事はそのままに、他にも調べるべき点があったと認定された場合に限って、そこだけが新しく審議されることになります。だから審議が開かれるという事だけを見れば、判決に対しての理由付けが見直される可能性が高く、量刑が変化することもあり得る訳です。松文館の場合は、２審判決で懲役刑から罰金刑への軽減判決が言い渡されました。二審で更に不服がある場合に上告になり、最高裁で争うことになりますが最高裁では憲法違反や判例違反があるかどうかが焦点になる為にそれまでの審議に問題が無いと判断されれば、改めての弁論が開かれる必要はない訳です。つまり最高裁で受理されたということは、少なからず憲法判断や過去の判例に照らし合わせて、審議が行われると決定されたということになるのです。しかも今回の光市母子殺害事件については最高裁では極めて異例な弁論開催から見て、１８歳少年に対して下された情状酌量の無期懲役判決から、死刑判決に見直されるのではないかと予測されているのです。これで前例が出来れば、未成年者が起こした刑事事件に対して新しい判例が適用されることになるので、今回の判決が今後に大きな波紋を与えることは、間違いないでしょう。ちなみに松文館も最高裁での審議が、現在行われています。表現の自由に関する憲法判断がどの様になるのか。表現の自由が認められれば、恐らくは無罪。認められなければ２審での罰金刑が確定することになります。しかし審議状況については、全く知らされて来ません。日本の裁判は、確かに時間がかかります。今日の絵は、昨日に引き続き「バンパイアハンター」のキャラクター。コピーをスキャンした為に画像が荒いですが「美女と野獣」の様な２人が青空の下を仲良く歩いている、大好きな絵です。どんな形にしろ裁判が終了して、気分も軽くなりたいものです。

Mar 13, 2006

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第９回公判証人・真庭喜和警部補

２００３年７月３０日に開かれた第９回公判、真庭警部補の証言。旦那の単行本を、なぜ捜査当局がわいせつ物と認定したのか。その経緯を知る場所になった公判です。２００２年の８月中旬、一般人から取締を要望する投書が警視庁生活安全保安課に転送されたと言います。その投書を警視庁へ転送した来たのは誰かという弁護側尋問に対して平沢勝栄先生から回付されてきたと、真庭警部補が答えました。弁護側は平沢議員の名前が公の場で出るとは考えていなかったそうで大収穫だった様です。私は見なかったのですが、この時に真庭警部補が何とも言えない表情をしていたと、旦那は言っています。「ヤベェ言っちまったよみたいな、渋い顔をしてたよ」同情半分、面白さ半分と言った口調で、旦那が教えてくれました。ただここで問題なのが、投書では「姫泥棒」という、旦那の漫画が掲載されている雑誌の名前が挙げられているにも関わらず、摘発対象は旦那の単行本になったことです。なぜすり替えが起こったのか。これも尋問で明らかになって行きました。８月下旬に代々木警察署へと匿名の電話が入り、単行本「密室」のわいせつ性が強いと言われたのを受けて摘発されたと言うのです。同じ雑誌に掲載されている作者の単行本だからという事で、摘発対象が雑誌から単行本へ移行してしまったのが、悲劇の始まり。出版社の介入が噂された原因も、この匿名電話と思われます。コミック初の摘発を検討するにあたって、十数人の警官を集めて検討会を開いたと言います。旦那が過去に出した単行本の他にも１５冊から２０冊のコミックを半日にも満たない時間を費やして検討。ストーリーは考慮せずに、性器描写の詳細や絵柄のリアリティーで判断したと言っています。判断には刑法学者、弁護士も有識者として参加、東京地検検事の意見も聞いて立件することにしたそうです。密室１冊のみの摘発。奇妙な話しですが、同じ作者の手で描かれた他２冊の単行本は、わいせつとは判断されなかったのです。旦那の漫画が全て市場から消えなかったのは、そういう理由からです。最新刊の絵が最もリアルで上手だったと言うことなのでしょうか。この辺の判断は、ちょっと分かりません。真庭警部補への尋問が続き、色々な事が分かりました。捜査を担当した彼は、過去のわいせつ裁判を全く知らないということ。「悪徳の栄え」「チャタレー夫人の恋人」を認識していませんでした。逮捕を決めたとされる、比較的上の立場の者が知らないということは他の人達も知らない可能性が高いと思うのは、私だけでしょうか。又、現在の出版状況について把握していないということ。例えば公刊出版物のチェックについて、それまで成人向けコミックは全くノーチェックだったし、性器描写のみで言えば、例えば浮世絵画が無修正のまま市販されているという様なことも認識していませんでした。警察の恣意的意見を避ける為に有識者の先生に意見を伺って判断すると真庭警部補は言っていましたが、警察が頼りにしている有識者も所詮は警察に囲われている御意見番に過ぎないのかもしれません。密室の様なコミックが流通している事に対して、非常に驚いていると強く言っていましたが、全く免疫の無い人が見れば、どのジャンルでもわいせつ性の強い物と受取れると思うのですが、残念なことに一般人がごく当たり前にする考えを、警察はしてくれないのです。警察組織を考える時に、全てこの人に結びついてしまいます。上から人を見下す横柄な話し方、脅しの様に取れる言葉の数々。時代遅れで、自分達の勉強不足や過ちは決して認めない。閉鎖的で、縦の繋がりが絶対的な人達。弱者の味方なんて幻想。今でも彼を思い出すと、奇妙な動悸や息苦しさがおこって際限なく怒りが込み上げます。旦那は「国家公認の権力組織に所属する人間も色々あるだろうからむしろ気の毒に感じる事もあるよ」と、別の見方をしています。旦那は本当に寛容な人だと思いますが、その彼が「任意事情聴取だろうと、警察に一度連れて行かれたら終わりだね。奴らはニュースで言われる様な自白の強要は平気でするから」ときっぱり断言します。旦那が殺人容疑や窃盗容疑を掛けられていたら、どうなっていたか。任意事情聴取だけで帰ってくる事はなかったのではないのか。恐らく１月程度の勾留では済まなかったでしょう。旦那の容疑がわいせつ図画頒布罪程度で本当に幸いでした。

Jan 21, 2006

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なり振り構わずの強さ

身内が不祥事を起こしたら、どう対応するのか。その時の行動力で、後々に大きな影響が出ると思っています。私は旦那が逮捕された時に、旦那が決して悪い事をしたと思ってはいなかったけれど、警察が動いたという事は、即ち法に触れる悪い事をしたからだという思い込みというのがあありました。周囲に相談出来る人が思い浮かばなかったというのもあるけれど何が起きているのかを誰に聞けばいいのか、分からない。旦那の身内に警察関係0Bがいたらしいのだけれど、舅は聞いたところで管轄も違うから分からないだろうと、相談をしませんでした。だけど今になって思うのは、どんなに細い糸でも、辿って行けば何かに繋がったはずだと言うこです。警察は横の繋がりよりも縦の繋がりの方が強い様ですが、それでも一般人より繋がりはあるのです。事件について調べられるかどうか、それだけでも相談してみる価値はあったのです。聞く前に自分達で判断してしまったのが、間違いでした。実は近所に、親しくさせて頂いていたご年配の方がいらっしゃいました。元気なおじいちゃんで、自家菜園で色々とアドバイスを頂いていましたが口うるさい所はあるけれど、陽気でお喋り好きな人でした。その人は戦争経験者で、戦闘機に乗っていたそうです。軍隊所属時分の話しを色々して下さったのですが、時々差別発言に近い過激な言葉も飛び出すので、周囲に聞こえやしないかとドキドキした事を今でも思い出します。さて、ここからが本題です。戦争で生き残って帰られた方々は結束が強い事をご存知でしょうか。中には、政界でも重鎮に近い政治家と親交のある人も少なくない様です。その方も自民党の有名政治家や、警視庁トップだった人と同期だったりと後で知って、驚いたものです。あの時は自分の勉強不足や、世間体を気にする見栄っ張りな所が優先され旦那の事を何とかしたいと思う気持ちよりもまず、自分の生活の場をこれ以上他人に踏み込まれたくないという守りとか、閉じこもる気持ちが強くて、動かなかったのです。私は恥も外聞も捨てて、旦那を何とかして取り戻そうと動く勇気が無かった。今でも警察関係の身内に、力を貸して下さいと、たったそれだけのことが言えなかったのか、姉歯氏ではないけれど、弱い自分を悔やんでいます。政治家・警察関係者に知り合いがいるのなら、とにかく現状を話してみる。親しくしている年配の方がいたら、誰かを紹介してもらえないかととりあえず聞いてみる。聞いてみて分からなかったら、仕方がありません。成果は出なくても、やるだけの事はやったと自分を許せます。世の中には悪い事をしていながら、権力で罪を逃れる人もいますし罪を問われる前に自分の資産を守ろうと、あれこれ手を尽くす人もいます。それは別の視点から見れば浅ましく悪い事ですが、彼等の視点では自分の見を守る為に出来る事を、精一杯しているだけなんですよね。世間の目を気にせず、イケシャァシャァと発言をしている人達を見て私は良くも悪くも、あれだけの開き直りは出来ません。したいとも思いませんが、もし出来ていれば。あの時、旦那の処遇は変わったのでしょうか。私の身内がもし言い逃れも出来ない重罪を犯したのなら、娘でない限り私は間違いなくその身内から全力で逃げます。でも冤罪に近い逮捕や納得の行かない逮捕であれば、少しでも繋がりが得られそうな人に何とか出来ないかと頭を下げるでしょう。例えそれが友達の友達の友達、と言った全くの他人であっても。

Dec 17, 2005

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第８回公判弁護側意見証人・藤本由香里氏

第８回公判には証人が２人いました。奥平康弘氏の後に登場したのは唯一の女性証人藤本由香里氏でした。藤本氏は筑摩書房の編集者であり漫画評論家でもあるそうで、日本マンガ学会の理事を務められています。手塚治虫賞の選考委員をされたこともあると本では書かれていました。藤本氏の言葉で特に共感をしたのは「不快感」についての事でした。証言が始まってすぐに述べられた言葉でしたが、特に男性向けポルノを読む時には不愉快な部分が残る時があって、それを頭の中で選り分けつつ読みすすめる必要があるという内容の発言をされていました。不愉快な部分は具体的に言われませんでしたが、例えば暴力的行為や痴漢行為から、その被害女性とセックスをする様な描写でしょうか。中には何の救いもなくストーリーが完結するものもありますが、大抵はハッピーエンドに近い状況や、女性がその状況を楽しむという結末になる事が多く思います。男性の妄想なのか願望なのか分かりませんが私が旦那の作品が掲載されている雑誌を読んでいても、似た感情を抱く事がありました。編集者の目ですから、もっと深い内容を言っていたのかもしれませんが「不快感」という言葉には大いに納得しました。そして幸いな事に、旦那の作品に対しては比較的「不快感」が少なかったそう述べられたのにホッとしたのを覚えています。だから逆に人気が無いとも言えるので、複雑な所ではあるのですが。藤本氏は、旦那の作品のストーリーをそれぞれ解説し、更には性器描写と内容の相関関係にまで触れた作品論にまで発展しました。これには正直、こちらが驚きました。同じく、旦那本人も。「そんな計算をして、漫画を描いてるの？」「いや、全然。こっちの方が、へぇって感心しちゃったよ」「・・・そうだよね、やっぱり」帰り道、夫婦で苦笑しながら話しました。やはり作品は作者の手を離れて受取り側の感性に大きく委ねられてしまう様です。ところで証言の中にもう１つ、興味深い内容がありました。日本の漫画水準は世界的にも高水準ですが、良い物・悪い物を含めて表現層が厚いから、漫画界が発展したというのです。以前に漫画大国であったアメリカは１９５０年代に出来たコミックコードによる規制の為発展が妨げられたと言われています。コミックは子供の為のものという強い思い込みがあったので、全ての表現を無害なモノにしてしまった結果大人が読むに堪えるだけの深い漫画が無くなってしまった。「表現をしぼませるのではないかと非常に危惧を持っています」「今回の事件が、漫画は子供のものだという誤った思い込みから始まっているのでなければいいと思っています」日本マンガ学会の方が望んでいる、強い言葉だったのでしょう。藤本氏は旦那の作品を、決して守るべき良い物と言ったのではなく日本の表現水準を落とす引き金となりかねない、悪い前例が出来るのを阻止しようと証言して下さったのだと思います。

Nov 29, 2005

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第８回公判弁護側意見証人・奥平康弘氏

第８回公判の最初の証言者は、東大名誉教授であり憲法研究者である奥平康弘氏でした。御歳７４歳でいらっしゃった老学者の証言は本当に傍聴席を大学の講義の場に変えてしまったかの様な空気になりとにかく証言の内容について行くのに、精一杯でした。検察側の関係者も今までで一番多く、氏の発言を真剣にメモを取って聞いていました。私は氏の活動を知りませんでしたが、本ではオウム真理強に対する破防法の適用や盗聴法の制定などの言論規制に反対する活動をされていると本では紹介されていました。とにかく１つの内容についてを話すのにも過去の判例を具体的に取り上げて、緻密な解説をすると言うのでしょうかかなりの情報量になり、簡単にまとめるという事は不可能に近い内容です。でも判例主義の裁判所に対して「チャタレー夫人裁判」の判決は見たいという人の自由をどう確保するか、というよりも見たいという人たちの自由があるかどうかを一度も考えたことが無いと言われました。そして表現に対して許容性を決めるのは社会ではなくて、警察あるいは公訴権を持つ検察庁が起訴しなかったかどうかで決まるという事に触れ警視庁が摘発しないから許容度を認めると裁判所が語ってしまった、そして無罪だったから表現の自由が確保された、そういう事で済ませた事実があったと言っていました。この言葉は興味深いものでした。警察が動く＝悪いこと、摘発された物の内容に踏み込むのではなく簡単な図式が出来上がっている、そういう風にも聞こえます。そして奥平氏は「表現の自由というのは、少数の利益を確保することで多数者の利益を確保する表現の自由はいらない」とまで言い切っています。多数が正義になりがちな私達の中で、この言葉の強さは本当に驚きました。そして氏が旦那の作品に共感を持つ、持たないではなく、表現の１つとして偏見を持たずに証言されているのに、変な心強さを感じました。氏よりも若い、そして身内から散々な事を言われている時でしたから余計にそう思ったのかもしれません。奥平氏は更に、表現に対して国はいかなる場合でも、誰に対してもどんなシチュエーションだろう取締は出来ないと断言されました。戦前に子供時代を過ごした氏は、共産党の取締を思い出すそうです。アカだから悪いという考えは世に広まっていて、誰も共産党の取締を悪いと思ってはいなかった。表現の自由というのは、そういう物ではないと、重ねて言われるのです。国が出来る唯一のことは、つまり見たくない人を保護する「すみ分け」の取締になる訳です。検事が、奥平氏に質問をしました。「一般人が手に入れたとしても、そこから１８歳未満の子供達の手元に出回らないとも限らないが、それでも規制を行う必要は無いのか」受取った人が子供に見せる可能性があるから、ある種の表現にアクセスを規制する、マーケットに乗せない様にする必要が無いのか。それに対して奥平氏はすみ分けの問題は、ある意味でリスクが伴うと答えています。ただし「受取り側の処分の自由」という言葉を使って見せるか見せないかはその人の問題であって、国家の問題では無いと言われました。大量的に見せるに決まっているならば、社会的問題になるが自主的判断可能な人の自由を前提とするならば、子供に見せるか見せないかその人個人での責任で処分することであり、誰もがするとは限らないことを国家が取締り規制することが、個人の自由を確保するものであるか。そう切り返されました。ご自身の信念に基づいた重い言葉を、淡々と語られる姿は本当に印象深かったです。お時間のある方は、証言の全文をご覧になって下さい。

Nov 16, 2005

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第７回公判弁護側意見証人・斉藤環先生

３人目はひきこもり問題に取り込む専門医であり、東京都青少年問題協議会委員を務められている、精神科医の斉藤環先生でした。オタクについてを書かれた「戦闘美少女の精神分析」という本も執筆されているそうで証言の中でも「ショタ」の単語が飛び出しました。裁判所で、こんな単語が飛び出そうとは。当然のごとく裁判長には縁の無い単語だったので、途中単語の意味を確認されていました。ショタは「鉄人２８号」の主人公・正太郎君をモデルに描かれた同人漫画が語源だそうですが、少年性愛モノの総称です。正太郎君コンプレックスからショタ・ショタコンになった訳ですが、そんな事はこの際関係ありません。先生は「幼児の男の子をモチーフとしたポルノグラフィの一種です」と実に端的な説明をされていました。その流れで参考資料というのでしょうか、提示された同人誌がありました。体は芋虫で顔は少年というカットでしたが、これもショタのジャンル区分されるというので、かなりショックです。絵はいわゆるアニメ調のよく見る同人絵なのですが、こういう世界に慣れていないとグロテスクです。正直これで性的興奮を得る人がいるというのは、世の中深いと思いました。話はそれましたが、先生はこの極端な作品を出す事で、二次元で描写されたものに対しては、現実世界への性欲へベクトルが向かうことはないことを分かりやすく説明された様です。つまり、この芋虫少年が性的欲求を刺激するとしてもベクトルが少年へ向かうのか、昆虫へと向かうのか。純粋に漫画の中だけで簡潔していると考えるのが、最も簡潔で合理的と言う訳です。実際、先生の臨床経験から現実の女性に向かうベクトルと、アニメコミックに向かうベクトルは違い、オタク的な嗜好を持たない青年がこういった漫画で性欲処理をしている事実は、無いと断言されていました。更に発言で印象深かったのは、漫画を読むスキルというのでしょうか。コミックで描かれる女性と実際の女性を比較すると、そうとう特異な誇張デフォルメが施されているので、これに対して性欲を感じる為には一種のトレーニングというか、それなりの習慣がないと難しいそうです。漫画によって引き起こされたと報道された犯罪については、実体志向が強い印象があるとも話されていました。少し違うかもしれませんが、漫画を読むにしても、好きな絵柄というのか読みやすい絵柄というのがあると思います。多少癖があっても読める人もいるだろうし、アクが強くて読みにくいという人もいると思います。それと同じ様な考えをすると、漫画は読めるけど楽しめないという人も確かに存在するのです。実体志向のある人であればわざわざ絵を見るよりも手っ取り早くAVを見れば良い訳です。漫画を楽しむというのも、一種のスキルなんだと、変に感心してしまいました。今まで、余りに身近にあった漫画は、実は１つの文化として形成されていて、それを受け入れる人と受け入れられない人がいるということさえ、考えに及びませんでした。営業活動と合わせて旦那が毎回参加しているコミックマーケットも話題に上る事があっても、実際に参加している人はごく限られています。言葉のイメージで、社会にまん延しているかの様な印象を持ちますが余りに色々なジャンルに細分化されているので、逆に非常に狭い文化と言えるのかもしれません。

Nov 8, 2005

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第６回公判弁護側意見証人・園田寿先生

第六回公判で証人として出廷されたのは、甲南大学法学部教授で刑法学者の園田寿先生でした。大阪府青少年健全育成審議会において、有害図書の指定の可否を審議する第二部会の会長も務められていると、本では書かれています。先生が気さくに「今回は、大変だったねぇ」と旦那に声を掛けて下さったことがとても印象深かったです。青少年条例というのが各都道府県にある様なのですが、大体において青少年に有害と思われる映画・図書・玩具・刃物等の販売や接触を制限するだけでなく青少年の勧誘の禁止や、深夜の外出の制限などを行うものです。青少年に有害と言うのは、性的な刺激だけでなく残虐性を助長したり、自殺や犯罪を誘発する恐れのある物に関して、知事が指定した物になりますが、ここで指定をされると発禁になるのではなく、販売・陳列の制限が課されるのです。有害指定を受けた物が、わいせつ指定を受けるということではありません。わいせつ指定を受けると青少年はおろか、何人たりとも見ることは出来ないので全く意味合いが違ってくるという訳です。つまり有害指定を受けた物というのはわいせつ指定を受けることは無いと考えても、間違いないでしょう。その青少年有害指定を審査する立場に、園田先生はいらっしゃる訳です。証言の内容で特に覚えているのが、最近では審議会に持ち込まれる物の中にコミック誌が多くなっているけれど「密室」が特別ひどいとは、個人的見解であるけれど、そういう印象は持たなかったということ。現に有害指定している中でもっと酷い内容のものを有害指定している現実があるので、これがわいせつとは思えないと、大阪府の方ではあるけれど断言して下さったのが、とても心強く感じました。又、ヘア・ヌード解禁の現在、コミックのわいせつ性に関しては疑問を呈していらっしゃったと思います。コミックであれば、例えばCGなどで余程リアルな描写をしない限りは、有害図書での指定で良いのではないかと言う主旨の発言をなさっていたと記憶します。密室が青少年に対して、性欲をイタズラに刺激すると言うのと同様に、見なれない人であれば週刊誌に掲載されているヌード写真も充分な刺激になりえる訳です。日本では現在、ヘアが見えているか、性器の露出があるかがわいせつを判断する具体的材料となっていますが、性的ないやらしさを醸し出しイメージをかき立てる物であるかどうかの方が、余程判断として重要だと続けておっしゃっていました。旦那はともかくとして、真摯に人間の性的な物を表現する作品に対して、どこまでその真意を汲み取れるか。文学だから漫画だからと差別化せず、冷静に読み取れる目を養うことが、受け取る自分にも必要になって来たのかなと思いました。

Nov 4, 2005

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第５回公判弁護側意見証人・宮台真二教授

第５回公判からは弁護側が申請した、各分野の有識者達が意見証人として出廷され、それぞれの立場からの見解を述べられました。ここからは本当に証言内容の密度が濃くなる為に、当然、全てを理解出来ず、話しについていけなくなった事も度々ありました。なのでここに書く事はあくまで私と旦那の中で印象に残っている言葉になります。詳細に興味のある方はそれぞれのホームページをご覧になって下さい。弁護側意見証人１人目は、東京都立大学人文学部助教授で社会学者である宮台真二先生です。TBSラジオ「荒川恭啓デイキャッチ」の金曜日にゲストとして出演されていらっしゃるので、ご存知の方も多いと思います。旦那いわく「俳優山本耕史を少し丸くして、崩した感じ」の容姿です。この日の証言は、証拠として提出したけれど不採用になった先生作成の意見書があって、それを元にしての話しが多く出ました。意見書の内容については「習俗としてのわいせつ観念・法的規制としてのわいせつ観念」「法と道徳」「学説転換の社会的背景」「わいせつ三法」「暴力的メディア性的メディアについての効果研究」等々、見るからに密度の濃いタイトルが連なっています。宮台先生のホームページに全文が掲載されていますが、慣れない分野というのもあって読むのに一苦労でした。証言の中で分かりやすく、自分達の生活レベルで考えられたのは「空間分割（ゾーニング）」をして、性的メディアの分離を目指すことの有効性でした。つまり見たくない人が、見たく無いものを見ないですむ権利というのを守り、かつ見たい人への配慮、表現の自由を守る方法として有効ということになる、大雑把すぎますが、そういう主張がありました。そもそも「わいせつ」というのは習俗によって変遷するものであってそれを越えての取締というのは、おかしい話しになります。わいせつとされるものは、一般に期待されない空間内にあるかどうかで（例えば学校や教会の隣にストリップ小屋が立地することは、明らかにわいせつだとみなされると言う様に書かれていますが）法的規制が習俗を上回るべき理由が見出せない以上「空間分割の規制」を優先させるべきという事を言われていました。青少年に対しての影響について話されていた事も印象強かったです。証言の際には人間をピストルに例えての話しがありました。性的あるいは暴力的な刺激を受けることを「トリガーを引くこと」に例え刺激を受けても犯罪に走る因子としての「銃弾」が無ければ、弾が発車され人を傷つける事はありません。逆に言えば、因子を備える人は性的・暴力的でなくても、何らかの外的刺激でトリガーを引いて、人を傷つけてしまう可能性があるという事になります。結局わいせつ本に関しても、青少年に好ましくない事は確かであるけれども、それがイコール性的犯罪を助長するとは限らないという事です。結局、どの様な法的措置が取られようとも、見たくない人が自らが望まない情報に出会してしまう可能性というのは、ゼロにはならない訳です。むしろ性についてのメリット・デメリットを家庭内で話す時には、何らかの情報があることの有用性もあるのではないかと話されていた様に思います。これに少し関連する内容のことを、２００３年５月８日に開かれている「衆議院青少年問題に関する特別委員会」で参考人としてお話をされた宮台先生が、オランダの研究を挙げていました。この裁判の証言とは直接の関係は無いのですが、青少年への影響というのを考えると興味深いのでこちらにも概要を書いておきます。これは麻薬が社会に広まって来た時に子供達に麻薬はいけないと教えたグループ、麻薬のいけない理由を説明したグループ、麻薬の是非を議論させたグループとに分けて、その後を調査するロングスパン研究です。経年調査の結果、最も麻薬に手を出したのは麻薬を禁止されたグループで、最も割合が低かったのは子供達自身が討論をしたグループだったそうです。臭い物には蓋をしろの理論で、悪い事に接しないもしくは接触を許されない人間が、善悪の判断を自分で出来るのかどうか。そういう話しにも繋がりそうです。勿論、誤解の無いように言えば、だから悪い物へ積極的に関わって考えさせた方がいいとは思いません。大人の娯楽として存在するものを、子供への悪影響を配慮して安易に政治的規制が介入する事に関して、慎重であるべきだと私も思うのです。さて。宮台先生が証言をされた後、裁判長横に控えている裁判官がそれぞれ質問をしました。裁判長の左隣に座っているのが左陪席裁判官というらしいのですが、その方が性的メディアの定義と、法規制されている物を解禁するという主旨に受け取れた発言について確認の質問をされました。さらにその後、裁判長右隣の右陪席裁判官が怒った様に質問をしました。密室という本を規制することに対して、法理が正当化出来ないだろうという言葉を受けてか、ゾーニングを行政措置で行なうと言うならそれが守れない場合は一体どうするのか。又、ゾーニング規制を受ける物かどうかの判断は誰がすればいいのかという様な事を、端から見ていても裁判官とは思えない「キレ具合」で語気荒く質問します。一体、何をそんなに怒っているのか。この人は少しおかしいのではないかと、本気で思いました。後から考えて法を司る裁判官の前で、わいせつ図画頒布を扱う刑法の不備を理論的に説明された事に対してが、自分達へのあからさまな批判に思えたのかもしれません。自分達の守る法が否定された為に怒ったのか。ゾーニングが必要な物に関してを決定するのに法の介入が必要と言うならば、今の法で何が悪いのかと言いたかったのか。裁判官の熱い口調とは対照的に、宮台先生が淡々と冷静に説明する様子は少し滑稽に見えました。大変失礼な表現になりますが、出来の悪い学生が教授にイチャモンを付けている姿に重なります。キレた右陪席裁判官も忘れられない出来事として、最後に書いておきます。

Oct 27, 2005

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被告人尋問・松文館社長貴志元則氏証言

第４回公判は被告人質問が行なわれ松文館社長、貴志元則氏本人が証言をされました。ここでは長くなるので、証言のやりとりを紹介はしませんが弁護側からの尋問では、逮捕時や留置所内でどういうやり取りがあったのか色々と話されています。９月１９日に行なわれたか家宅捜査の際、任意同行を求められていますが、これについて拒否する権利を有する事については何も触れないでの連行であった事、警察での取調べでは一方的に「裁判官と有識者２名がこれを見て、ワイセツと決まったものだ」そう言い放ったこと、そして調書については、やはり言っている事と書かれた事に隔たりがあったことなどがありました。又、警察へ行く際に、刑事が携帯で「（社長の）妻も連れて行くか？」と話していたと言いますから、どれ程今後をご不安に思われたことでしょうか。そして、この時点で社長ご自身は、自分は逮捕されたのだと思っていたと言われていました。この発言が、どういう意味で言われているのか詳細は分りません。連行された時、既に逮捕と勘違いされたのか。もしくは事情聴取の時に、自分が逮捕されるのは決まったと思ったのか。会社の方にも家宅捜査が入ってあれこれ調べられ、警察が同行を求めている。そもそも逮捕の時に、どういう儀式が行なわれるのか、実際知っている人は少ないのではないでしょうか。通常のプロセスであれば逮捕状を提示されて連行されるのですが、でも現行犯逮捕であれば逮捕状はいらないし事情聴取中に逮捕される場合もあるのですから、社長が勘違いしたと言うのは不思議なことでは無いと思います。まして突然の事で、パニック状態でしょう。又、改めて１０月１日に逮捕された際には、わいせつを認めなければ妻を逮捕する、社員を何人でも逮捕する、マークして何度でもやってやると言い放ったと証言されています。ニュアンスがどうかは別にして、そういう内容を、検察なり警察なりが言って、わいせつ性を認めろと強要する。旦那も少ない取調べの中で、やはり検事が「こういうのがわいせつなんだ」と声を荒げて机をバンと叩いたのに驚いたと、話しています。旦那は実際にあった事を過剰に表現する人ではなく、むしろ過小表現をする様な話し方をする人です。だから私は、少なからず警察での脅迫じみた発言はあったと思っています。検察側の尋問はどうだったか。適切な表現として伝わるか分りませんが力を見せつけて暴力を振るう人間が、傷つけた人間に対して「嫌だったら、なぜきちんと抵抗しないのか？」そんな風に言うのに似ている気がします。「普通の逮捕では逮捕状があると思うが、そんな事も知らなかったのか」「脅されて調書にサインしたと言っているが、サインしたらどうなるか考えなかったのか」「意に反する事であれば、拒否すればいいのではないのか」そんな質問が繰返されました。それは、ある意味で当然の質問ですが釈然としない感情が残るのです。連日連夜の取調べで疲労困ぱいし会社や社員の安全を考えなければならない時、自分の権利を優先出来るか。当事者でない私には、分らないことです。そしてそれは、事件の摘発をする立場の人には尚更でしょう。弱者の立場を知らない発言と思うのは、被害者意識なのかもしれませんが検事の質問や、その口振りに反感が膨らむばかりでした。

Oct 25, 2005

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旦那の証言

被告人については家族席が確保されますが、証人で出廷される人に関しては例えそれが直接事件に関係する人物であっても、特に席を確保される事はありません。その為、私は休憩の時に帰る人がいないかを待ったのですが長岡氏が弁護士に声を掛けて席の空きを聞いて下さったお陰で、松文館の社員が席を譲って下さいました。今考えても、恥ずかしい話です。確実に話しを聞ける様に、予め席の確保を誰かに頼んでおけば良かったのに満員という事態を全く想定していなかったのは大失敗でした。旦那の証言が始まります。他の人達と違い、旦那は普段通りという口調で証言を進めていきました。正確に答えようとする為かヒヤヒヤする程の間が空き、質問に対する答えも饒舌な説明はなく、最低限の答えのみ。「特に」「別に」という言葉もたびたび登場しました。声が上ずるでもなく、いつも通り。本当にこの人はいつでも自然体なんだと、ある意味で感心しました。旦那の証言の中で大きなポイントとなった事がいくつかあります。まず旦那は出版関係者に任せていれば間違いは無いだろうと、修正に関して一切を任せていたということ。そして旦那自身は「わいせつ」と「いやらしい」の定義を曖昧なままで事情聴取を受けていたこと。自分の描いた漫画をわいせつと認めて罰金刑を受けた背景には、早く勾留を解いてもらって帰ろうとしたこと。以前にも描きましたが、旦那はイラストレーターとしての仕事がメインでしたが会社倒産を受けてエロ漫画家としての活動を始めました。絵を描く事に関しては素人ではありませんでしたが、漫画に関しては編集長との打ち合わせを重ねてました。「SMや強姦を」「絵柄についてはリアルに」そんな指示が出ているのです。そして以前に私も気になって聞いたのですが、どうしてモザイクのかかる性器描写までリアルに描くのかというと、連載前に見本でもらった雑誌はモザイクが透ける形で性器が見えていたからだそうです。そうなると手を抜けないから、同じ画風で描いていただけなんだけどね、と旦那は苦笑していました。無修正の原稿を渡すのは、ある意味で当然の話しと言えば、当然なのでした。そして成年漫画という特性上、いやらしいモノを描こうとはしていた。旦那は警察が言う「わいせつ」を「いやらしい」の堅い表現とか延長線上にある言葉と認識して使っていたから、余計に話しは面倒な事になっていたのです。警察は「わいせつ」の定義を説明しないまま、旦那に漫画のわいせつを認めさせている。旦那は「エッチなもの、いやらしいもの」として、わいせつを認めますが、後になって法で言う「わいせつ」の定義を改めて知ることになる。そういう事だったのです。検察が旦那の作品に対して、こんな質問をしました。「全部想像したものなんですか？ご自分の性的体験を元にしていることはありますか」本当に腹が立ちました。旦那は既婚者だし、妻という私の存在があります。ある意味でひどく夫婦の私的な事に踏み込まれた気がしました。漫画の事は自分の性生活を描写しているんじゃないのか？そういう言い方に聞こえたのです。何かい？私は毎回、旦那に強姦やSMプレイをされてるってのかい？性的体験が皆無である訳ないんだから、ある程度は表現に自分の体験は入って当然だろがえぇ？それともお前は、異性との経験全部が悪いって言いたいのかい？日本人全てが処女懐胎すべきと思ってるんじゃねぇだろうなぁ？と、こんなべらんめぇ調の勢いで、１人わなわなと怒りに震えていました。この不快感を理解してくれたのは、ごくごく一部の人達だけでした。怒る私が神経質なのでしょうか？ちなみに。旦那は漫画を描く際、身体の線を参考にする為に写真集やグラビアを見ることはありますが、他は資料として見ることは滅多にありません。当然、私がモデルになる様なこともありません。

Oct 23, 2005

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旦那証言に呼ばれる

２月２６日午後１時４５分から始められた第３回公判。この日に出廷された証人は２人。まず、日本出版販売株式会社課長である安藤裕明氏。そしてもう１人が、ビューティ・ヘア本人である旦那。今回の事件で既に罰金刑が確定した旦那に証言する様、検察側からの要望が来たのです。旦那が任意事情聴取を受ける際につぶやいていた「えらいこっちゃ」を今度は私が何度となく言うことになりました。法廷での証言。疾しい事がなければ、素直に聞かれた事だけに答えれるだけの事だから何もプレッシャーに感じる事なんて無いと言われたこともありました。でも違うんです。傍聴人の人数とか、自分に疾しいところがあるかどうかではなく法廷という独特の空気で証言するというのは、随分と威圧感を感じました。証言は裁判官達を正面に見据えて答える形になります。途中質問の答えが分らなくて困っても、何かを見る事は出来ないし、誰かに頼ることも出来ない。１度口籠ってしまうと、不利になってしまって、もう挽回出来ないのではという様な気にまでなります。まして刑事裁判。旦那は罪状を認めて罰金刑で出ているので、それだけで検察側に有利な発言者になりそうです。そして何より、旦那は口が達者ではないし、しかも事前に準備をしておく様な人ではないので、二重・三重に不安です。証人として決まった後、弁護士との打ち合わせが１回か２回あったと記憶しています。その時に、聞かれた事に対して素直に答えれば特に困ったことにはならないだろうと言われたそうです。検察からの呼び出しもあり、１時間弱の質問を受けていました。供述書内の曖昧な部分を補完する質問だった様です。証人は予め何時までに証人控室に来るようにという指示があり、法廷の横の部屋で誰とも接触せずに待つことになります。なので地裁までは一緒に行き後は別行動になったのですが、法廷に行ってみると既に満室になっており私はとりあえず、旦那が証言する予定時刻まで時間を潰していました。それでも早めに法廷前まで戻って、人が出入りして扉が開く度、中の様子を伺っていました。途中休憩が入れば問題無いのですが、そのまま証言が続けられると、旦那の様子も分らないままになってしまうからです。少しして法廷の前に立っていた男性が、出て来た人と話を始めました。私は思いきって中の進行具合を尋ねます。突然話し掛けたので、不審な顔をされましたが、この後に証言するビューティ・ヘアの妻だと自己紹介するとまだ安藤氏の証言が続いているということと、男性の方は自分も席が取れなかったと話してくれたと思います。事件についても話した気もしますが差障りのない話題だったのでしょう、余り記憶にありません。ただ、その男性の物腰が穏やかで、変な人に声を掛けなくて良かったと安心しました。面白いもので、この時に話し相手になって下さった男性がフリーライターの長岡義幸氏でした。この方が今回の裁判についての本を、執筆されているのです。

Oct 22, 2005

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柏木祐紀氏証言・供述書の信憑性

続いて株式会社トーハンの雑誌営業部マネージャーである柏木祐紀氏が証言されました。株式会社トーハンは流通業界の大手取次で、流通業者を通して各書店へと雑誌が流れていく訳です。私自身の勉強不足で良く分らないのですが「明らかに公序良俗に反する物」に関しては取次がないそうですが雑誌やコミックなどには、製本されるとすぐに書店に流してしまうから「密室」についてや雑誌「姫盗人」について、事前にチェックや検閲をしていた訳ではないようです。取次ぎを決める時には、何らかの審査があるのでしょうが１度取次ぎを始めたら、その後チェックは無いのかもしれません。つまり「姫盗人」や「密室」が成人向けとして作られており、それを考慮して１８歳未満の青少年に販売しないという自主規制マークが施されている。そういう配慮の上で、流通を認めているという事なのかもしれません。検察側からは、先に証言された長嶋氏と同じ様に「青少年が見た場合」を何度か尋ねて来ましたが「密室」は既に、一定基準をクリアして流通機関を通っているという事、青少年に対しての配慮がなされている事から柏木氏も「密室」が流通する事に関しては何ら問題無いという事を強調され青少年に販売されない事が守られていれば、今後も問題無いだろうと言われていました。わいせつの基準につていも、この裁判の結果次第なので、今の時点で自分が判断する事ではないと、言い切っていらっしゃいます。柏木氏の証言中で衝撃的だったのは、供述書の内容についてでした。この方も参考人としてなのか、任意事情聴取をされたそうなのですが供述書では「消しの範囲が狭く、消しの部分も透けて見える状態だからわいせつ物として扱われる可能性が高いと思う」と述べたとなっています。ところが柏木氏は、きっぱりと否定されたのです。「消しの部分が薄いという発言はしたけれど、わいせつに関する判断基準を持ち合わせていないので「密室」がわいせつにあたるかどうか分りませんと自分は答えている」そう言い切られました。更に柏木氏は続けて、調書作成時に担当検察官が自分の発言通りの調書を作成しないので、何度も訂正を求めたそうです。そして作成された調書については見せてもらえず、読み聞かせのみで対応。訂正箇所のみでも見せて欲しいという要求も、見せられないと退けられ「訂正された調書を見ない上で署名捺印すること」を了解させた上で柏木氏は検察側が作成した調書を認めたというのです。「調書が嘘を書いているのか間違っているのかは分らないけれどただ自分の証言内容とは違うということです」毅然とした口調で言われた言葉に、心底驚きました。「調書作成はタイピングが得意な検察官がする訳でもなくて、一通り話しをした後、拙い手付きのおじさんが文字入力するから、ひどく時間が掛かる」旦那が言っていた事を思い出しました。果たして内容についてはどうだったのか。今でも不安ですし、恐いと思います。取調室で、容疑者が拳銃自殺をしたというニュースが随分前にありました。確か横浜の方の警察だったでしょうか。まさに密室での出来事。証言出来る第三者もなく担当警官はお咎め無しだったと記憶しています。なぜ事情聴取や取調べについて、ビデオでの記録が許されないのでしょう？言った・言わないの堂々回りをして、真偽の程が怪しくなるのであればそれだけで裁判での公正さが失われかねません。こう言っては誤解を招くかもしれませんが、どんなに証言に立った人が供述書の謝りを主張しても最終的に裁判所が信じるのは書類として形を成している供述書の方だと誰もが思うのではないでしょうか。警察の汚職事件が増え、関係機関の黒い噂が増える昨今、供述書の信憑性も低く思えてなりません。

Oct 20, 2005

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長嶋博文氏証言

第２回公判で検察側証人として、まず出版倫理懇話会会長であり成人向け出版社トライアングルフォース社長である長嶋博文氏が出廷されました。出版倫理懇話会は成人向けグラビア誌やコミック誌、ビデオ関係を刊行する出版社３５社で構成される任意団体で、毎月の会合で都の有害図書指定を受けたものを回覧して対応策を話しあったり、別にある任意団体との情報交換をするなどをしているそうです。又コミック発行に関して、会の出版倫理綱領、編集倫理規定があるとのことです。そもそも昭和６１年の発足当時は親睦会的なものだったそうですが、前任者によると当時の警視庁の方から、出版社の団体を作ってもらえないかということから始まったそうで現在も警視庁との窓口もあるそうです。その関係で摘発時に「密室」がわいせつ物にあたるか警視庁から事情聴取も受けていらして、検察側証人としての要請だったと思われます。事供述書に、松文館は倫理懇話会に参加しないアウトローと話したとされている、本には書かれていましたが実際の言葉が文字通りのものであるか、又は警察側の意訳であるかは私には分りません。この方の証言で印象に残ったことが、いくつかありました。その前に検察側が編集倫理規定の中から取り上げた項目が２つありましたので先にそれを挙げておきます。「性器およびそれに類する部位に関しては、露骨な表現はこれを排し、又それらの部位は消去する」「青少年の健全な保護、育成のため、性的感情を刺激し、又残虐性を助長すると思われる記事・写真・マンガ等は、取扱いに十分注意する」警察は「性器に類するもの」が何か「露骨な表現」とはどういうものか。それを何度か聞いていましたが、具体的な回答が出て来ません。長嶋氏が答えたものは「こういう事だと思うけれど、それぞれ受け方が違うから」「具体的には、ちょっと分らないけれども」そういう言葉が必ず入りました。と言うのも、刑法１７５条があるので、それに即した規定を作ってはいるけれど、時代と共にわいせつ観が変化して来ているので、倫理規定は具体的な事に踏み込んでいない訳です。後は各社が動向を見ながらの良識ある判断をと言う感じでしょうか。実際、性器部分のアミかけという消しの修正は年々薄くなる傾向にあって、中には無修正で出版されているコミック誌も数多くあるのです。ヘアヌード解禁、インターネットの普及でわいせつの基準は明らかに低くなり、開放的になっていることから考えても具体的な線引きは難しいと思います。まして実写に遠く及ばない漫画での描写に対して、修正の濃さを言うならまだしも、内容や絵の質を取り上げて「わいせつ」の線引きは、不可能ではないでしょうか。又、検察が青少年の健全な保護・育成を上げて「密室」が問題にならないかとも尋ねていました。「この本をいやらしい内容と思いませんか？」「人前で証人が読めるような内容ですか？」「青少年に見せられる内容ですか？」「成年マークはついているけど、その後で青少年の目に触れる可能性はないですか？」そんな感じです。これを聞いて、私は「わいせつ図画頒布罪」という罪がどういうものか改めて分らなくなって来ました。成年マークを付けて青少年に向けて作っていない本を、青少年が見たらどう責任を取るのかと言うことなのか。いやらしい内容というだけで全ての表現は規制されるべきということなのか。検察の主張が理解出来ませんでした。これらの質問に対して氏は、年中この手の出版物を扱っている自分はいやらしい感じは受けないし、成人に向けて売場を区別陳列してパックして売っているものに関して、青少年が見るかどうかまで見ていられないと答えていました。又、コミックの性器は写真や映像の違って「性器に似せて描いたもの」であるから前後の描写から性器とは言えるけれど、それを「性器」と断定出来るかどうか、そして同じとらえ方をしていいのか分らないともおっしゃっていました。淡々とした口調で検察側の質問に応じる姿は、業界判断とお役所判断との違いが余計に鮮明になった様で、とても印象的でした。

Oct 19, 2005

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証人尋問

第２回公判は時間がかなりあいて、翌年２月５日でした。刑事裁判の流れを簡単に説明するとまず冒頭手続きになります。これが初公判で行なわれた裁判官による人定尋問、検察官の起訴状読上げ裁判感の黙秘権告知、被告人・弁護人の陳述等が行なわれます。その後、証拠調手続きが始まり検察官の冒頭陳述や立証、被告人・弁護人の立証が行なわれます。ここで物的証拠や人的証拠を提出することになり証人尋問もこの中で行なわれるものです。そして最終弁論で検察官から求刑が出され、弁護人の弁論や被告人による最終陳述が行なわれて裁判は結審となり、後に判決が下されるのです。ちなみに初公判が２００２年１２月３日で、判決は２００４年１月１３日。最初の裁判で丸２年かかったのですから、本当に裁判は時間がかかります。松文館裁判は投書から事件が始まったとは言え被害者が存在しなかったので被告である社長が一番精神的負担が大きかったと思いますが、事故や事件で家族を亡くされた被害者は、公判の長い時間を色々な苦痛と闘わなければならないと思うと、気の毒の一言で片付けられない胸の痛みを感じます。松文館わいせつ裁判には、色々な方が証人として出廷されました。社会学者、刑法学者、精神科医、大学名誉教授、編集者。様々な肩書きを持つ方が、それぞれが研究されているジャンルの視点から「わいせつ」についてを話すのは何かの講議を聞いている様で、本当に勉強になりました。好ましい・好ましくないに関わらず、存在する表現についてを話す時にある人は憲法判断を語り、ある人は条例による規制の有効性を語ります。ある人は漫画と性欲の関係を話し、ある人は表現として性器描写の必然性を話します。そして、その人達は決して成人漫画に対して寛容ではないし好意的とも思えませんでした。ただ学者としての目で旦那が描いた漫画を見て「こういう表現があるのか」程度の反応であったり「この程度の作品」であったりで、冷静であった事は印象的です。私自身は、証言を聞いてから勉強をするという形だったので、もし当時から知識のバックグラウンドがあれば、もっと違う印象を持っていたのでしょうが繰り広げられる弁論の内容を把握するのが精一杯でした。印象強い証言については、少しずつこちらでも書いていこうと思いますが詳細な証言について興味のある方は「松文館裁判」検察証人尋問・弁護側証人尋問をご覧下さい。http://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Tone/9018/shoubun-index.htmlそれともう１つ、別の苦労が。傍聴席に警察関係者、特に旦那を逮捕した時にいた警察関係者の顔を見ると生卵をぶつけてやりたい！という気持になりました。たまたま斜後ろに座ってしまった時は呼吸が早くなり、発作でも起こすのではないかと自分で自分を落ち着けるのに一苦労です。そんな私の気持をよそに、旦那は彼と挨拶を交わします。今にも世間話をしそうな雰囲気です。「あの人、旦那を逮捕した人だよね？何でわざわざ自分から挨拶したの？」「うん？深い意味はないけど、あっちも仕事だったんだろうしさ。挨拶くらい、別にいいと思って」この、バカ！法廷を出ると同時に、人目も気にせずに怒鳴りました。旦那は、こういう人なのです。

Oct 17, 2005

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初公判

１２月３日午前１０時。東京地方裁判所５２８号法廷で初公判が行なわれました。東京地裁での裁判は、勾留理由開示公判の時からずっとこの法廷で行なわれたと思います。何度も通うことになりました。初公判と言っても最初は形式的なやりとりだけだろうと予測したので、行こうかどうかを随分と迷ったのですが、やはりこの裁判だけは全部自分で見ておきたいという気持が強く、旦那と出かけることにしました。傍聴人は毎回多く、開廷時間前にはすでに列が出来ていてすぐに満席になってしまいます。抽選が行なわれる程ではありませんが、予定時刻の２～３０分前には並んでおかないと、傍聴が難しくなるという状況が裁判を通して続きました。この日も数人が、入室出来なかった様です。検察官は西村金高検事が大抵１人で出席していましたが、実際には斉藤博志鈴木明子と３人体勢だった様です。直接公訴した東京地検和久本圭介検は関わっていない様だったので、この辺の検察側の担当振分けの仕方は良く分りません。西村検事の顔は何度も見ることになりますが、おかっぱ頭の平安美人風モアイ像と私が描写したのに、旦那は分らなくもないと一定の理解を示してくれたので、そんな風貌です。裁判の資料を風呂敷包みで持参していたのが印象的でした。あれは検察の支給品だったのでしょうか。やはり良く分らない世界です。ほぼ予定時刻通りに席についた検察側から少し遅れて、弁護人と被告人である社長が入廷しました。保釈されているので、警察が横に着くことはありませんでした。松文館側の弁護人は岡本敬一郎、望月克也、山口貴士の３人で、旦那達が逮捕された当時から変わらないメンバー構成です。そうして裁判官の登場。起立の号令で立ち上がり、一礼。裁判長中谷雄二郎判事、両脇に横山泰造判事、田岡薫征判事が着席します。この中谷雄二郎判事は、かなり世間の注目を浴びた早稲田大学の集団レイプ事件スーパーフリークラブの裁判長でもありました。後から知った話ですが裁判長がどんな人になるかで随分と流れが変わるそうです。つまり今回の中谷裁判長は倫理道徳を重んじる方で、猥褻関係には厳しい見方をする裁判官という話しが聞こえて来ていたので、何かと厳しそうだと旦那もこぼしていました。判例主義を通す裁判では、中々画期的な判決が出ないだけでなく、時代風潮を汲んだ判決というのも出にくいという事になるので裁判長が特に事件に対する理解が無ければ、有利な材料はほぼ無いということになるのでしょうか。社長も裁判について「創」という雑誌誌上で「国と闘う為でなく、線を探す為の裁判」と話されています。写真と文章を比べると、判決から文章の方がわいせつのラインが下という判断をされている事が分ります。（文章は罰金写真は懲役の判決が出ています）このラインが引かれると、裁判所ではこれを基準に判決を出して行く訳です。この時点で絵であるエロ漫画は写真とほぼ同等な扱いを受けていました。実写と違う絵を、文章のわいせつラインにまで引き下げることが、社長の狙いだと言うことだったのです。実際、罰金刑で済む犯罪であれば、警察の摘発数もぐっと減るらしいので業界としてはかなりやりやすくなる訳です。裁判長が被告人に対して、氏名・生年月日等の質問をして、黙秘権行使の説明をした後、社長と弁護人の陳述が行なわれ、検察側の冒頭陳述が始まりました。長い裁判の始まりです。

Oct 14, 2005

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社長釈放と、接触禁止のおまけ

松文館社長が釈放されたのは、１１月１３日のことでした。旦那達の釈放から１ヶ月近くも経ったことになります。しかも後から本を読んで知った事ですが、闘うと宣言した時点で追起訴や再逮捕で勾留を長引かせるという手段を検察側は取っていた様です。具体的な話しで出されていたのは、松文館が書店に単行本「密室」の返品を依頼し、その回収分を保管している事を取り上げて「わいせつ物販売目的所持」の容疑にあたると言って、再逮捕をちらつかせたと言うのです。言いがかりというのか、嫌がらせというのか。そう言えば以前、オウム真理教の信者を逮捕した警察が、カッターナイフを持っていたのを、危険物所持だったか銃刀法違反だったかを適用した事がありました。確かに刃渡り１５センチ以上ではありますが、こういう逮捕がまかり通るのかと心底驚いたし、信者を取調べる為にやむを得ない事だったとは言え、こんな風に逮捕する警察に恐くなったのも事実です。下手すると社長の勾留は、初公判まで続くのではという予測もありました。保釈申請を却下されるたびに、準抗告を続けていたそうですが「なかなか覆せない状況が続いた」とあります。幸いな事に裁判所は保釈を決定し、検察側からの準抗告が即却下されて社長の保釈となったのです。私達も喜んで、ぜひ出迎えの中に入ってご挨拶をと思ったのですが出来ませんでした。と言うのも、裁判が終わるまでの間、旦那は社長との接触を禁止されてしまったのです。不可解な決定ではあります。なぜなら編集長との接触については一切お咎め無しですし、そもそも既に罰金刑になっている旦那が接触したとして何がどうなるというのか、全く理解出来ません。事件前も原稿の受け渡しで松文館へ行っていましたが、旦那が直接社長とお目に掛かる事は無かったというので、大きな問題は無いのですが連載を再開させた始めの頃は、会社の外で原稿を受け渡しをしたそうです。でも面倒臭いし、顔を合わせなければ問題は無いのだからと言うことで結局今まで通り、会社で直接原稿を受け渡しをする事になります。社長と編集長の接触の制限は無し、旦那と編集長との接触の制限も無し。編集長が間に入ってしまえば、間接的な接触は可能になってしまいます。一体、何を意図しての決定だったのか、未だに謎です。この決定のお陰で、裁判後に行なわれる説明会に参加する事が出来なくなり弁護士から公判の解説を聞く機会がなくなりました。１つの制限が他の行動の制約になって、例え聞かなくてよいものでも聞くという選択が出来ない状況は、かなり不愉快なものでした。

Oct 13, 2005

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失業の不安と旦那の宣言

もうひとつ大きな誤算は、旦那の仕事がごっそりと無くなったことでした。勿論、仕事が減るだろうとは予想していましたが、藤原ひさしというペンネームで描いていた、ごく普通のイラスト仕事も次々とキャンセルされしかも旦那の名前を一切出さないで絵だけ使っていた会社や、身内から伝で仕事を依頼して来た人までが「今回の事で、こちらも色々とあったので・・・」と仕事を断るのを見て、やはり考えが甘かったと思い知らされました。何より不安だったのが、収入がどうのと言うよりもむしろ旦那が絵を描く仕事を続けていけるのかどうかという事でした。松文館は裁判中に旦那を切ることはしないと思いましたが、裁判終了後はどうなるか分らないと思いました。やはり「わいせつ」という肩書きを食らった旦那は他の作家さんに比べて色々と制約が出て来るから、お荷物になるのは事実です。経営が悪化する中で、そんな作家を使い続けるとはやはり思えませんでした。松文館から仕事が来なくなることも考えておかなくてはいけないけれど普通のイラストレーターとしての道が閉ざされてしまったとしたら絵で食べて行くことは、一気に難しくなります。旦那に仕事が入って来なかったら、別の仕事を探す事になるのでしょうが自分の腕１本で仕事をして来た人だから、絵以外の仕事を旦那がするなんて考えられません。正直に言えば、会社勤めが出来ると思えなかったのです。何にどんな対策を取れば分らない時、実家は転職を勧めてきました。福祉関係の資格を取れば、就職先は何とか探すから。絵を描きたければ、兼業の様な形にして続ければいい。とにかく今度の様な事で、２度と心配を掛けないで欲しい。そんな話しが電話や手紙で何度か出た後、旦那がキッパリ言いました。「自分は絵の仕事をメインに続けていくし、辞めるつもりも無い。それで迷惑を掛けることになるなら、嫁さんの姓に改名してもいいから」宣言の翌日には、御両親が揃ってアポ無し来訪をしました。私は別室に隠れて、同じ様な会話が続くのを聞いていました。意外と言っては失礼ですが、旦那はそんなに絵を描くのが好きなのかぁと感心しました。３度の飯よりも好きという程では無いにしても、自分の生涯を通じて続ける仕事は絵と決めているのを知って、へぇと思います。普段は呑気で余り自分の事を口にしない人だから、こういう事態になって初めて強い決意を聞くことが出来ました。悪い時に起こる珍事だ、良いものを見たと私は面白く思っていました。結局、事件から半年過ぎた頃にはイラストの仕事も入って来るようになって今では以前よりも仕事数は増えています。漫画の仕事がメインになった時もそうだったのですが、どうも私達は１つの大きな転機を迎える時、トラブルという形で準備させられる様です。ペースとしては２年に１回。昨年は娘の出産という形での節目でしたが来年も又、変化を迎える事になるのかもしれないと、漠然と考えています。「死ななきゃ、何とかなる」私と旦那の、合い言葉です。

Oct 11, 2005

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止まらない怒り

旦那が日曜日の夕方、私よりも少し遅れて帰って来ました。実家でどういう事を言われたのか、それについて一言も触れようとしなかった事が一方的に責められた事を物語っていて、結局は事実を知ろうと言うよりもむしろ、社会道徳に反する恥ずべき仕事をしていると説教目的だったこと、そして私の反抗的な態度について一言文句を言っただろう事が容易に想像出来ました。そして弁の立つ人では無い旦那は迷惑を掛けたという負い目もあって、ただ黙って聞いていただけだろうと思うと、更に腹が立ちました。私の気持が軋み始めます。面倒な事を旦那が全部済ませてくれたのだから、もう落着くんだと安心する反面、私のお願いを聞かずに実家へ行った旦那に対して、どうしても信用出来ない気持が生まれて不安定になります。そして段々と旦那実家の反応が、世間一般の反応に思えてしまい私は日中、人目が気になって外へ出られなくなります。みんな旦那の逮捕を知っていて、陰から見ている様な不安に襲われました。出かけるのは夜中近く。深夜１時まで営業しているスーパーで買物をしてご近所の人と決して会わない様にしました。それでも徐々に深夜の外出も苦しくなり、とうとう１人での外出が無理になります。裁判の傍聴へは這うようにして出るものの、それ以外は全く引きこもり状態です。そして大きな誤算がありました。旦那が実家へ行った後も、実家からの電話は間を置かずに掛かって来たし手紙やハガキが届き、時には何の連絡も無く来訪される事もありました。次々と送られて来る野菜、ひさしの声だけ聞ければ安心するから１人で外出した時にでも、こっちへ電話をくれというハガキの文面。大抵は旦那の母親からでした。息子の事が心配で心配で仕方が無いので自分に出来る事をとにかくして上げたかったのでしょう。でも私はその気持を汲むことが出来ません。半狂乱で当り散らしました。「お前も、お前の両親も、私の事なんかこれっぽっちも考えてないし自分の息子にだけ会えればいいと言うなら、離婚してやる。独立して一家の主になった自覚もない、お前も同罪だマザコン男！母親の元へ帰れ、バカ野郎！藤原姓なんて、くそくらえ！お前に送られた野菜なんか、誰が触るもんか！」こんな言葉を自分が疲れるまで全力で叫び続けまがら、物を投げ付けあちこちの物を蹴り飛ばし、滅茶苦茶に泣きわめくのを想像して下さい。旦那実家からの接触があった時だけでなく、旦那との会話の流れで直接でも間接でも実家を連想するとスイッチが入ります。発作の様に怒ると、今度は反動で力が抜けて何も出来ません。夜も苦しくて眠れないし、旦那といても腹が立つし、そのくせ淋しいし何をどうしていいのか、さっぱり分らなくて自分を制御することが全然出来ませんでした。今から思うと、神経症だったのでしょう。自分もカウンセリングを受ければ楽になるのでは、と少し思ったのですが人に会うどころか、外に出られなくなったので、どうにも身動きが取れませんでした。私が壊れた時期は、元凶になった自分が消えてしまえばいいのにと思ったと言っていました。

Oct 9, 2005

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家族会議への招待状

２４日、夜のことです。一通のファックスが届きました。旦那実家からのもので、家族会議だか親族会議だか分りませんが、とにかく夫婦で２５日（金）から２７日（日）まで、話しをしたいから来いと書かれていました。ひさしは必ず来なさい、しぇりさんも来るように。私は一方的な通知に納得が行かず、旦那に猛抗議です。私自身は休日勤務が基本のオペレーターだったので、旦那実家へ行くには会社を休まなくてはなりません。それでなくても突発的な事が多かったので１０月はほとんど会社を休んでいる状態です。周囲に迷惑を掛けたので２６日・２７日は絶対に出勤する予定でした。それが無かったとしてもこちらの都合も聞かず、釈放されて３日と経たない旦那に命令口調で「必ず来なさい」という神経も信じられません。自由業で気楽な身分だから会社勤めをしている自分達に合わせるのは当然、という傲慢な心がある様な気もして、更に面白くありません。ですが、向こうの言い分を考えると「迷惑を被ったのだから、事情説明に一刻も早く来い」という所だったのでしょう。私は旦那実家とどんな事があったのか、私がどういう対処をしていたのか相手が言って来た事やメールはどうだったのか。出来る限りの証拠を出して旦那に訴えました。それが無かったとしても、せめて来週にしてもらう様に頼んでくれと強く言いました。私自身ようやく戻って来た旦那と、少しでも一緒にゆっくりしたいと思ったのです。社長の裁判の経過だけでなく、仕事がどうなるか分らないのならば、年内は色々な事後処理や営業活動で、気を休める暇が無いだろうと予想しました。だからこそ、今月くらいは２人で気晴らしをしたいと考える事は、そんなに非常識な事なのでしょうか？そういう事も含めて、私は強く延期を求めたのです。でも旦那は、行くことを決めました。「嫌な事は先に済ませた方がいいし、これで最後にしてもらえるんなら行って終わらせて来るよ。君は実家に行く必要はないから」そうは言っても、残されるのが嫌でした。子供が留守番を嫌がる様を想像すると、あの時の私の状況にぴったりと当てはまると思います。あれこれ言って、とにかく止めてくれ、延期にしてくれと言い続けました。「あなたは両親や兄弟にばかり気を使うけれど、私の事はどうでもいいの？２２日間待ってたんだから、今更３日程度の留守番はどうって事ないと思って、又、私を待たせるんだね？」そこまで言いました。でも旦那の考えを変えることは出来ませんでした。旦那の言い分は、これ以上私に迷惑を掛けたくないから１人で済ませるというものでしたが、そんな気遣いは嬉しくも何ともありません。旦那は土曜日に出勤する私を見送ってくれました。仕事の最中も、もしかしたら旦那は考え直して、家で待っていてくれないかそれだったら、どんなに嬉しいかと思ったのですが、出迎えてくれたのはやはり犬２匹だけでした。やっぱり、ね。もう感情は動きませんでした。旦那実家の人達が、私に対して最低の評価を付けた事は間違いないですし私自身もその点について名誉回復したいと言う気もなく、この先あれこれと言われる様ならば藤原の姓を捨てて、２人で私の実家の姓に変えることも考えていたのです。だけど旦那が実家ばかり優先するのならば、私１人の改姓で済みそうだと思いました。入籍後の手続きを思い出し、又、あれを１人でするのかと煩わしくなって、別居だけでもいいかなとも考えます。旦那の帰宅を待ちわびる気持より、投げやりな気持が強い夜でした。

Oct 4, 2005

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旦那が喜んだもの、嫌いになったもの

翌日、旦那は１０時頃に起きて少しすると、テレビを見始めました。警察では当然テレビなんてありませんから、だらだら見られる状況に戻った事が嬉しくなったのでしょうか。「普通にテレビを見られるんだなぁ」可笑しそうに言ったのが、逆に印象的でした。好きな時にテレビを見て、外に出掛けて、色々な本を読み、夜更かしする。好きな絵を描く、話したい人と好きな時におしゃべりする。日常では当り前の事が全て制限されていたので、どれも新鮮で有り難く感じられた様でした。私にしても、家族がいる普通の生活が本当に有り難いものに思えます。旦那が殊の外喜んだものは、生野菜サラダとお茶でした。警察では野菜類がほとんど無く、お弁当のつけ合わせ程度しか出て来なかったので、ましてやサラダは一度も食べられなかったそうです。大きなサラダボウルを抱え込むようにして、野菜をむしゃむしゃ食べる様子は、飢えきった人が食事をむさぼる姿さながらでした。これからしばらくは、野菜をメインにしよう。手付かずのままになった他のおかずをつまみながら、ちょっと思いました。そして白湯しか飲んでいなかったから、お茶があるだけでも嬉しいと言う旦那に、ひっきり無しで我が家にあるお茶を出し続けます。買溜めしてあったお茶類が、半月もしないで無くなりました。以前に書いた事ですが、旦那にお弁当を注文したのかどうかを聞いて出された物しか食べなかった事実を知ったのはこの時でした。そんな状況なのだから、何か頼めばいいのに。お金だって充分に渡していたのに。ついそう言ったのですが、留置所から出た後で定期的に入っていた漫画の仕事が無くなる可能性も考え、旦那は節約に務めたのかしら？と頭の端に浮かびましたが、何となくとしか答えない旦那に、それ以上の話しはしませんでした。以前と変わらない旦那ですが、留置所での記憶が蘇ると言って１つだけ嫌いになった物があります。それは吉幾三。彼には全く罪はないのですが、CMソングを歌う彼の姿がテレビに映る度に旦那は気分が悪くなったそうです。留置所内でよく耳にするのが演歌らしいのですが、中でも雪国が繰返し流れていた様で、その影響から嫌いになったそうです。休憩時間というのか、自由になる時に流れていたのでしょか？演歌の侘びしい情景が、留置所生活の慰めになるとは思えませんが留置所や刑務所には、やはり演歌が似合いそうです。今では随分と落着いていますが、当時はドキドキすると言った程なので一体、何がどんな記憶に繋がるか分らないものだとしみじみ思いました。夫婦で嫌いになったものは、警察、午前に突然鳴らされるチャイム。それと私に限ってですが、電話。未だに、関係改善をはかれないでいます。

Oct 3, 2005

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リアルな噂話し

裁判が進む中で、関係者が囁く噂も多くなったのですが、ここで先に書いておこうと思います。よく耳にした大きな噂は、２つありました。１つは、やはり同業出版社から刺されたのではないかという噂です。売り上げが好調で、業績を伸ばしていた松文館を蹴ろうとしたとか人気作家を独占しようと専属契約を始めたことが切っ掛けではないかとか警察の要望で発足した出版倫理懇話会という団体に所属したいなかったから「生意気」と取られて、匿名電話と共に告発をしたのではないかとか。色々な憶測や話しが飛び交いますが、残念なことに事実関係の確認は一切されていません。どんな思惑があろうとも、会社だけの摘発で済まず漫画家まで一緒に逮捕されてしまったので、もし同業者がやった事ならば自分達の首まで絞めてしまったことになります。そしてもう１つ、警察が天下り先の関連会社設立を目論んだという噂です。「ビデ倫」という言葉を目にしたり、耳にしたりする事があると思いますが正式名称は「日本ビデオ倫理協会」と言い、１８禁やR指定をつけるのがこの団体です。ここの審査を受けないとビデオ発売が出来ない訳ではなく一応、メーカー側の自主審査機関となっており、ここの審査を受けていない作品がインディーズとなる訳です。アダルト作品に規制をかけてわいせ物にならないようにする組織ですから、当然ながらビデ倫審査作品からは警察に摘発された作品はありません。このビデ倫の委員は一体どんな方々なのか。ほとんど警察OB関係、つまり天下り会社と言う訳です。齡６０を越えるおじ様方が、アダルトビデオを鑑賞している図というのはなかなか面白そうではありますが、まだ性欲旺盛な若い世代に冷静な判断が下せるかと言われれば、なるほど、事件などの経験豊富な警察OBが担当するのも説得力があります。でも実際のところ、ビデオについて何かの見識が必要かどうか。機械的にモザイクの施しをしているかどうかのチェックだけではないのかと思います。芸術性の高い作品に関してはヘアヌード解禁になっていますが社会の変遷や芸術性の審査を、どの程度しているのかは怪しいものです。結局警察OBの受け皿でしかないのではないのか。そんな疑問も浮かびます。同じ様な会社を作ろうとして、その鉾先がエロ漫画に向かったという噂は妙にリアルな話しです。例えば出版社から発行する単行本１冊につき審査料を請求する。もしくは発売する単行本全てに、１枚１０円程度のシールを貼るようにさせる。そうするだけで莫大な収入が得られます。ましてや本に貼るシールにすれば、版を重ねる毎に収入が入りますからこれ程、美味しい仕事はありません。仕事内容と言えば、持込まれた本に目を通すだけ。こんな言い方をすると語弊があるかもしれませんが、エロ漫画に芸術性が特化した作品は滅多にないのですから、性器部分のモザイクが施されているかだけを見て薄い場合にのみ注意勧告を促せばいいだけです。一連の裁判が終了した後、警察はどう動くのでしょうか。出版倫理懇話会の所属が、出版社に強制されるかもしれませんし新しい組織が作られるかもしれません。いずれにしても警察が積極的に介入する時には、彼等に何かしらのメリットがあるのです。

Oct 2, 2005

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ひねくれ主婦のニュースの見方

杉村太蔵衆議院議員に関する特集が、ワイドショーで頻繁に見られます。議員の年収を話したり、BMWを買いたいだの、料亭へ行きたいだの良く言えば無邪気で率直な、悪く言えば幼稚で軽率な喋りから多くの注目を集め、新人議員としては異例の反省会見を行なっていました。それに対する有権者の反応も様々で、良くも悪くも目立つ新人です。好き・嫌いに関係なく、社会人４年程度の人が、一体何の目的や使命を胸に立候補したかと考えると、申し訳ないけれども名声と金でしょ？と思います。BMWを買うのも、料亭へ行って接待を受けるのも本人が貰うお給料ですから、文句もありません。でも「お父さん、お母さん」ではなく、きちんと「父、母」と言える最低限の敬語は身に付けて来なさいな、と呆れてしまいました。その点、故・小渕元首相の娘は二世議員という事もあるだろうけれど、やはり落着いていたというのか、良くわきまえていたのだなと思います。これから勉強をするはいいけれど、最低限身に付けておいてしかるべき物も知らない人が、国会議員かぁと新鮮な驚きを覚えました。ところで反省会見の開催に違和感を覚えた方は、いらっしゃるでしょうか。そもそも何故、あれ程のセッティングを自民党幹部が行なったのかと少々不思議に思っていました。新人だし、上がこっぴどく怒って再教育をして、マスコミからシャットアウトすればいいだけの話しです。いくら自民党が面接を重ねて選んだ候補者だとしても、少し大仰な記者会見に、何かあるのではないかと思わずにはいられませんでした。マスコミも暇なのねと軽く流して、興味もないのでテレビを消しました。ワイドショーも落着いた、その日の夕方。夕刊を何気なく見ていると「青木幹事長、日本歯科医師会１億円献金事件の証人喚問行なわれる」小さな記事ですが、そう書かれていました。偶然でしょうか？今日は「影響力のある大した青年だ」と褒められているあたりが余計にキナ臭さを感じさせます。上手くマスコミの目を引いてくれたそんな言葉が裏にあるんじゃないの？と、ひねくれ主婦は茶を飲みながらニュースを聞いていました。偶然にしては、出来過ぎたタイミングというのが、他にもありました。民主党議員の覚醒剤使用者逮捕が初国会前にありましたが、実はこの人の内定調査は８月頃から行なわれていたそうです。警察はなぜ、あのタイミングで逮捕したのか。自民党圧勝の選挙でしたが、民主党がもっと議席数を伸ばしていたとしてその善戦後に逮捕報道があった場合に世論はどう反応したか。それでなくても民主党新代表が初の代表質問の冒頭で、民主党内の不祥事を謝罪する姿は、イメージとして悪いものです。あの逮捕は、偶然だったのでしょうか？マスコミが一斉に報道するニュースの裏で、実はもっと大変な事が起こっていることが少なくないのは、なぜなんでしょう？そしてタイミング良く不祥事が出されてしまうのは、なぜなんでしょう？今でも印象深いのは、民主党元代表の管氏が自身の国民年金不払い問題で騒ぎになり代表を辞めることになりましたが、結局あれは役所側の手続きミスと判明したにも関わらず、マスコミはその報道を全くと言っていいほど流しませんでした。どこかで誰かの意思が働いて、私達に伝わってくる主なニュースは、既に操作されているのではないのか。時々不安になります。コミックが初摘発された事も、北朝鮮拉致家族帰国に消されてしまい全くと言っていいほど認知されていませんが、平沢議員は拉致家族に対しての取組みに積極的な人でした。被害者意識からの勘ぐりだ偶然だと思いつつも、世の中のタイミング良い出来事に、釈然としません。（旦那の事が大々的に報道されなかったのは、良かったのですが）報道に対しての信頼を捨て天の邪鬼的な見方をしてみることは、中々に面白いものです。ネットで飛び交う噂話しの中にも、一考する価値のある物は少なくありません。根も葉も無い噂にしても、一つの報道を過信して受け身になるよりも、自分が意識的になれると思います。つまるところ自分の身を守るとは、自分の周りにある様々な事に対して意識を向けているかどうかになるのではないでしょうか？

Sep 30, 2005

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手紙を読んでも・・・

手紙は平沢勝栄氏に届き、彼が「こういう投書があった」と警視庁生活安全保安課へ転送したのが、摘発のきっかけになりました。この時、平沢勝栄氏は「捜査をしろとも、何も言わないで」転送したと新聞記事で読みましたが、警視庁OBから直々に来た案件を、現職の警官が放置出来ると皆さんは思われるでしょうか？縦の繋がりが強い社会で自分の行動がどういう風に扱われるかは、予想に難くないはずです。それは抜きにしても、この投書を読むと私はスッキリとしません。この父親は息子の隠していた漫画を見つけて、内容に愕然としていますがそもそも姫盗人は成人向け漫画と指定が付いていて、未成年は入手してはいけない性質の本なのです。それを息子が買っている事、もしくは安易に買える状況にある事にこそ問題があるはずなのに、いきなり出版社に対して規制する様に求めています。表紙を「子供っぽい」ものに細工してとありますが現在の漫画はアニメ調のものが主流で、昔の様な劇画調のエロ漫画はほとんど見られないのですから、姫盗人だけが特化して紛らわしい物とは言い切れないと、私は思うのです。それに、もし子供っぽい表紙で「うっかり」本を手にしてしまったとしたらそれは間違ってしまった本人にも、少なからず責任が発生してしかるべきと私は考えます。本屋の店頭を考えれば分る事ですが、成人向けが店頭で平積みされている事は、絶対にありません。コーナーが分れているのでいつも利用する書店であれば、どこに何が置かれているのか分るはずです。もしコンビニや駅構内の売店で、書棚のスペースが狭くて完全に分けられていないとしても、成人向けとなっている本を買ったのは本人の意思であって外からの強制が働いている訳ではありません。捨てることも出来ますし返品も場合によっては可能かもしれません。それを所持し続ける事は本人に読む意思があるという事、つまり、この高校生は自分の意思で本を所持していた訳です。まず子供の躾に、もしくは性的興味に親は向き合うべきではないかと私は思います。思春期の息子に向き合う自信のない、父親なのか。何かの事情で、性的要素を孕んだ情報を全て抹消したい人なのか。いずれにしても出版社や作者への抗議に向かわず、後援者という立場から政治的権力の介入を安易に利用した態度に、納得が行かないのです。ところで、この高校生の父親は何歳くらいなんでしょうか？「エログロ」という言葉を使っていますが、そんな単語を思い付くのかと不思議に思いました。私が事件の事を、関係者ではない年長者と話す時によく出るのは「ポルノ」「エロ本」「ビニ本」くらいなので、違和感を覚えるのです。それに、この男性。抗議の手紙を書く為に、雑誌をきちんと読んだのでしょうか。「近親相姦」「レイプ」などの単語が出て来るので少し苦笑してしまいます。漫画の中にある描写が、詳細で過激だけでも充分に伝わるでしょうに。自分の中で、悪い印象しかないからなのですが手紙の文章や極端な考えに、どこか稚拙な感じを受けてしまうのです。

Sep 29, 2005

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一通の手紙

まずは一通の手紙を全文、紹介しようと思います。拝啓突然のお便り失礼いたします。私は、高校２年生の息子を持つ一父親ですが、偶然息子の机の中に卑猥なマンガ本を発見し、その内容に愕然としました。タイトルは「姫盗人」発行者：＊＊＊＊発行所：（株）松文館〒１７１－００１４　東京都豊島区池袋＊－＊＊－＊　＊＊＊＊ビル３ＦTel　０３－＊＊＊＊－＊＊＊＊そのマンガは、男女性器は詳細かつ卑猥に描写され、その内容も近親相姦、母子セックス、レイプなど尋常ではありません。ヘアーヌード解禁になったのはよく承知していますが、こういった性器の具体的な描写を伴うような出版物の発売は、明らかに違法ではないかきっと取締機関の方で気が付かないだけだと思い、藁をもすがる思いで筆を執りました。大人向けの雑誌なら未だなんとかなります。しかし、この本は、表紙を子どもが普通に読んでいる子供っぽいものに細工して青少年が店先で買いやすいようにしてあり、購買層として青少年をターゲットにしているのは明白です。極めて悪質、巧妙です。青少年が、性に対する知識を、こういった近親相姦、レイプなど極めて不健全変体満載のエログロ本から得ることは、必ず性犯罪につながります。なんら、社会に与える影響など全く考慮することなく、金さえ儲ければいいという発行者の姿勢には強い憤りを感じます。また、本には、上述のように住所電話番号まで堂々と明記しさらに「過激さに自身あり」などと平気で書かれているのは取締機関への挑戦です。まだ日本は、刑法、都道府県条例などによってこういった本の発売は禁止できる良識ある社会だと確信しておりますのでどうか、こういった本に対し早急に調査をしていただき、発禁処分にしていただくよう強く要望します。このままでは、うちの息子のみならず日本の青少年の将来はありません。切に宜しくお願いします。敬具この手紙は８月中旬頃に出されたものと聞きます。上に紹介した文面だけでなく、雑誌「姫盗人（ひめどろぼう）」の内容を示すコピーが添付されていました。それが旦那の漫画の一部だったのが、摘発のきっかけになったのです。ところで、この手紙は警察に届いたものではありません。警視庁OB平沢勝栄議員の元に、後援者から届いた手紙と言われています。

Sep 28, 2005

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帰還祝い

靖子さんを待っている間に、旦那から電話が来ました。帰宅して１時間経ったくらいでしょうか。今更、何の電話かと思うと対応もぶっきらぼうになります。「ご家族との話しは済んだの？もっとゆっくりしてくれば？」憎まれ口を叩くと、旦那はもう所沢に着いていると言いました。着いてるならトットと帰ってくればいいのに。何もかもが燗に触ります。家から１０分程度の距離でわざわざ電話して来たのは、私が怒っているのは目に見えているから、少しでも早くなだめようと考えたのでしょう。旦那は身内と私の様子を見て、何かあった事はすぐに分かったと言います。でも身内を放って帰ったら、電話が来たり、自宅に押し掛けられたりしてきっとのんびり出来ないだろうから、少しでも話しを済ませておいた方が私にも負担を掛けないで済むと考えてくれたそうです。冷静に考えれば、迎えに来た両親や身内を放置出来る訳がありません。それでもです。私は自分を最優先して欲しかったし、してもらえると思っていたので、腹を立てているのです。我ながら子供じみていると自覚はあるので、自分のわがままを諭されている気もしました。旦那にそんなつもりが無いのは、百も承知なのですが怒りが収まりません。でも怒りをぶつける程の、力も出ません。大体この時間に帰って来ているという事は、身内と一緒にいた時間も３０分程度だったのではないかと思うと、早々に切り上げて帰って来たのが予想出来ます。旦那なりの配慮が良く分るので、余計に怒れません。「ずっと待ってたんだから、早く帰ってきなよ。靖子さんも、これから家に来てくれるんだから」旦那は分かったと言って、少し腰を痛めたのでクッションを買って帰ると言いました。最後の最後で旦那は、嫌な思いをさせてごめんと言いました。「でもこれ以上、今回の事でそっちに迷惑を掛けたくなかったんだ。今、自分の家族は君１人だしね。すぐに帰るよ」電話が切れてから、旦那はずるいなぁと思いました。上手く丸め込まれた気がするのですが、やっぱり早く帰って来て欲しいと離婚の事は既に、脇へ追いやられています。旦那の電話に続く様に、靖子さんから所沢に着いたという電話が入ります。駅に迎えに行くと、丁度買物を終えた旦那と一緒になって、３人と乳幼児で我が家へ向かいました。靖子さんは「お邪魔だから、このまま帰る」と言いましたが、せっかくなので帰還祝いを一緒にしてもらう事にします。「旦那が帰って来ないと思ったから、何の準備もしてないけど」可愛げの無い言葉を吐きながら、どこかに食べに行くかを打診すると家でピザを取ろうと言う旦那の提案で、その後はスムーズに進みました。靖子さんのご主人も、仕事が一段落した足で合流してくれました。旦那は疲れた様子もなく、逆に日常に戻って来れた事を実感しているのか心底楽しんでいる様に見えました。いつになく喋る旦那から、事件発端の詳細を初めて聞いたのは、確かその時です。

Sep 27, 2005

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帰宅後の騒動

紙袋を持って帰り、家に着いて犬に餌をやります。飼い主の思いを他所に、犬達は至ってマイペースで主人の帰宅と餌の時間を喜びます。それはそれで、心和む一時でした。電話を見ると、留守電が入っています。再生すると、私の母と靖子さんからでした。靖子さんはKさんの奥さんで、私の大学時代の同級生です。２人とも、旦那と帰還した頃だろうと、様子伺いの電話をくれたのでした。私は深く考えもせず電話しなくちゃと受話器を上げ、まず母に連絡します。電話を待ちわびていたのか、母は本当にすぐに出ました。「ああ、お帰りなさい。どうだったの？ひさし君は？」母は嬉しそうに聞きます。母の質問に対して別に変わり無い様だったと感想をそのまま述べました。その返答に、母は少し怒った様でした。「何よ、その変わり無い様だったって。帰って来たんでしょ？」「出て来たけど、一緒じゃないから。旦那の身内とお茶を飲んで来るって」母はしばし絶句して、がっかりだわね、と吐き捨てる様に言いました。そして、又、少しして切り出します。「あなた、もうこっちに帰って来る？」帰省するかという意味だけではなく、別れるかという事でした。「迷惑を掛けちゃうかもしれないけど、帰ろうかな」「いいよ。戻って来ても構わないから」私はとにかく、１度旦那と話してから決めることにしました。母と話して、私は初めて離婚を具体的に考え始めます。離婚という選択肢が出来たら、気が楽になった気がしました。空虚な安楽でしたが、負担が減った事は事実です。私はその勢いで、靖子さんに電話をしました。やはり旦那が帰って来たかどうかと、いの一番で聞いてきます。聞かれる度に心がカラカラしましたが、母と話した時よりも落ちついて「旦那は旦那実家の人達と一緒にお茶してから帰るって言って、私と一緒に帰って来なかったんだ」と世間話の様に言うと、靖子さんはどういう事だと声を荒げました。そして突然「今から、そっちに行くから！」と言い出します。「子供と一緒に電車で行くから、少し時間がかかるけど、待ってて」これには逆に、私の方が慌てました。「いいよ、夜も遅くなるし、大丈夫だから」「ダメだよ、何言ってるの！信じられないよ、そんな事。いいから待ってて、ちゃんと待ってるんだよ？」余りの剣幕に気押されて「靖子さんは熱い人だねぇ」と他人事の様に言うと「当り前だよ！こんな事ってないでしょう？藤原さんおかしいし」と私以上に怒ってくれました。・・・やっぱり普通に考えて、旦那の選択はミスだよなぁ。これは離婚をこっちから切り出しても、全然問題無さそうだ。私は彼女の反応を見て、別の確信をします。靖子さんは靖子さんで「これは離婚になるかも」と酷く心配して、とにかく今は側にいないとと１歳前のお子さんを抱いて、寒い中を駆け付けてくれたのでした。私がショックで家出してもおかしくない、そんな風に考えたのでしょうか。とにかく家にいる様にと、しつこく念を押されたのを覚えています。電話が終わった後、私は色々な事を考えました。友達の有り難さとか、親の有り難さとか。離婚手続きの流れは面倒そうだとか、旦那の選択を笑ったりとか。カバンの中に入っていた指輪を思い出し、捨ててやれば良かったとかなぜわざわざ、旦那の荷物だけ持ち帰って来たのだろうとか。思い付くと旦那の荷物が憎たらしくなり、リビングから旦那の部屋の奥へ思いっきり蹴飛ばしてやりました。

Sep 26, 2005

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帰り道

旦那と編集長が降りて来たのを見て、ロビーで待っていた社員や関係者が大きな拍手で迎えます。旦那の横には旦那両親が立っていて、拍手に対して深々と頭を下げてお礼を言っています。何で私がここで、旦那や旦那の身内へ拍手しているんだろう。私は遠い出来事の様にその様子を見ていました。旦那が私を見つけて寄って来てくれました。少し涙ぐんでいましたが私はもう余りの事態にバカバカしくなって、涙さえ出ません。旦那の母親も駆け寄るように近寄って来て、嬉しそうに私に言います。「しぇりさんも来てくれてたんですか、本当にありがとうね」私が来ないとでも思っていたのかと、毒づきたくなります。旦那父親は私の事を蔑むように横目で睨み付けて、ニコリともしません。彼の母親以外は、私に対して冷ややかな態度しか取りませんでした。「せっかくだから、どこかでお茶でも飲もうか」義母の申し出に、あなた方と過ごす時間は無いという皮肉を込めて「私は犬が待っているので、帰ります」と即答しました。そして旦那はどうするのかを、聞きます。「あなたは、皆さんとお茶を飲むの？」私は旦那は自分を選んでくれると思っていたので、旦那自身の口からはっきり答えてもらいたいと思いました。でも旦那の答えは、私の期待していたものとは違いました。「じゃぁ、俺は少しお茶を飲んで、すぐに帰るよ」弁護士から身内ともめて散々な目に遭っている事を聞いていないのか。それを抜きにしても、妻より実家を選ぶのかとがっかりしました。旦那が持っていた荷物の紙袋２つを、奪い取るようにして持つと「そう。じゃ、荷物だけ持って、私は帰るから」それだけ言って、とっとと歩き出しました。霞ヶ関の地下鉄入り口。階段を降りて、切符売場。そして改札。もしかしたら、追い掛けて来てくれるんじゃないか。やっぱり一緒に帰ることにしたと、来てくれるんじゃないか。そう期待していましたが、結局、私はすぐに到着した電車に乗り大きな紙袋２つを足下に並べて１人で帰る事になりました。私は何をやってるんだろう、荷物を見てぼんやりします。もしあの時。他人の目を気にせず、旦那の身内と対峙していたらどうなっていたのかを考えました。結局数で負けるか、若い私に我慢しろと弁護士が取りなしたか。いずれにしても、私の思い通りの再会にはならなかっただろうと思いました。旦那は私を選ばなかった。それは旦那に捨てられたと同義語に思えました。こんな最悪の再会になるなんて、夢にも思いませんでした。余りの事態に、ただただ感情が麻痺した様にぼんやりします。この後、どうしようか。昨日立てたプランは、全部旦那と一緒というのが前提でした。色々な事態を想定して４通りも５通りも考えていたのにどのプランも役に立たないものとなったので、何処にも寄らずに素直に家へ帰ることにしました。

Sep 25, 2005

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釈放前のトラブル

翌日、３時前に検察庁へ着きました。入り口にいる警備員に声を掛けられ、用件を言うと丁寧に案内をされます。建物の中に入り、ロビーへ行くと社長夫人や松文館の社員さん達そして弁護士さんもいらっしゃいました。簡単に挨拶をすると弁護士が旦那達が出て来る窓口の方へ、身内である私と恐らく編集長の親御さんを案内して移動することになりました。エレベーターに乗って少しした時、弁護士が急に口を開きます。「それにしても、ご主人はお父様に良く似ていらっしゃいますね。言われる前に、すぐ分りましたよ」少し可笑しそうな口調で、軽く言われたので何を言われたのかがとっさに分りませんでした。「どういう事ですか？旦那の両親が来ているんですか？」「ええ、身内の方が、もういらっしゃってますよ」血の気が引きました。本当に、顔が痺れる様に血の気が引きます。このまま会えば、私は絶対に相手を責め立ててしまうに決まっていますし向こうは向こうで、私に対して言いたい事を溜め込んでいるはずです。エレベーターをすぐに止めてもらって降りると、そのまま踵を返しました。１階へ戻り「帰ります」と言ったら社長夫人も驚いたご様子でしたが一番ご主人が会いたいのは奥様なんだから、ここで待っている様にとなだめて下さいます。夫人の声を聞きながらも、私は悔しくて腹が立って、震えが止まりません。面倒はこちら任せ、抗議文だの事情説明だのを強く言っておいて迎えにだけはちゃっかり来るなんて、図々しいにも程がある。汚い人達だと怒りが収まりません。何よりも旦那の身内と揉めている事を知っていながら、こちらに何も聞かずに釈放の時間帯を教えてしまった弁護士にがっかりしました。少しは気を使う事を考えないのか、バカめ。私はロビーで、泣きに泣きました。社長夫人が本当に親身になって宥めて下さいました。私は他の人達と一緒に、ロビーでぼんやり待ち続けます。４時を過ぎても、旦那達は姿を表しません。他の人達は、出て来た身内を迎えて次々と帰って行きます。「少し、遅いですね。どうしたんでしょう、何かあったのかしら」皆が、時間を気にし始めます。やっぱり戻って来れないのではないか。口にはしませんが、そんな不安も生じて来ました。実はこの時、社長が土壇場で「わいせつとは認めない」と態度を翻したので慌てた担当検事が、皆の釈放を取り消そうとしていたらしいのです。検事が到着した時には既に手続きが済んでいたのですが、裁判所の方が検察の上が更に動くのか、つまり再逮捕等の手続きを取るのかどうかを待っていたので、編集長と旦那は中々出してもらえなかったのです。本当に滑り込みセーフで手続きが完了していたという事になります。そして５時少し前。本当に最後の最後になって、旦那達が降りて来ました。

Sep 24, 2005

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柔らかい夜

旦那が帰って来たらどうしようかと、私は具体的に考え始めます。何をしたら旦那が喜ぶのか、思いつきません。でも久しぶりに吸う外の空気だから、疲れていない様ならば少しブラブラして、池袋あたりで食事をしてもいいかもしれない。でも甘い物を沢山買込んで、家でゆっくりお茶をする方が落着いていいのかもしれないしと、あれこれプランを立てます。ふと旦那に、結婚指輪を持っていかなければと思い付きます。逮捕の時に外すように言われた指輪は、ケースにしまったままです。緩くなってしまったので外した自分の指輪も一緒に並んでいます。眠っている指輪が持ち主の指に還れば、それだけで前のままの日常が戻って来るような気もしました。待ちわびた、主の帰還。指輪をしげしげと見ながら、感傷的になっていました。何だか泣きそうになってしまうので、ケースごとカバンにしまいます。しまって落着くと、今度は我ながらメロドラマ風な思い付きをしていると気恥ずかしくなってしまい、又、言い訳の様な別の計画が、あれこれと浮かんで来るのでした。そんな風に明日の支度をしていると、私の実家から電話が来ました。留守電になったままの電話から「しぇり、いる？」と母の声が聞こえて来ます。旦那が帰って来る事は既に連絡をしたので、何の用かと思いながら電話に出ると、「明日、ひさし君も帰って来るって言うから、２人でお祝出来るようにワインとチーズを送ったから。一緒にのんびりしなさい」思い掛けないプレゼントです。お礼を言うと、母は少ししんみりした風に「１ヶ月だけど、本当に長かったわよねぇ。あなたも疲れただろうから、気持だけの物だけどお祝いよ」と言いました。母のそんな言葉に、改めて１ヶ月の長さを思い返します。次に父が電話に換わりました。父は改めて、私に真面目な話しをするのが気恥ずかしかったのか、からかう様な軽口のどさくさで、「何も気にする事なんか無いから、彼が戻って来ても２人で胸を張って堂々としてろ。落着いたら２人でこっちに顔を見せに帰って来い」と、言ってくれました。私の身内からは、しぇりは犯罪者の嫁にされてしまったと批判的な声も出ていました。それでも事を大きくせず、私の選んだ人が間違いを犯した訳ではないと信用してくれた両親に頭が下がります。両親も共に悩んだ１ヶ月だったろうと思い、改めてお礼を言いました。「ありがとうございます、色々と迷惑かけてすみません」こんなに丁寧な挨拶は、結婚式の前にもしていません。本当に初めて口にした感謝の言葉だったと思います。事情はどうであれ逮捕された旦那に対して、何も言わずに帰りを喜んでくれる事が嬉しくて私はそれだけ言うと本当にしゃくり上げて、泣いてしまいます。母は一緒に泣き、「メソメソするな」と嗜めた父も、少し涙声でした。明日、旦那が帰って来たら報告する事を約束して、電話を切ります。その日も全く眠れませんでしたが、気持が温かくなり、柔らかい夜でした。この夜の穏やかな時間は、神様が与えてくれた休息だったのでしょう。旦那が帰って来て２人になった為に味わうことになった受難が、翌日には早速、降り掛かって来たのです。

Sep 23, 2005

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釈放前夜

１０月２１日、どうやら旦那が明日には帰ってこられると連絡が来ます。略式起訴での釈放と言うことで、有罪になる事は残念ではありましたがどう考えても無罪にはならないだろうし、改めて裁判を起こすにしてもとにかく１度外に出て、今後の方針を決定するという結論になったのです。事情が分らない部外者としては、プロの方針にお任せ状態でした。略式起訴は最高５０万円までの罰金刑で、法廷での言い渡しではなく検察が裁判所に供述書や証拠一式を提出して、裁判官が書面で略式命令を出すものです。略式命令に対しては、告知を受けた日から１４日以内に正式裁判を請求する事が可能になっています。日本では司法取引きは認められていないのですが、それに近い事は普通に行なわれているそうです。「略式起訴で済ませるから、調書を認めろ」そういうやり取りが、現に旦那や編集長の取り調べでもあった様です。逆に言えば調書を認めなければ正式起訴にして、保釈を認めさせない事も出来ると、そういう事です。編集長は社長が略式で保釈されるのが難しい状況と聞いて一緒に闘いたいという気持があり、旦那は旦那で悪い前例を作ってしまうと漫画の摘発が加速して、他の漫画家に迷惑が掛かるのではないかという心配から、やはり調書を認める事に少なからずの抵抗があったと聞きます。でも何よりも倒産という言葉が重くなって来た会社の経営を立て直す為にも２人は略式を認める事になったのです。社長も正式起訴にはなるけれど、すぐに保釈を認めるという話しが進んでいたと聞きました。前日夜に、私は社長夫人と電話でお話をします。社長だけ正式起訴になり３人一緒の保釈では無いので、心中複雑でした。ですがこの時、調書を認めて早く出る事を選択するのか、それとも最後までわいせつと認めず闘うのかで迷われていた社長に対して、夫人は「好きにやったらいい」という伝言を、弁護士に託していたと言うので長い闘いになることを、既に覚悟されていたのだと思います。社長と編集長がいない間の会社の運営をされ、私にも事あるごとにお声を掛けて下さり、細やかな気遣いをして頂きました。ですが夫人ご本人も取調べを受けて、逮捕の脅しを受けた事もあるという大変な状況を後から知ります。そんな中で旦那の保釈を喜んで下さった事を思うと今でも頭が上がりません。社長夫人という肩書きだけでなく、本当に人間の器が大きい方が、その立場になるのだと思い知った感じです。とにかく２２日午後３時から5時の間に釈放されるので、それまでに検察庁へ迎えに行くことになりました。その日は、お世話になっていた人達へメールを出したり電話をしたりしました。話しをしていても、旦那が帰って来るという実感が湧きません。気分は高ぶっているものの、帰って来た後の方が大変になるなと冷静な分析をする自分もいて、旦那に伝える事を考えます。旦那の仕事について、旦那実家が説明を求めている事。以前に仕事をした団体組織から、抗議文が送られるという話しがある事。旦那実家の人達が今回の事件で、皆、辞職を求められているらしい事。私は旦那の身内ともめて、関係が悪化している事。リストアップして、改めてうんざりします。でも理解ある人も沢山いるしここまでやって来れたから旦那さえ帰ってくれば、どうって事もないと思えるのです。明日からは旦那に相談して、色々な事を進められると思うとやはり嬉しくなりました。

Sep 22, 2005

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命の差入・カルピスバターの思い出

好きな時に寝て、起きるとカロリーメイトやお茶を飲んで、本を読む。文字を追うのが面倒になれば、本は漫画に変わり、なかなか書いていても贅沢な時間を過ごしていたのは事実です。食欲はなく、お茶だけで半日以上過ごし、お腹が空いてもカロリーメイト１本飲めば、もう何も欲しくありません。勾留理由開示終了後、カロリーメイト１本で丸２日間を過ごしています。あの時、体重を測っておけば良かったと思います。女の性と言うのでしょうか。体調を崩し、顔色が悪くなって青ざめていても「普段、これくらい色が白ければいいのに」と不謹慎でたくましい事をつい考えてしまうもので、きっと痩せていると分れば同じ様な論理で気分が良くなったのではないかとも思うのです。私だけの業でしょうか？さて、１９日の夜のことです。夜８時過ぎか９時前頃に電話がかかって来ました。先輩Aさんからです。旦那と同期の人ですが、勤務先の仕事が忙しく余り会う機会が無い人で珍しい人からの電話だと思いました。その日の話しは唐突でした。「今、近くの駅にいるんだけど、ちょっと寄るからお茶を飲ませてよ」急な話しですが、近くにいると言われたら断る事も出来ません。特に用事もある訳ではないし、まぁいいかと了承して、部屋を片付けます。片付けると言っても、ソファーの前の本をどかし、毛布を取れば完了です。お茶の用意をして待っていると、間もなくAさんが来ました。「突然、ごめんね」そう言いながら入って来たAさんは、袋をテーブルに置いて言います。「まだ俺も夕飯食べて無いから、一緒に食べよう」生春巻き、シュウマイ、トロピカルフルーツのこんにゃくゼリー。美味しいって聞いたから買って来てみたと言う、カルピスバターとパン。最後にアップルパイが１ホール出て来ました。豪勢な夕食になりました。そうして食事の時には何を聞く訳でもなく、買って来た食べ物の話しや流行についての話しで終始して、説教臭い事も全く言われませんでした。以前も、ぺしゃんこに落ち込んでいた時にサンドイッチとジュース、それにテレビでも見て気晴らししろと、新聞を取っていない私にテレビガイドを買ってくれた事があります。気遣いが、言葉通り身に沁みました。人と話ながら食べる食事は美味しく感じます。おかしなもので、食べ物を口にしたら初めて自分の空腹に気が付いた様になり、私は遠慮の欠片もなくパクパクと食べ続けました。一通り食べ終わってお茶を飲むと、もう終電間際の時間です。駅まで見送って、今度は旦那が帰って来たら一緒に食事をしましょうと約束をしました。この日、私は命の差入をしてもらった気がします。残ったパンとケーキ、アップルパイは腐らないうちに食べなさいねと忠告を受けて、置いていってもらいます。旦那が帰る日まで、その残り物で済ませる事が出来ました。カルピスバターはそんな訳で、今でも大のお気に入りです。

Sep 21, 2005

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大人の事情

勾留理由開示公判が済むと、本当に私がやる事はなくなりました。旦那に大きな動きがある訳でもなく、起訴・不起訴の決定が下される２２日までは、何もする事がありません。気が張っているのに、動けないというのは、中々の苦痛でした。何で苦痛を感じるのかが分りませんが、何かしていないと落着かないでも自分の気を紛らわせるものが、何も無いからなのでしょう。翌日、私は食べ物が本当に、全く無くなった事に気付きます。ドラッグストアで買溜めをしていたカロリーメイトさえありません。仕方なく食料の買出しへ出かけることにしました。最寄りのスーパーまでは歩いて１０分もかかりません。それでも億劫に感じます。大体何を買うのかも思い付きません。スーパーは空いていました。野菜、魚、肉、レトルト。それぞれのコーナーをゆっくりと回り目に付いて欲しいと思ったものを買おうと思ったのですが、どれもピンと来ません。又、カロリーメイトでいいかなと考えた時です。お菓子の安売りワゴンが設置されていて、徳用チョコが目に入ります。旦那が仕事の時に、必ず机の横にストックしているお菓子でした。私は反射的に手に取ってから、そのチョコをまじまじと見つめます。「今、買うこともないじゃん」そう思ってチョコを戻そうとした途端、底が抜けた様に涙が出て来ます。悲しいとか、辛いとか思ってもいないし、自分が泣いているつもりも全然ありません。それなのに、涙だけダバダバ流れます。私の感情を司る脳が、壊れた。本当に驚きました。その時です。「お母さん。あの人、チョコが欲しくて泣いてるの？」幼稚園くらいの男の子が、横にいる母親に話し掛けています。「どうして、泣いてるの？お金が無いの？」その母親と目が合います。少し気まずそうにお辞儀をした彼女は私と差程、年令は変わらない様に見えました。「しっ、いいの。大人には色々あるんだから」そう言って、「何で、どうして」と問い続ける子供の手を引いて歩いて行きました。気が付くと、何人かがこちらを見て見ぬ振りをして気にしています。持っていたカゴをその場に置いて、私は逃げ帰りました。色々な事があって、私は疲れちゃっているんだ。壊れた訳じゃなくて、自分の意思とは関係無く、色々な事が進んだからちょっと付いて行けなくなってるんだと、自己分析を続けました。私はカロリーメイトを、自動販売機で３本買って帰ります。家に着くと、私はサイドテーブルの前にカロリーメイトと、好きな本を数冊積み上げました。自堕落な生活をして、自分を甘やかす事にします。でも、まずは眠ろう。私はソファーの上に、犬達と横たわりました。犬達を抱き締めていると、体が温まって気分が落着いて来ます。犬の寝息を聞いているうちに、私はすぐに眠った様です。気が付いた時には、部屋は暗くなっています。横で眠っていた犬達はいつの間にか足下でお座りをして、食事の催促をしていました。

Sep 20, 2005

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コミケの偉い人は、リアル・ペディグリーチャム

裁判の内容が内容だけに、色々な人が傍聴に来ている様でした。話振りから、恐らく旦那同業者であろう方も見えましたし、出版関係の方も色々と来ていた様でした。私は松文館の社員を数人認識出来る程度で他に分る顔は無く、ロビーに集まった人の動きを見ながら、どういう人かを想像していました。その中で、少し興味を引かれる人がいました。私は年令を当てるのがとても下手なのですが、その私が見たところで４０から５０代位の男性です。服装はラフと言うよりもカジュアル寄りで会社員という雰囲気ではありませんが、漫画家という感じでも無いのです。ところがその人を見ると、ほとんどの人が挨拶をします。弁護士だけでなく松文館の社員や社長夫人までが先に挨拶をするのです。何かしら地位のある立場の人なのでしょうが、良く分りません。そして興味を引かれた最大の理由が、その人の顔でした。ペディグリー・チャムという、ドッグフードのCMをご存知でしょうか？「トップブリーダー推奨」というコピーが有名だから、「ああ」と思う人も多いと思います。そして、このCM。ブリーダーと犬が余りにも似ていてこれは何かのやらせだろうと、思わずにはいられません。好きだから似るのか、似ているから好きになるのか。柴犬だか秋田犬だかのブリーダーは、モーフィングで犬を人間にしても全く違和感がありません。出来過ぎな顔立ちに、素直に感動でした。さて、話しが脇にそれた感がありますが、その人の顔です。コッカー・スパニエルという犬に良くにているのです。目が大きくて、少し伸びた髪は軽くウェーブがかかっています。「この人がブリーダーだとしたら、絶対にコッカー・スパニエルしかない！リアル・ペディグリーチャムだ！」と私は密かに興奮していました。その人をつい目で追い掛けます。正体が分らないままですが、かなり強い印象を受けたので、次回の公判で見かけたら、その時は絶対に挨拶をしてお話を聞いてみようと決めました。さよなら、トップ・ブリーダー。気分はそんな感じです。家に帰り、関西のTさんと電話で話します。旦那の様子や公判の流れを一通り話した後、何かのはずみで私は「トップ・ブリーダー」の話しを始めました。有名人みたいだったけれど一体誰なのか分らなかったと前置きして、その人の特徴を伝えます。Tさんは少し驚いた風に言いました。「しぇりさん、それ多分、米沢さんだと思うよ」「米沢さん？誰ですか、それ？」「ええと、コミケの偉い人」「！！」毎年２回行なわれる、同人誌販売会で有名なコミックマーケット。延べ人数２０万が動くと言われる、本当に大きなイベントです。同人誌の中にはアダルト専用本が多くあるので、最高責任者も今後の動向はやはり気になって傍聴に来ていたのでしょう。どうりでと、他の人の対応に納得が行きます。それにしてもリアル・ペディグリーチャムと喜んだ勢いで下手な挨拶をしなくて本当に良かったと思いました。以前にも旦那に便乗して参加したパーティで、声優をしている方に「正露丸糖衣AのCMに出ている方ですか？」と聞いてしまった事があって、そんな事を言われたのは初めてだと笑われました。手品でもしそうな楽しいおじさんだなと思って、長々とつきまとい話しを聞かせて頂いていた人は、初代ブタゴリラの声をしていた有名大御所声優さんでしたし、私が抱く突飛な第一印象は、一歩間違うとかなり失礼になった可能性があったのです。その事も合わせて思い返し今後は気を付けようと、しみじみ思いました。それでも、コッカー．スパニエルに似ていると思うんです。コミケの偉い方は。大体、リアル・ペディグリーチャムと説明してTさんが分かった位なのですから、間違ってはいないのでしょう。きっと。

Sep 18, 2005

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公判終了後の説明会

法廷の外は傍聴に来ていた人達がそれぞれに集まって、話していました。そこに弁護士が、裁判について説明をするから弁護士会館へ移動する様にと声を掛けて来ました。専門用語も少なからずあり、何よりも警察側からの理由開示が何も無く釈然としない事が多かったというのは、皆の共通する感想だったのでしょう。関係者の半数以上が、東京地裁に隣接する弁護士会館へゾロゾロと移動して行きました。その様子はツアー客の様で、少し奇異な風景でもあります。１階のロビーで待っていると、遅れて３人の弁護士がやって来ました。そして、代表弁護士が椅子の上か何か、高い位置に立って話しだしましす。まず平日の日中から、沢山の人が支援表明の傍聴に来てくれた事に対してのお礼を述べました。検事も満席になった状況に、驚いていたと言います。そもそも勾留理由開示で、勾留理由や証拠開示をしないのは一般的な事で検察官から何も聞けないというのは、いつもの事なのだそうです。だから公判は、被疑者への支援表明と検事への圧力掛けがメインの目的でそれは充分に達成されたと言う事になります。その後、今後の見通しは決して甘くない事を言い、２２日には起訴・不起訴が決まる事になるがどういう決定になるのかが分らないと言いました。とにかく早期に身柄を自由にする事に全力を上げると、弁護士は言葉を続けます。一通りの説明が終わると、傍聴者から被疑者に対しての支援をどうしたらいいのかと質問が出ました。とにかく会社が倒産したらどうしようも無いので、本を買って欲しいという事と、逮捕された３人へ差入も出来るから本や手紙等を弁護士事務所で受け付ける事を言いました。（家族のものは渡さなかったくせに）と毒づいたのは秘密です。その説明を聞いた友人Iさんが、その場で託した手紙も、代表弁護士は手持ち無沙汰にペラペラと遊ばせています。「ホントにコイツは」と溜息です。旦那の宛名が書かれた手紙が、弁護士の手元でいつまでもヒラヒラしています。最終的に、この手紙は無事旦那に読み聞かせられたそうですが、旦那が依頼した３冊の本を始め、支援者の本は全く届かなかったと聞きます。恐らく社長と編集長へ、一括して届けられてしまったのでしょう。話が全て終わり、私は弁護士に言われていた旦那の職歴一覧を手渡します。その際に、身内の退職話しや団体から出されるという抗議文についてをどう対処するべきかを相談しました。もし具体的な動きが出たら、事件から派生したトラブルなので一緒に対処すると約束を頂き、まずは一安心と言ったところでした。旦那が帰って来たら個別案件として、改めて別口で依頼することにして、起訴・不起訴が決定する２２日までの居留守延長を決定しました。それでも帰ったら、旦那実家へ今日の様子だけは伝えようと思いました。傍聴に来ない人に伝える筋合いも無い気はしましたが、こちらがやる事をしておけば、それ以上文句を言われる事も無いだろうと、最低限の防衛策を取る事にしたのです。ＦＡＸで公判の様子を伝え、ついでに義理家族との連絡を一切絶つこと、何かあれば直接弁護士へ連絡をして欲しい旨を書き添えました。これで本当にやる事の全てが一段落します。「果報は寝て待て」の状況に入ることになりました。

Sep 17, 2005

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勾留理由開示公判閉廷

弁護士の意見陳述が終わり、とうとう閉廷の時間を迎えました。これで旦那とは、又、一週間近く会えなくなります。裁判長が傍聴人に退席を促します。法廷を出て行く人達が、被疑者達に声を掛けて行きました。「頑張って下さい」「応援していますから」そんな言葉が投げかけられますが、裁判長は静かに退席する様にたしなめます。それでも支援を表明する声は、途切れませんでした。私は手を伸ばせばすぐに届きそうな位置で、旦那が再び、手錠と腰縄を付けられる姿を、座ったまま見ていました。旦那は俯いて、手錠を付けられる自分の腕を見ている様でした。「待ってるからね」声が届くかどうか分りませんでしたが、聞こえる様に願いながら私は旦那に声を掛けました。「家で、ちゃんと待ってるから」旦那の俯いた横顔しか見えませんでしたが、少し涙ぐんでいました。裁判長が何度も、速やかな退席をする様に言います。私は諦めて、席を立ちました。扉の前でもう１度振り返ると、旦那はもう立ち上がっていて警察官に挟まれている後ろ姿しか見えませんでした。旦那に声が届いたかどうかも分りません。向こうの思っている事も私には分りません。それに今後、旦那がどういう扱いになるのか。勾留延長が終了する時に、保釈されるのかどうか。このまま、会えなくなるのではないのか。大きな隔たりを感じた為か、弱気になって涙が出ます。法廷の外で、傍聴に来ていた旦那の友人３人と合流しました。旦那の意見陳述が無事終わった事を、とにかく皆で安心しました。裁判長も旦那の意見陳述の時には、身を乗り出す様にして、親身に聞いていた様に見えたと、同じ感想が出ました。そして今後どんな展開になって行くのかを話して、少しだけ重い空気の流れになりそうでしたが「エスとパー」のKさんがでもさ、と口を開きます。「藤原、何だか顔色が良かったよね」皆が一同に頷き、大爆笑になりました。「規則正しい生活してるからなんだろうけど、すげー顔に艶があって健康そうだから、ちょっと笑ったよ」「やっぱり締切り前の徹夜が無いのが、大きいんだろうな」そんな言葉が次々と出て、法廷に不釣り合いな無い笑い声が上がります。辛いは辛いだろうけど、精神的に追い詰められてやつれる程の苦痛は無さそうだと言う事で、ヤツは大丈夫だと言う結論になりました。思わず、泣き笑いです。曇り後、晴れ。そんな１日。傍聴に来てくれた友人達に、ただただ感謝でした。

Sep 16, 2005

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弁護士の意見陳述

旦那の意見陳述が無事終わると、私は目的を全て終えた気になってしまい弁護士の意見陳述については、言葉が耳に入るままに任せるだけできちんと聞いていませんでした。でも弁護士の話しを簡単に言えば被疑者３人が争うのは単行本「密室」が刑法１７５条に定めるところの「わいせつ」図画に該当するか否かについては争う事を改めて言い、摘発の問題点を、過去の判例を幾つか上げながら主張していました。わいせつ文書・図画がいかなる物かを定義した、有名な「チャタレー裁判」そして、わいせつ性の判断について判決で示した「四畳半襖の下張り」わいせつ裁判で余りに有名な事件が上がります。他に書籍や新聞雑誌、ネット等で容易に見られる性行シーンを上げてわいせつ性に対する社会通念の変遷を言います。小説、写真、映画。様々なジャンルで、芸術かわいせつかが争われました。私達は手に取って普通に楽しめる状況にありますが、わいせつ性が問われた作品には大島渚監督「愛のコリーダー」がありますし、メイプル・ソープの写真集も含まれていたのです。芸術であっても、わいせつな物はある。そういう理由で、規制を受けた作品も数多くあります。そうして今度、初めて漫画が摘発の対象になったのです。社長が意見陳述で「漫画が捕まった事で、ようやく市民権を得た」と言われましたが、これは皮肉だけでなく、漫画が芸術として認められるのかただの消費文化として扱われるのかの判断が、周囲からも下される時期になる程、漫画が大きな影響を持ち始めたという事でもあると思います。大きな意味を持つ裁判に、旦那は当事者として関わる事になったのです。漫画というジャンルが芸術かどうかと問われれば、私自身は「まだ」芸術と言えないと答えます。芸術活動をしていると言うのは、その人の自由ですが芸術と認可するのは本人ではなく、後世の人だと思っているからです。数百年という時間を越えて、人々に感銘を与える物が「芸術」と言う称号を与えられます。だからこそ芸術活動をする人は一点完全燃焼の作品を創り上げ、妥協は一切ありません。旦那は少しでも良い作品を描こうと努力はしていても、時には締切りという時間の制約を受けて、妥協せざるを得ない状況もままあります。妥協ある物を、私は芸術と言い切れません。芸術については、私個人の考えなので置いておくとしても。いかなるジャンルでも、表現を規制するというのは難しい事です。その表現によって個人が著しく傷つけられたとか、見たくないのに無理矢理見せられたとかそういう事態が発生しない限り、規制をするべきでは無いと考えています。安易な規制を受け入れていたら、そのうちに私達はお上の検閲を通って、許可が出た規格商品の「表現」にしか触れられなくなると思います。それが本当に、良い社会なのか。嫌いなジャンルだから、縁の無いジャンルだから関係無いではなくて規制を許したらどうなって行くのか。少しだけ考えて欲しいと思います。

Sep 15, 2005

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旦那の意見陳述

旦那は緊張しているというのか、戸惑っているというのか慣れない事をするのに、少し難儀そうという感じでした。考えてみれば、当然の話しではあります。法廷での証言という状態だけで、充分に大変な事態だと言うのにその上、傍聴席は全て人で埋められているのですから図らずも大勢の人の前で、話しをしなくてはならないのです。緊張しない方が、おかしいかもしれません。それでも旦那は顔をまっすぐ裁判官に向けて、言葉をゆっくりと選びながら途切れ途切れに意見陳述を始めます。以下は２００２年１２月号「創」の中で書かれていたものを旦那の口調に直したものです。「この本がわいせつか否かを争っていると認識しています。共謀があったかどうかの調べも進んでいると認識しています。社長・編集長、自分がいなかったら本は出せなかったでしょう。３人のうち誰かが欠ければ本が出せなかった事を考えれば共謀と言えるのかもしれません。自分は編集長、プロに「消し」や出版を任せていれば大丈夫だろうと思っていたので、びっくりしました。インターネットにはああいう海外のサイトがあるから、通信業者が閲覧可能にしていることになります。その論法でいけば通信業者も罪に問われるのではないでしょうか。形態が違うというなら、法律自体に穴があるのではないでしょうか。そんなことを収監されながら考えました」読んでお分かりだと思いますが、単語を補わないと分り辛い内容です。概要を言えば摘発された「密室」という単行本を出版されるにあたって社長・編集長・作家である自分がいたから、単行本が出版出来たと認識はしているので、そういう意味では猥褻図画頒布の共謀と言えるのかもしれないが、局部の消しについての判断は、編集のプロに任せていれば大丈夫だろうと思っていたのに、逮捕されて驚いている。それにネットでは無修正の海外のエロサイトがあって誰でも閲覧可能なのに、漫画と違うからという理由で通信業者が何の罪にも問われないのは、変だと思う。そういう事でした。時間にして、５分もしない内に終わってしまいます。それでも拘留中に、旦那は色々と考えていたのだと良く分りました。裁判官もとつとつと言葉を紡ぐ旦那に対して、身を乗り出すようにして話しを聞いてくれていた様な気がします。難しい美術論も無いし、自分の強い主張も無い、実に淡々とした意見陳述です。でも、だからこそ「どうしてこんな事になったのか分らない」という戸惑いは十二分に伝わっていたのではないか。妻の贔屓目かもしれませんがそう思いました。ある意味で、実に旦那らしい意見陳述です。旦那は軽く一礼をして、席に戻ります。お疲れさま。私は思わず、声に出して言ってしまいました。そして見ている自分も、ひどく疲れていました。

Sep 14, 2005

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勾留理由開示の様子

横に警察官は付いたままでしたが、旦那がこちらに横顔を見せる様にして本当に手を伸ばせば届く程の、すぐ目の前の椅子に座りました。裁判が始まるのに、何かの不手際があったのでしょう。弁護士が慌ただしく書類を出したり提出したりの時間があって、裁判はなかなか始まりません。その騒がしい時間に、旦那がこちらを向きました。どんな形でも嬉しい再会だったので、思わず笑いがこぼれます。向こうもつられた様に、少し笑いました。直接話す事も出来ませんが、やはり少しでも長く見ていたいのです。弁護士の不手際も、もっと出てくればいいのにと不謹慎な事を考えました。勾留理由開示は、まず被疑者３人の氏名・住所・職業を言う事から始まり次に裁判官が勾留理由の説明になります。ところが裁判官の説明は、全く聞こえません。用意された書類をボソボソと俯きながら読み上げるのでところどころ単語が聞き取れる程度で、言っている事を理解する事が出来ないのです。弁護士から先に提出されていた質問状の様な書類があった様ですが、それについても「回答のみを言えばいいか？」と、時間の短縮だけを最優先しているかの様な印象でした。回答のみでは、傍聴している私達は質問の内容を知らないので、ますます話しが分りません。弁護士も質問内容も読み上げる様にお願いしたところ渋々と言った感で書面を読み始めますが、結局、何を言っているのかが聞こえないのです。ただ回答は全て、同じです。「捜査状況を明かす事になる為に、答える事は出来ない」一通り書面を読み終わえると、裁判長と弁護士の質疑応答が始まりますが全て、同じ言葉で済まされてしまいます。「捜査の都合上、答える事は出来ない。又、釈明の必要も無い」国会答弁であった「記憶にございません」と良く似た光景でした。裁判長から全く取りつく島も無い回答をされる度に、傍聴席から批難めいたざわめきが起こります。確かに勾留理由開示をする事で、勾留が解けるとは思っていませんでしたが、ここまでやる気の無いイベントなのかと、本当に驚きます。そして裁判所は警察の判断に対して、半ば自動的に認可をすると言っても過言ではないかもしれません。１度逮捕されてしまったら、逮捕の不当性を訴える場所も機会も、全く無きに等しいと思います。その後、被疑者と弁護人の意見陳述が行なわれます。持ち時間は１０分程度と聞きましたが、弁が立つ訳では無い旦那が１０分も一体何を話すのだろうかと、心配になります。最初に証言台に立ったのは社長でした。さすがに堂々とした話振りです。次に編集長が立ちます。予め用意していた原稿を手に、実に論理的な意見陳述が展開されました。最後が旦那です。旦那が立ち上がって、裁判長の前に立ちました。話す事を考えず、行き当たりばったりで臨んでいるに違いありません。ああ、どうか無事に日本語として成り立った事を話します様に。私は旦那の後ろ姿に、ひたすら祈っていました。

Sep 13, 2005

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勾留理由開示

１度勘違いして覚えてしまった事を修正するのは難しいことです。私自身、そそっかしい上に思い込みが激しいので、恥ずかしい思い出がいくつもありますが、霞ヶ浦と霞ヶ関を混同していたのも、その一つ。奇妙な所に東京地裁があるものだと思っていましたし、日本を代表する湖が日比谷公園の中にある池程度の規模になっていたのです。大恥をかいた事もあって、霞ヶ関は思い出深い場所です。以前は横浜・・・とは言っても京浜東北線の終点近くの横浜なのでかなり田舎臭の香しい地域の横浜でしたが、そこからは霞ヶ関へ行くのにかなりの時間がかかっていました。なので遅れては大変と、私は８時には所沢を出ています。霞ヶ関は意外とアクセスが良く、余裕を持って家を出たつもりが逆に早く着き過ぎてしまって、何も無い所で時間を潰すのに酷く苦労しました。待ち合わせをした旦那友人も、遭遇する事のない通勤ラッシュのお陰で、既にヘトヘトとなっていて、ある意味で朝から一波瀾です。裁判所の地下を探索し、とにかく座ってお茶だけは飲める様な喫茶店へ入って、合流した友人３人とお茶を飲んで過ごしました。私の気が急いた結果、皆に迷惑を掛けてしまったのは間違い無いのですがまぁ仕方が無い事と自分でも思いますし、皆も諦めていたと思います。友人達の席は確保出来なかったので、一般傍聴人として並んでもらい私は親族予約席を取ってもらっていたので、その後は社長夫人と一緒に行動する事になります。予約席は身分証明書を提出する必要があると聞いていたのですが、弁護士に案内してもらったお陰でしょうか。用意していた保険証やパスポートの提示は必要ありませんでした。裁判長の真ん前、最前列の中央席。旦那が何処に座るのかは分りませんがこれならきっと旦那からも私を確認出来るだろうと、少し安心します。２００２年１０月１６日（水）、東京地裁５２８号法廷。平日にも関わらず傍聴席は比較的早い時間で満席になりました。支援表明を傍聴という形で示して下さる方が多かった事は、ただ感謝です。裁判開始時刻の午前１０時半を少し回った頃、傍聴席の方から見て左側が検察側の席になりますが、その後ろのドアが開いて、被疑者達が入廷を始めました。一瞬、息を飲みます。被疑者は皆、両手錠をはめられた上に腰縄を巻かれ、それぞれに警察官が２人ガードしています。その物々しい姿に、恐らく傍聴人の中に少し緊張した空気が流れたと思ったのは、私だけでは無かったと思います。御一緒していた社長夫人も、同じ様にショックを受けた様子でした。それまでに、お目にかかる機会は全く無かったので社長か編集長かは分りませんでしたが、旦那よりも明らかに年輩の２人に続いて、旦那が入廷しました。２週間近く会えなかった旦那の姿です。旦那の視線が動いて、自分を見つけてくれたのが分りました。表情が緩んで、小さく頷くような合図を送ってくれます。刑事事件では当り前の姿でしょうが、手錠に腰縄、護衛付きだなんてまるで凶暴な犯罪者の様な扱いで、思わず涙が浮かびます。旦那、ちょっと・・・も、やつれてないよ？むしろ顔艶は良く見えます。３食食べて、充分に寝ているから待遇はともかく、漫画締きり前の生活に比べれば規則正しい健康的な生活だと言うことなのでしょう。何だか釈然としませんがまぁ、元気そうで安心したという事になります。

Sep 12, 2005

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「セブン」のラストシーン

勾留理由開示までは、連絡を絶った自分に身内からＦＡＸやら電話やらが来ました。全て留守番電話にお任せして一切応じずに過ごします。勾留理由開示が終われば、後は旦那が釈放されるまで何もありません。言ってしまえば、釈放されるまでの最大のイベントが勾留理由開示でした。それに来ない人に、わざわざ連絡する事は実質、何も無いのです。私は留守電に入るメッセージを聞きながら、どこかでまだ、自分だけが悪い事をして責められている様な、それでいて周囲の騒ぎを他人事で見ている優越感を抱くような、何とも言えない心境でいました。勾留理由開示の前です。身内が残した留守電をぼんやり聞いている時にパグ犬のふぶきが、台所に入ってさかんに何かを掘り出そうとしています。普段なら冷蔵庫前の野菜置きにあるニンジンや葉野菜を取ろうとしますがこの時は違っていて、どうも冷蔵庫横にある箱を気にしている様なのです。そこで初めて「あの箱、一体何だ？」と気が付きました。そもそも私が置いた記憶が無いので、何が入っているかも分りません。犬を制して箱を見ると、封がされたままの段ボールです。宅配便の伝票を剥がした後があるので、誰かが送って来た様でした。私は深く考えずにガムテープを取り、箱を開けました。途端に猛烈な異臭がして、虫がうわっと飛び出します。「わっ！」腐った野菜でした。既に原型をとどめていない物も多くある様です。恐らく逮捕前に旦那が受け取って、台所に置いていたのでしょう。それを言う前に旦那は勾留されたのです。見ると、段ボールの底からは粘りのある液体が、ピタピタと出ています。映画「セブン」のラストシーンで、モーガン・フリーマンが箱の中身を見た途端、凍り付いてしまうシーンがありました。箱の中からの視点で彼が映されているのですが、演技で充分に荷物の凄惨さが想像出来ます。今思えば少ない動作でモーガン・フリーマンが表した驚きと戸惑い。死体を見慣れているが故に、この後どう処理するかと混乱の中で行なう計算。実にリアルだったんだなぁと思いました。段ボールを片付けながら、改めて彼の凄さを認識させられたのです。セブンは、旦那と初めて一緒に見に行った映画です。「面白そうだし、ちょっと気になるから、一緒に見に行こうよ」そう誘われました。その時は、付合うとか色恋には全然関係の無い状況で訳あって私が旦那の家の家事一切をやって、家賃２万と食費半額負担での居候をしていた時期でした。そして又、訳あって実家へ帰宅する時にせっかくだし帰るついでに一緒に出かけるかと、渋谷まで足を伸ばして映画を見たのです。でも最初のシーンから衝撃映像です。第一の殺人現場の映像は、虫嫌いにとってかなり心臓に悪く本当に悲鳴を飲み込んだ程です。首尾一貫して、暗く救いの無い映画。面白かったけど、映画が終わってから２人でゲンナリしてしまいます。結局、初デートはセブンという事になる事からも、ラストシーンが思い浮かんだのかもしれません。思い出す事が多い、縁のある映画です。それにしても、なぜこんなになるまで腐敗臭に気が付かなかったのか。バタバタとしてはいたけれど「掃除でもして待っていて」という言葉をもらったので最低限の掃除はしていて、しかも汚す人間が自分１人なので部屋は整然としていたのです。なのに、こんな事に気が付かないなんて。私は自分の「人間レベル」がすごく落ちた気がしました。幸い翌日は生ゴミの収集日だったので、夜のうちに野菜を全て捨て去り部屋の換気を充分にしました。

Sep 6, 2005

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身内からのクレーム

身内の話しは更に続きます。実は舅が旦那を紹介した団体というのが、ここの事だったのですがこんな不祥事になったので自分と舅とで責任を取って、旦那がイラストを描いたカレンダーを全部買取る事になると言うのです。１部は２～３００円程度でも、数十万から百万単位にまでなります。さすがに青くなりました。しかしカレンダーには、旦那の名前は一切記載されていません。確かに不祥事と言うのは問題だけれど、これは旦那の絵だと誰かに指摘される様な個性的な絵でもないので、一体何を気にしての回収なのか。どこかで引っ掛かるものがありました。これが当然の反応であるならば、今後別の仕事を受けていた会社からも同じようなクレームが入る可能性もある訳です。私がぼんやりと別の事を考えている間も、身内の話しは過激に続きます。「問題になった漫画の中に、団体に対する侮辱と受け取れる様な内容もあったと聞くから、いずれそっちに抗議文を送るという話しも出ているので覚えておくように」抗議文が来たら、こちらも法的な手続きを取る事になるだろうなぁと暗い、それでいてどこか挑戦を受けてやろうという気分になります。身内での争いは極力避けたいと思いつつも、舅からの依頼だからと報酬もかなり安く引き受け、相手の時間的に無理と思える様な注文にも極力応えた結果がこれかと思うと、こちらも振り回された身として言ってやりたい事は、てんこ盛りだったのです。いくら何でも、旦那に対して失礼すぎます。最後に言われた事は、最も納得の行かないものでした。「あなたの耳には入っていないだろうけど、今回のせいで藤原君の家族はみんな辞職させられるかもしれないんだ。それ位、大事になっているのをもっと自覚してほしい」この人達は、バカなんじゃなかろうか？なぜ独立している旦那の犯罪が、他の身内の仕事にまで波及するのか。しかも直接、人に危害を加えたり、窃盗を働いたりするという犯罪とは明らかに異なる種類の事件なのに、なぜそこまで言われるままなのか。それにもし実際に辞職を迫られているのなら、それは私達の問題ではなくその時点で身内自身の問題になるのです。それこそ弁護士なりに相談して辞職撤回を求め、自分達で何とかするべき事ではないのか。それにしても近い立場にいる身内から、こんな言葉を投げ付けられるとは！これは被害者という立場を逆手にとった、脅迫じゃないのかという思いがどんどん膨らみます。私が旦那を擁護する立場にいる為でしょうがどれもこれも言い掛かりに思える様な話しに聞こえます。その身内自身も強く言い寄られたであろう事は、容易に想像出来ます。ましてやネットについての情報が全く分らないから、相手の言う事にも全く反論出来なかったのでしょう。彼は何度も、こう繰返しました。「私は真実が知りたいんだ」馬鹿馬鹿しくなって、鼻で笑ってやりたい気分になります。真実なんて、誰が分るのかと。それならば警察に直接聞きに行ってくれ。勾留理由開示も傍聴しに来ればいい。何もしないで、何が真実なのか。そう言い返したいのを堪えるだけども、どれほど大変だったでしょう。結局、私は幾つかの約束をしました。１、HPはただちに閉鎖すること２、過去ログについてを全て、プリントアウトして提出すること３、旦那作品を提出すること４、組織からの呼び出しがあったら、これに応じること５、組織所属の資格免状を返還することただし２～５は勾留理由開示が済み、旦那の保釈等の見通しが着くまで待ってもらうこと。ようやく身内も納得して、電話を切りました。時計を見ると、１時間以上も経っています。私は何だかもう、全てが面倒臭くなってしまい親類との連絡を全て断つ事に決めました。

Sep 5, 2005

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いざこざの外

[松文館わいせつコミック裁判] カテゴリの記事

まだ引きずってます

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同人誌で、イラストレーター逮捕

いざこざが一段落

控訴審判決

ちばてつや先生の証言（後）

ちばてつや先生の証言（前）

良い裁判長に当たる様、祈る話し

論告求刑から最終弁論・第１０、１１回公判から結審まで

最高裁における裁判のこと

第９回公判証人・真庭喜和警部補

なり振り構わずの強さ

第８回公判弁護側意見証人・藤本由香里氏

第８回公判弁護側意見証人・奥平康弘氏

第７回公判弁護側意見証人・斉藤環先生

第６回公判弁護側意見証人・園田寿先生

第５回公判弁護側意見証人・宮台真二教授

被告人尋問・松文館社長貴志元則氏証言

旦那の証言

旦那証言に呼ばれる

柏木祐紀氏証言・供述書の信憑性

長嶋博文氏証言

証人尋問

初公判

社長釈放と、接触禁止のおまけ

失業の不安と旦那の宣言

止まらない怒り

家族会議への招待状

旦那が喜んだもの、嫌いになったもの

リアルな噂話し

ひねくれ主婦のニュースの見方

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一通の手紙

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命の差入・カルピスバターの思い出

大人の事情

コミケの偉い人は、リアル・ペディグリーチャム

公判終了後の説明会

勾留理由開示公判閉廷

弁護士の意見陳述

旦那の意見陳述

勾留理由開示の様子

勾留理由開示

「セブン」のラストシーン

身内からのクレーム