2007/10/24(水)07:39
テーマパークビジネスのマーケティング戦略
「テーマパークビジネスのマーケティング戦略」
USJは「本物」を提供する
ノーマン・JT・エルダー
ユニバーサル・スタジオ・レクリエーション・グループ
インターナショナルマーケティング上級副社長
日本全国にテーマパークはあるが、長引く不況で経営不振に陥っているところも少なくない。そうしたなかで大阪にユニバーサル・スタジオ・ジャパンがオープン。「本物」だけが持つ魅力と圧倒的な「ハリウッドのパワー」で、多くの人々を惹きつけている。ユニバーサル・スタジオ・レクリエーション・グループでインターナショナルマーケティング上級副社長を務めるノーマン・エルダー氏を招き、テーマパークビジネスを成功に導くマーケティング戦略についてお話しいただいた。
■なぜ日本で、なぜ大阪なのか
アメリカ国外で最初のユニバーサル・スタジオ・テーマパークの建設地に日本を選んだ理由は、2つある。まず第1の理由として、ユニバーサル・スタジオ・テーマパークのベースとなるアメリカ映画が日本で受け入れられたことであり、第2にカリフォルニアにあるユニバーサル・スタジオが日本のお客さんたちに長年にわたり支持されてきたことだ。ユニバーサル・スタジオは、1980年代初めから日本進出にあたってのパートナーとその候補地を精力的に探し始めた。
それでは、なぜ我々は大阪を選んだのだろうか。ご存知のように、ワールドクラス、超一流のテーマパークは70、80、90ヘクタール規模の広大な敷地を必要とする。しかし、交通の便が良く、人口の多い大都市に隣接する広い土地を見つけることは至難の業である。
12年にわたる調査の結果、我々が最終的に選んだのは、パークの正面ゲートに面してJR西日本の電車の駅が設置可能であり、かつ阪神高速大阪湾岸線が走るベイフロントであった。そこには日帰りできる範囲に居住する約3,600万人の市場が見込めた。
人口が多いことは、長期にわたるサポートを見込める点で重要な要素である。しかし何よりも、大阪市及び関西地方がこれまでの工業経済からテレコミュニケーションや娯楽をベースにした経済への転換を目指しており、その起爆剤としてユニバーサル・スタジオ・ジャパンにコミットしたことが決定的であった。
■なぜUSJは成功するか
近年建設されたテーマパークが経営不振であるにも関わらず、なぜユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は成功できるか ―。 その理由は「本物」の具現化であるからだ。
東京ディズニーランド(TDL)開発にあたって、ディズニーは日本のパートナーから繰り返し「このプロジェクトを日本的にしないように、我々は本物のディズニー・エンターテインメントが欲しいのだ」と忠告された。東京ディズニーランドの歴史は、日本の消費者が「本物」と「品質」を大切にすることを証明した。
同じように、USJも「本物」である。ハリウッドとフロリダのユニバーサル・スタジオのエンターテインメントの中で、最も日本人観光客に人気のあるものを選び、大阪へ持ってきた。日本にある他のテーマパークは特徴がないうえ、不自然な要素が強く、「本物」でない。これが他のテーマパークとの大きな違いである。また、地方にあるテーマパークの開発には、市場規模からみて、お金がかかりすぎている。実際に、日本には2つのメジャーな市場があるのみである。
■TDLとは補完関係
ディズニー・テーマパークのエンターテインメントが、お伽話のアニメ・キャラクターをベースにしていることはよく知られている。TDLが「夢と魔法の王国」ならば、USJは「パワー・オブ・ハリウッド」である。TDLでの経験は受動的であり、子供に焦点を当てたお伽話の世界であるのに対して、USJでの経験は活動的であり、参加型でスリル満点の全く異なるものである。
つまり、ディズニーとの市場競争において、我々ユニバーサルは補完的ポジションにある。TDLで遊んでも、USJでは全く違ったエンターテインメントを満喫すればいい。
■テーマパークの経済学
USJは初年度に800万人の入場者数を見込んでいる。建設プランからオープンまで長い時間を要するのは周知のことで、我々の場合は7年かかった。その間に多くのビジネス上の仮説を立てた。オープンから3カ月と短期間だが、これまでの入場者数と1人当たりの支出額は、我々の予測を上回っている。1カ月の入場者数を平均100万人とし、1人が1万円お金を使うとしてみれば、テーマパークビジネスの経済学が見えてくるはずだ。
航空業や不動産業と同様に、テーマパークビジネスも資本集約的であり、キャッシュフローで成り立つビジネスである。入場料に施設内での飲食代や物品の売り上げが加算される。日本人は自分だけでなく、家族や友人にお土産を買っていく習慣があるため、入場者からの収益は世界のどのテーマパークよりも、日本が高い。
USJを経済的触媒として見た場合、7,000人のフルタイムの雇用を生み出し、また、建設工事で4万5,000人の雇用が発生した。さらに、毎日必要な卸サービスやスタジオ従業員が街にもたらす収益や、これら収益の倍増効果などを考えれば、なぜ大阪市がUSJに関心を示し、従来の経済ベースを変えるきっかけとして期待しているかがわかるだろう。
もちろん、もっと大きな長期的構想もあり、我々はこれを「ユニバーサル・シティ大阪」と呼んでいる。すでに、経済基盤の変換に向かって最初のステップが踏み出されている。たとえば、毎日放送が、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの敷地内に2,500万ドルの放送スタジオをつくり、番組制作を行っている。そこでは一般の人々が舞台裏そのままを見学でき、生放送を体験できる。これは同時にUSJのアトラクションの1つでもある。
さらに、USJのバックロット・セットは、実際の撮影ロケーションにも使用できるもので、すでにフジテレビがそこで撮影を行った。USJが関西や大阪に情報コミュニケーション技術やエンターテインメント産業など、新しい産業を開発するきっかけとなると信じている。
■長期的成功のために
TDLをオープンしたとき、日本のメディアは「東京ディズニーランドは料金が高すぎる。また利益も上がらないだろうし、年間1,000万人の入場者は見込めないだろう」と言ったが、その推測は正しくなかった。TDLは、テーマパーク産業において世界クラスのレベルにするには何が必要かを実証する素晴らしい例となった。
過去3年間、オリエンタルランド社は東京ディズニーリゾートの工事に4,500億円を費やした。世界クラスのテーマパークが、他の経営不振のテーマパークと一線を画する点は、多額の再投資をいとわない点にある。
同じように、USJの長期的成功は次の3点にあると断定できる。まず最初の点は、入場者一人ひとりの期待以上のエンターテインメントを提供することをゴールに定めること。日本の消費者は世界で最燒レの利く、厳しい客である。
先に述べたように、「本物」であること、細部まで品質に細心の注意を払うこと。非常に人口密度の高い市場であることから、悪い評判は命取りとなり、良い評判は客の再来を意味する。
第2の点として、常に新しいアトラクションを加え、ゲストにまた来てもらうことである。そのために、パーク内に空き地を残し、周辺地域も総合的に計画されている。今後、周辺に拡大していくだろう。
第3に、特に閑散期や伝統的な行事がない休日に、年中行事となるようなイベントを設定することが必要である。例として、今年の11月初めから第1回「ハリウッド・クリスマス・スぺクタキュラー」を開催する。我々はこれを毎年人々が楽しみにする家族行事にしたいと思っている。また、我々の競争相手と差別化を図るためにも、世界一大きい音楽会社としてのユニバーサル・ミュージック・グループの立場をうまく利用したい。ワールドクラスの上に置かれた月桂樹の冠に安息することはできない。
■パートナーシップの重要性
USJ大成功のもう1つの鍵は、いわゆるコーポレート・マーケティング・パートナーシップ・プログラムである。
トヨタ自動車、コカコーラ、キリンビール、NTTドコモなどの大企業がUSJの設備、ショーそしてアトラクションのスポンサーとなり、それら企業のマーケティングにUSJを使用する権利を持っている。
なぜ大企業がテーマパークと関わりたいのか。日本はおそらく世界で最も競争の激しい市場といえる。競合する製品やサービスから自社製品を区別するには、消費者の注意を引くためのあらゆる創造的な力が必要である。USJとのコーポレート・マーケティング・パートナーシップは、企業に2つの方法を提供する。
1つは、パーク内においてである。たとえば、NTTドコモは「E.T.アドベンチャー」のアトラクションをスポンサーしているが、入場者たちは幸せな気分を味わい、楽しんだり感動したりしているので、再びそのような幸せな気持ちになったとき、NTTドコモを思い出すだろう。
2つ目は、これら企業のテーマパーク外における営業戦略である。ユニバーサル・スタジオのブランド・イメージは「パワー・オブ・ハリウッド」である。USJは企業パートナーに、「ハリウッド神話」と彼らの関わりをPRするための容易な方法を提供する。
このように、企業にとって我々のプロジェクトへの参入は十分なメリットがある。同じように我々にとっても、これらの世界クラス企業がUSJの「パワー・オブ・ハリウッド」の威信を高め、新しいイメージを提供してくれる大きなメリットがある。参入企業の23~24社は、USJに5億ドルを投資し、我々とマーケティングに関する5年から10年契約を結んだ。
■USJのマーケティング
2001年春のオープニングまでに、我々は大阪や関西一帯をUSJのオープンに向けてクライマックスまで持っていき、同時に東京や関東全域の人々にも知ってもらう必要があった。そのために、我々はマーケティング・パートナー23社の力を借り、PRによってメディアの関心を高めた。そしてグランドオープニング「ワールド・プレミア」の頂点に達した時点で広告を開始した。
我々は、異なるテレビ局を使って3つの特別番組を放映した。2000年夏から、我々のマーケティング・パートナー企業は様々なタイプのキャンペーンを行い、消費者にプレオープン・ツアー用の招待券を勝ち取るチャンスを提供した。彼らのマーケティングはオープニングまで行われたので、我々は東京、大阪、関西地区のメディアの大きな関心を高めることに集中し、今年1月から我々自身のPRを開始した。
現在も毎月、3つの鍵となる地域、東京/関東、名古屋/中部、大阪/関西で意識調査を実施している。これらの地域は年間入場者数の80~85%を占める。
調査では、1年以内にUSJへ行く予定か、何月に予定しているか、いつ、どこでチケットの購入をするのかなどの質問をする。これらの調査からの情報は、広告効果を測るためにパーク内で行われる入場者のインタビュー結果と総合され、今後のPR戦略のガイドラインとなる。
テーマ/「ユニバーサルスタジオの空間プロデュース」第9回必修講義
講師/ノーマン・JT・エルダー
(ユニバーサル・スタジオ・レクリエーション・グループ
インターナショナルマーケティング上級副社長)
コーディネーター/ 濱野 保樹 (東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授)
日時/2001年6月28日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)