紫陽花の季節紫陽花の季節になりました。柔らかい雨は音も時間も包み込み 霧雨の中、紫陽花が色濃く浮かび上がるがごとく、 底ふかく沈んだ記憶を引き出します。 初めて逢った日の木漏れ日の眩しさ、 私が泣いている間中 握りしめていてくれた手のひらの熱 子猫のようにじゃれあって、さざめき笑った夜明け その一瞬一瞬に、 私はあらん限りの生命を傾け どれだけの涙を どれだけの情熱を あなたに捧げ、 あなたの気まぐれに翻弄されるがまま どれほどの嘆きを どれほどの幸福を 与えられたことでしょう。 全てが思い出せないほど遠い昔のことで かすかな痛みが残るだけ ああ、あなた でもせめて、この雨がやむまでは 哀しさも霞む記憶の中で、 もう少しだけ、まどろんでいようと思います。 |