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2015/02/21
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*2009年に、web拍手のお礼小説として公開したものを加筆・修正しました。
第五部で、ユベール達がフライハルトに帰国して間もなく。
ユベールの侍女シャルロットと、副官アドルフの物語。


愛とはそういうものだ


寝返りを打つと、肩と頬が弾力のある壁にぶつかった。
「・・・ん・・・邪魔。」
目を閉じたまま不機嫌そうに眉をしかめたシャルロットは、それを押し返そうと難渋する。
城下町の二流宿の一室。
むき出しの肩が、朝の空気に触れて冷たい。
隣で寝台の7割を占拠し、いびきをかいている大男に腹が立った。
アドルフ・ギーゼン。
平民だてらに少尉の階級を持つ、何かと話題の将校である。
シャルロットは乱れたブルネットの巻き毛を整えながら、起き上がる。
仕事に出る前に湯をもらって、体をふきたい。

彼女は睡眠中の同伴者に気兼ねなく、支度を始めた。
そもそも二人の間に、ロマンチックで温かな感情が生まれたことはない。
初めて夜を共にしたのはヴェネチアからウィーンへ戻る道すがらで、たぶんお互いの欲求とタイミングが合致したということだろう。
ニコラの一件での、共謀という親密さも手伝った。
長いこと男性を遠ざけていた彼女が求めに応じてしまったのだから、そうに違いない。
ただ、一度きりと思った関係が回数を重ねているのは、シャルロットにとって意外だった。
「待てよ。」
厚い筋肉質の腕が伸びてきて、彼女の腰をからめとる。
「ちょっと!」
抗議の声など意にも介さず、アドルフは再びシャルロットを寝台に引きずり込んだ。
怒った女が脛(すね)を蹴飛ばしてきたが構わない。
手首を押さえつけて、脇腹に愛撫を加えていく。
「だから・・・っ、もう行くんだって・・・・んっ・・・・」
ユベールの副官として凱旋したことで一躍「時の人」になったアドルフが、共寝の相手に不自由しないのは当然のこと。
なのに、なぜまだ自分と関係を持つのか不思議に思って、シャルロットは尋ねてみた。
「あれこれ試して、お前がよかった。」
絶望的なまでに無粋な返答。
フライハルトの男など、しょせんこの程度なのだろうか。
惰性で触れあう肌から、快楽がじわりと広がっていく。
自分勝手に這うアドルフの指を的確な位置に導いてやると、次第に呼吸が浅くなる。
男と額を合わせ浸食される感覚にしばらく耐えていたシャルロットは、口づけを求めて舌を絡めた。

しばらく天井をぼんやりと眺めていた彼女は、安物のざらついたシーツをたぐり、アドルフに背を向けて寝返りを打つ。
満足したのか、傭兵上がりの少尉は枕語りもせずに目を閉じている。
我ながら驚いてしまう。
無骨で、女の心を酔わせる作法も知らない男相手に・・・。
この状況は大胆というより、即物的なようにも思えた。
それでも、もうずっと絶えていた熱情が、芯に灯(とも)り始めたのを彼女は感じる。
(・・・だから・・・この男を選んだんだわ、私は・・・・・)
理屈などおかまいなしに、強引に自分をこじ開け、陶酔の渦中へ引きずり込んでくれる相手を・・・
「あんたって、どうしようもない。」
のそりと体を起こして身支度を始めたアドルフは、シャルロットの呟きを無言で聞き流している。
汗と埃で薄茶に汚れたシャツを床から拾って袖を通した彼は、周囲を見渡して何かを探している。
ベッドの端にだらしなく垂れ下がっていたタイを、彼女はアドルフの足元に投げてやった。
男は気だるげに着替えを終えて、立ち上がる。
彼女はそれを見送る。
何の約束もない関係。
だが彼を知る以前とは、まるで変わってしまった自分。
やがて、簡単な挨拶だけで部屋を出て行こうとするアドルフを、彼女は引きとめた。
「アドルフ・・・竜騎兵隊に残るんでしょう?」
「当面は、そうなるだろう。」
「それで正解ね。ユベール様にお仕えしてるのが、あんたの唯一の取り柄(え)だもの。」
「ほざけ。」
しかめ面のような苦笑を作ったアドルフにシャルロットは体を預け、小さく囁いた。
「ユベール様を、守ってさし上げて。お願い。」
「・・・・・。」
アドルフは彼女の細く薄い背に手を当てた。
「それが俺の仕事だ。もう行くぞ。」
シャルロットが寄せた唇に彼は応じ、立ち去った。
一人になった彼女は、くしゃみをしてから鏡の前に座り、早朝の淡い光に映った自分の髪を梳(す)きはじめた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

*作者からひとこと:お気づきかと思いますが、アドルフとシャルロットねえさんは作者のお気に入りです。(^-^;)
ニコラの一件というのは、第五部7章「友情への終止符」での、ニコラの最期のこと。
この番外編は「10のお題に挑戦」という企画で、本編には入れにくいエピソードを書かせていただきました。
お題提供:コ・コ・コ様







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Last updated  2015/02/21 03:18:21 PM
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