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2017/02/19
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<あらすじ>
黒獅子の騎士アルブレヒトは女王レティシアを居城フィアノーヴァに留め、軍の指揮権を掌握する。彼の目的は宰相グストーを、その地位から追うことだった。ユベール(フーベルト・ローレンツ大尉)はレティシアの意向を受け、グストーに助力する。両軍が衝突する中、ユベールの副官アドルフはザンクトブルク城に籠城。周囲の橋を落として黒獅子の騎士の軍勢の大半を封じ込めることに成功する。一方、グストー配下のジャンやゴーチェはフィアノーヴァ城襲撃の機会をうかがうが・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~

「はぁっ」

深い森の中、小さく不機嫌なため息をついて、隻腕の青年ジャンは道なき道を進む。
「さっきから、心気くせぇツラはよせっての。」

横を歩く髭面のゴーチェも、やはり額の汗をぬぐうのさえ面倒だった。
「旦那の、人使いの荒さは昔っからだろ。」

フィアノーヴァ城に隣接する森林地帯。
彼らは昨晩、夜通しでその一帯を歩きまわり、そして今朝は新たな任務を受けて、頂をめざし急傾斜の斜面を登り続けている。
マスケット銃を装備した兵士の一団が、二人の後につづいて無言で登坂している。
「ヴァレリーが・・・」

兵士たちが遅れていないことを振り返って確認したジャンが、再びつぶやく。
乱戦のさなか、ヴァレリーの消息は途絶えたままである。
「あいつなら上手く切り抜けてるだ、ろう、よっと。」

ゴーチェは斜面から張り出した岩によじ登り、周囲の景色を見渡す。
眼下にそびえるのは、その名の通り四つの尖塔をもったフィアノーヴァの城。
彼らは今、その背面をぐるりと囲う山岳の中腹にいるのだ。
「ヴァレリーはこの頃、おかしかった。イタリアに行って以来。」
「そうか?」
「なんか、新しい世界が見える、とか。」
「・・・はぁ?」

ジャンにも真意は分からないが、確かに彼女の中で、何かしらの変化が起こりつつあった。
今回、あのユベールという将校の護衛役を率先して買って出たのも、彼女だったのだから。
「まぁ、むつかしい話は後にして・・・こっちを片付けちまおうか。」

城の背後の斜面には左右6門ずつ砲台が設置され、用心深く常に数名の砲手が配置されている。
ゴーチェは腰に差した数本のナイフと、愛用の小型斧の具合を確かめる。
ジャンは片腕と口を使って器用に、ボウガンに矢を張った。
(――ほんと、こういうのはヴァレリー向きの仕事だってのにさぁ。)

二人は視線で合図を交わすと、後方で控えていた兵士たちと共に、駆け出した。

時を同じくして、そのフィアノーヴァ城内では赤毛の騎士テオドールが顔色を失っていた。
地下を通って城に引き込まれている貯水槽の水が、早朝から濁りを帯びはじめ、ついに途絶えてしまったのだ。
「まずい・・・これは――」

敵方に水源をつきとめられ、破壊されたのか。
城内にも井戸は幾つかあるが、とても一軍を支えるほどの量はまかなえない。
ましてアルブレヒトの主軍は騎兵。多くの水を必要とする。
早急に水路を修復する間にも、近隣から水を確保するための兵站を敷かねばならない。
彼が口を引き結び、騎士の副首座であるフォルクマールの元へ報告に向かうと、さらに新たな報告がもたらされた。
「南東の方位に敵影・・・!」

城の周辺に宰相の別働隊が展開し、包囲網を敷こうというのだ。
その中には、竜騎兵を率いるユベールの姿もあると。
「落ち着きなさい、テオドール。」

フォルクマールは狼狽する様子もなく、たしなめる。
このフィアノーヴァは天然の防壁に囲まれた要塞。
「北方の鎮圧に回していた部隊を呼び戻す。数日持ちこたえれば――」

言葉が終らぬうちに、鈍い地響きが彼らの足元を揺らした。

にわかに慌ただしさを増した城内の様子は、女王の居室にも伝わった。
部屋の外では、守備兵達の怒声が飛び交っている。
扉が叩かれ、姿を現した騎士テオドールの表情にも緊張が色濃く見て取れた。
「陛下、お部屋を移っていただきます。」

まだ足の不自由なレティシアを、テオドールが抱え上げようとする。
「テオ、どういうこと?一体・・・」

言葉を遮るように、足元が再び鈍い振動に揺れた。
至近ではない。だが、決して遠くもない震源――
「くそっ!連中め、気でも違ったか!陛下がいらっしゃる城に向かって!」

三たび、壁面が細かに震える。
レティシアにも事態が飲み込め、彼女は半ば自嘲的な笑みを浮かべた。
「本当に・・・あの人らしいこと。」

周辺に展開した宰相の軍勢が、城門を砲撃したのだ。

***


宰相グストーは手にした銀の懐中時計に、再び視線を落とす。
今ごろ、フィアノーヴァ城では衝突が始まっているだろう。
あの城の防備は堅い。まずは背後に設置された迎撃砲を占拠・沈黙させ、味方の損害を抑えながら包囲網を敷く――
先の戦いで奪取した攻城用の大型臼砲も含め、グストーは持てる限りの火力を集中的に投入し、フィアノーヴァを陥落させる算段に出た。
そのためにザンクトブルク城を囮として、敵兵の封じ込めにかかったのだ。
もはや後戻りの方策のない賭けだ。
「さすがに勘づいたか。」

眼下では、軍を分断されマイン川の手前に残されたアルブレヒトの騎兵隊1000騎ほどが、渡河手段がないと知ると馬首を返し、フィアノーヴァ城の方角へと転進する。
恐らく、こちらの意図も察してのことだろう。
「伝令を出せ。我々もフィアノーヴァへ赴く。」

黒獅子の騎士――その戦場での嗅覚と決断力に、グストーも感嘆を禁じえない。
(狂える獅子の最後の咆哮――間近で見届けさせてもらおう。)

アルブレヒト達が城へ到達するまで数刻、その間に女王を奪還せねばならない。






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Last updated  2017/02/19 04:01:30 AM
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