あるマスコミ関係者の告白

2007/09/13(木)00:21

20年目の印度再訪記<その4>

旅行生活(50)

「コルビュジエと勝負の日」の巻 列車は、たった20分の遅れでチャンディーガル駅に到着。すごいことだ。雨も上がり、空は晴れている。ここから先はほとんど予備知識がないので、とりあえず駅前に出てみる。うわー、ここまで来ても駅前は大混雑。道路の反対側に「プリペイドタクシー」の看板が見えたので、とにかく街の中心部まではこれで行こうと思い、途中何度かクルマに轢かれそうになりながら、プリペイドタクシーの乗り場まで命懸けで道路を渡る。 ところが、道路を渡ってよく見ると乗り場はひとつではなく、「プリペイドタクシー」の看板が2つも3つもある。タクシー屋が各自勝手に乗り場を作って客引きをしていて、「タクシー?タクシー?」と何人もの男がわらわらといっぱい集まってくる。「中心部までいくら?」と訊くと、全員口々に違う値段を言うので、「誰が一番安いんだ?」とさらに訊くと、男A「250ルピー!」男B「220ルピー!」男C「200ルピー!」と、勝手に逆オークションが始まる。わっはっは、こりゃオモロイ。というか、アンタらインド人のくせに商売下手すぎ。「200ルピーがラストプライスか?」と訊くと、ついに男D「150ルピー!」の声があがり、周囲がちょっとどよめく。おそらく仲間から「お前それはちょっとやりすぎなんじゃないの?」などと言われているようだが、こっちは男Dの気が変わらないうちにと、「さあ行こうすぐ行こう」と荷物を車内に放り込み、さっさと乗り込んでしまう(後で聞いたら相場は200ルピー弱とか)。 タクシーは20分ほどで、「セクター17」に到着。チャンディーガルの街は全部で65の街区に分かれていて、セクター17はバスターミナルやマーケットを抱える街の中心地になっている。ここにあるツーリストインフォメーションで適当な宿を紹介してもらい、表で捕まえたサイクルリクシャーで15分ほどのセクター24にある宿に向かう。 走り出したサイクルリクシャーの座席から街の景色を見ながら、実は内心ちょっと後悔しはじめた。ここチャンディーガルは確かに計画都市というだけあって、今までにインドで行ったどの街よりも整然としている。道路も広いし街区も碁盤目状にきっちりブロック分けされていて、非常にキレイである。ただそれゆえ、なんだかつまらないのだ。やっぱインドは雑然として混沌として人もデタラメじゃないと、なんだか逆に居心地が悪い。チャンディーガルには2泊する予定で帰りの列車も予約を取ったのだが、もしかすると1日で十分かもしれないなぁ、と。 とにかく宿にチェックインし、食堂で昼飯のカレーを食って部屋に戻ると、また空が暗くなってきた。バルコニーに出て様子をみているうちに、やがて雨が激しく降り出した。むむ、嫌な予感。せっかくここまで来たのに今日は部屋に缶詰めか?仕方なく2時間ほど部屋でゴロゴロしていたら小雨になってきたので、ようやく街に出かけることに。もう夕方である。通りに出たところにいたオートリクシャーに「いまから日が暮れるまで貸切でどや?」と声をかけ、金額が折り合ったので急いで出発。 コルビュジエの建築は、セクター1にある「キャピトル・コンプレックス」と呼ばれる行政エリアに集中しているので、今日中にそこだけ全部見てしまおうと。ところが、まず「セクレタリアート(合同庁舎)」の広い敷地の端に到着し、ゲートの詰め所で立派なヒゲの警備兵に「中に入っていいですか?」と訊くと、信じられないお言葉が。「いいよ。ただし建物の前までならね。なぜなら、今日はホリデーだから。ちなみに、明日もホリデーなので、キミはどこにも入れないよ~ん。」なななんですと?「キミも知ってるだろうが、ここはパンジャーブ州とハリヤナ州の2つの州都を兼ねているので、今日はパンジャーブ州のホリデー。明日はハリヤナ州のホリデー。だから公共施設の建物はみんなクローズドね。ふぉっふぉっふぉ。」と、ヒゲのおじさんはニコニコしながら言う。ガーン。来た意味ないじゃん。 落胆しつつも気を取り直し、それならとにかく外観だけでも見て周ろうと、リクシャーの兄ちゃんに言って主要な建物が見える場所へと、「あっちだ!次はこっちだ!その次は向こうだ!」と、合同庁舎から議事堂、高等裁判所など、セクター1の周辺をグルグル走り回る。高等裁判所の建物の裏手に回り込んで写真を撮っていたら、「コラー!おまえどこから入り込んだー」と叫びながらライフル持った州兵が走ってきて怒られたりもする。しかしまぁ外観からの造形的な雰囲気は十分掴めるし、コルビュジエの建築物は確かにインドの地でも存在感を放っている感じはするけれど、実際のところ風土に馴染んでいるのかどうかがあまりよくわからない。休日で周囲に人の往来が圧倒的に少ないというのもあるが、建物として「使いこなされている」感じがよくわからないのが残念。あと、邸宅レベルの大きさならいいんだけど、ここの建築物は実際に見るとどれもデカすぎてピンとこないのもあるなぁ。 いずれにしても今回は仕方ないなと諦めて、最後にこの街のシンボル的モニュメントになっている「開かれた手」を見に行く。コルビュジエは昔から絵画作品にも「手」をモチーフにしたものが多く、これは「あらゆるものを与え、受け取る」という、手から始まる人の営みというものを象徴しているのだが、これは良かった。なんにもないだだっ広い原っぱに、ドーンとこれがあるだけ。周囲には建物もなければ、観光客なんてワタシ以外誰ひとりいない。ちなみにこの「手のモチーフ」は、ゴミ箱とか案内図など街のパブリックデザインの中でもあちこちに採用されていて、その辺の遊び心は楽しいね。 じゃんけん、チョキ。ワシの勝ち。 実は、チャンディーガルに来た真の目的は、これがしたかっただけだったりする。 (この手は風が吹くと風見鶏のようにギコギコ周る。これは裏側。) まぁこんな感じで、チャンディーガル初日は予定外の雨とホリデーにも阻まれてイマイチ不完全燃焼のまま日没となり、うーむ2日目はどうしようかなーと思っていたら、翌日は意外に思いがけない収穫に巡りあうことになる。〈続〉

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