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世界で一番愛する人と国際結婚

春の訪れ~婚約

春の訪れ~婚約


私がノアールに持った好い感触のとおり、その日の夜に
彼から電話がかかってきた。


明後日の水曜日の夜のデートに誘われ、私は喜んで受けた。



そして翌々日の水曜日、

私達の初デートは、彼のお気に入りだという日本食レストランだった。


彼に食べ物は何が好きかと聞かれ、実は日本食よりもフレンチや
イタリアンが好きだと言ってしまった。


すると、明後日の金曜日は、美味しいフランス料理屋に
連れて行くと言い出した。


そして、キタノタケシの映画のファンだという彼が、翌日の土曜日は
映画を観に行かないかと誘ってきた。


私がデッサンの学校に行っているのを知ると、その次の日の日曜は、
美術館に行こうとも言ってきた。




ノアールは、元々日本に興味があったのだそうだ。


数年前、やはり留学生だった日本人の女性と付き合い、
2年間同棲した後婚約した。

ところが、病院長の娘だった彼女の両親に結婚を反対されてしまい、
彼女の帰国後は一度も会っていないそうだ。

とても寂しがりやで焼きもち焼きの女性だったそうだが、
すごく愛していたのだと言った。

彼女との痛手があまりに大きくて、それからは誰とも
付き合っていないそうだ。



普通、男性は自分の過去の恋愛をあまり語らない。
自分の恋愛話を聞かされると、私は冷めてしまうほうだったが、
こんなにも素直に自分の気持ちを語る男性もいるのだと、逆に感動した。



フランスでは結婚しているか結婚していないかよりも、
恋人がいるかシングル(恋人がいない)であるかが問題であり、
それによって生活もがらりと変わる。


彼に出会って、私の生活も一変した。


カップルだらけのレストランで一人で食事をすることは
ほとんどなくなり、週末はいつもノアールと一緒だった。



今までの私の恋愛は、本能のままに情熱をぶつけてきては、
散々くだけちっていた。


その経験から、私はかなり慎重になっていた。


ところが、この男には、そういった遠慮も躊躇も駆け引きもいらなかった。
自分の本能のおもむくままに、行動できる相手だった。
まるで10代の時のような恋愛だった。


私が、いくらじらそうとしても、誘いを断っても断っても、
次々に誘われるので、週に3、4回は会っていたと思う。


今日は友達と食事をしたいから会えないと言うと、
彼がいきなり学校に迎えに来たこともあった。


彼からは、出会ってから毎日、朝起きたころと夜寝る前には
必ず電話があった。待ち合わせに遅れる時以外、私から
電話をかけたことはなかった。


会えなかった日は、夕方私が家に帰る頃も入れて、
1日に3回は電話があった。



出会ってまだ1ヶ月もたたないある日、私達は、シャンゼリゼにある、
雰囲気のいいレストランで夕食を食べていた。


デザートを食べ終わり、コーヒーを飲んでいる時だった。


ノアールは私の手をとり、静かに語り始めた。



実は、日本食材店で初めて見た時に、私に一目ぼれをしたというのだ。
それで、私が出てくるまで、外の信号の所で待っていたのだそうだ。



実は私も、その日の数分前に貴方をデパートの中で見かけ、
その時から気になっていたのだと告げた。


スーパーで貴方を見かけた時は、追いかけようかとまで思った。
信号の所で貴方が立っているのを見つけた時は、本当に嬉しかったのだと。



「それ、本当?」


ノアールは目を見開いて、そして言った。


「すごく嬉しいよ。」


彼は私の手を取ったまま、私を立たせた。


そして自分は身をかがめた。


『何だろう?』


私は、きょとんとしていた。


「こんなんことを言うのは早すぎるかもしれないけど、
でも言いたい。」


「え?何?」


「Je t'aime, veux-tu m'épouser ?」 (I love you, will you marry me? )


『え!?』



私の血圧は、一瞬にして上昇して、心臓がバクバクした。


今まで会ったフランス人男ときたら、即ナンパしてきて、
その数分後にジュ・テームと言う人もいた。


私には理解しがたかったし、全然嬉しくもなかった。


でも、これは、初めての、本物のジュ・テームだ。
おまけに、結婚しようとまで言っている。


え、ええ?け、結婚? 


何がなんだか分からなくなって、私は無言のままだった。


「急すぎて驚いたかもしれないけど、返事は急がないから。」


ノアールは、照れながら付け加えた。



とっさに色んな思惑が、私の頭の中をぐるぐると駆け巡った。


確かに私は恋人を欲していたが、結婚までは
まだ真剣に考えていなかった。


1年後に日本に帰って、もう一度日本で数年働いて、
今度は短めに半年間スペイン語留学&南米3ヶ月貧乏旅行をしたい。
その後はもう身を落ち着けて、転職を繰り返さないでバリバリ働こう。
そして、その時に付き合っている人がいたら、結婚しよう。
35歳くらいまでに結婚すればいいかな。


それが当時の私のプランだった。



でも、今までだって何度も長期旅行をしてきているし、
1年以上の留学も2回目。
旅行はいつか二人で行けばいいのだし、パリでだって働ける。
独身でやりのこしたことは、実はもうないのかもしれない。
これが私の運命だったのかもしれない。



「Oui.」



私はプロポーズにOKしたのだ。


ノアールは涙ぐんでいた。


私達は手をつないで外に出た。


その日はパリに暖かい日差しが射し、数週間ぶりに爽やかな
青空が広がっていた。

グレーだったパリの街が、急に色鮮やかなカラフルな街に変わった。



死んでいるのかと思った、街路樹の枯れ木に小さな蕾を見つけて
感動した。生きていたんだ。春が来ていたんだ。


こんなに春が待ち遠しく、そして春が素晴らしいと思ったのは、
あれが生まれて初めてのことだった。



つづく



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