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カテゴリ:書籍関連
![]() ![]() 還暦を目の前にして(ということは評者と同世代)、結婚したいという願望を自覚した著者がマッチングアプリや結婚相談所、婚活パーティーに集中して取り組んだ記録。確かにすごいことになっている。 マッチングアプリで知り合った41歳の女性に会って意気投合。R&B系の来日アーティストのライブに行く約束を取りつけ、高価なチケットを用意する。 約束の日が近づき、連絡をしても返事がない。するといきなり「てめーからLINEくるだけでゾッとして不眠になるわ。クソ老人!」というメッセージが飛んでくる、といったドタバタ劇をコメディー風につづる。著者の本職はライターで、文章は闊達。 構成もしっかりしていて読みやすい。 ![]() マッチングやパーティーといった人工的に設計された婚活システムには極端なメリットとデメリットがあることがよく分かる。 偶然の出会いと比べて知り合う相手が飛躍的に増える一方で、どうしても人間の獣性がむき出しになってしまうという難点がある。 要するに女性はカネがある人にラクな生活をさせてもらいたい。男性は容姿がイイ女性と結婚したい──。 男女双方から本能的欲望があふれ出て混ざり合い、ぐつぐつと小鍋で煮詰めたような濃厚な空間が現出している。女性はとにかく自分を大事にしてもらいたい。相手を試すからか、ひたすら高価で豪華な食事を求める。で、ガツガツ食べる。 著者の年齢が年齢なので、相手もそれなりの人生経験がある人たちなのだが、すぐに性的関係になるケースも多い。人間もまた動物であるとつくづく思わされる。 著者の豊富な経験の中から面白いエピソードを取り上げているのでサンプルバイアスがかかっているにせよ、何かが壊れているような女性も登場する。 例えば、中盤に登場する「マイさん」。その豪快な壊れっぷりは一読の価値がある。面白いのは、これほどにネジがぶっ飛んだ人でも、婚活システム上でそうなっているだけだということ。 ![]() 日常生活ではきちんと社会と折り合いがついた常識的な人なのだろう。人間の奥深さに戦慄する。 「相性」という全人格的にして極端に総合的な問題を、年齢や趣味や容姿や収入や住所などの要素に分解し、個別の次元上で相手を評価してしまう。 相手が不動産のような「物件」にしか見えなくなる。ここにマッチングシステムに不可避の問題がある。評者がこの歳でシステムに乗ったら、果たしてどうなるのか。 「このクソハゲ!」と罵られまくるに違いない。考えただけでも恐ろしいものがある。 マッチングは可能性を広げるようで、かえって関係構築を窮屈にする面がある。 偶然性と反経済性と非利害性こそが私的人間関係の基盤にある。 本書はこの真実を逆説的に浮き彫りにしている。読後感は別にして、洞察に富んだ人間理解の書として面白いことは間違いない。 ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024/09/25 08:40:09 PM
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