ホレス・シルヴァー・クインテット+J・J・ジョンソン 『ザ・ケープ・ヴァーディーン・ブルース(The Cape Verdean Blues)』
まったりさわやかなホレス節 ホレス・シルヴァー(Horace Silver)の父は、アフリカ大陸の西、大西洋に浮かぶカーボ・ヴェルデ諸島で生まれた。その父の姿は別の盤(『ソング・フォー・マイ・ファーザー』)のジャケット写真で見ることができる。同諸島は15世紀以来、長らくポルトガルの植民地で、この父もまたポルトガル系の血をひいていたとのこと(なお、カーボ・ヴェルデは1975年に独立し、現在ではカーボ・ヴェルデ共和国となっている)。 1965年に吹き込まれた本盤『ザ・ケープ・ヴァーディーン・ブルース(The Cape Verdean Blues)』の、このわかりにくいタイトルは、“カーボ・ヴェルデのブルース”という意味である(英語読みなのでケープ・ヴァーディーンという読み方になっているが、この部分が“カーボ・ヴェルデの”を意味する)。 さて、ホレス・シルヴァーと言えば、“ホレス節”とすら言われる独特のファンキーで並はずれたピアノ演奏が有名である。聴いてすぐに他の誰でもなく彼だとわかる独特のプレイ。好き嫌いが分かれるとは思うが、いったんハマるとホレスの演奏を聴ける盤はたくさんあって楽しみ甲斐がある。それをワンパターンの(この表現が悪印象なら“確立された”といってもいい)プレイとして楽しむのも一つだけれど、本盤のように少し趣向の違うものとして、ホレス盤の相違を楽しむというのもいいように思う。 60年代も半ばが近付くと、ファンキー・ジャズ確立の流れも一段落し、ホレス自身も次の展開を思案していたのだろう。その結果、出てきたのが63~64年に吹き込まれた『ソング・フォー・マイ・ファーザー』のブラジルの影響であったり、本盤『ザ・ケープ・ヴァーディーン・ブルース』のミックスされたルーツ音楽の影響であったりした。本盤については、ホレス自身がライナーで述べているところでは、3つの源があると言う。1つめはカーボ・ヴェルデの民俗音楽、2つめはブラジルのサンバ、そしてもう一つは、米国のファンキー・ブルースである。 “すっきりさわやか”というとコカコーラだが、本盤はどこかしら“まったり”かつ“さわやか”というのが個人的な印象である。“まったり”な部分はカーボ・ヴェルデへの郷愁ゆえの、ある意味では『ソング・フォー・マイ・ファーザー』とも通底するどこかセンティメンタルな部分。“さわやか”な部分は、相変わらずのファンキーなホレス節なわけだけれども、その微妙な混合具合というかバランスがこの盤の特徴ということになる。 アルバム前半は表題曲の1.(「ザ・ケープ・ヴァーディーン・ブルース」こそファンキーな部分をいくらか含むが、続く2.「ジ・アフリカン・クイーン」と3.「プリティ・アイズ」は哀愁漂う“まったり”部分が表面に出た演奏。後半に入ると、4.「ナットヴィル」では再びファンキーな部分が顔を出すが、ここからの後半3曲にはトロンボーンのJ・J・ジョンソンが加わっている。おそらくはその影響だと思うのだが、微妙な緊張感とスリリングさが生まれている。5.「ボニータ」はそれが静かな調子、6.「モー・ジョー」はその同じ特徴がアップテンポの中で表現されている。全体の演奏の引き締まり具合には、レギュラーメンバーとして参加の二管の影響が大きい。トランペットのウッディ・ショウとテナーサックスのジョー・ヘンダーソンの二人だが、この二人がフロントとなっているホレス盤はこれが唯一のようだが、どちらも当時の気鋭の奏者といった位置づけで、それに相応しい思い切りのある気持ちいい演奏を披露している。[収録曲]1. The Cape Verdean Blues2. The African Queen3. Pretty Eyes4. Nutville5. Bonita6. Mo’Joe[パーソネル、録音]Woody Shaw (tp)J.J.Johnson (tb, 4.~6.)Joe Henderson (ts)Horace Silver (p)Bob Cranshaw (b)Roger Humphries (ds)1965年10月1日・22日録音。Blue Note 4220 【CD】ザ・ケープ・ヴァーディーン・ブルース/ホレス・シルヴァー [TOCJ-7169] ホレス・シルバー【fsp2124-2m】 下記3つのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、ひとつでも“ぽちっと”応援いただけると嬉しいです! ↓ ↓ ↓