カリフォルニア・ブルース 『マヒア(Magia)』
都会のロック?? メキシコの音楽界には“ロック・ウルバーノ(rock urbano)”と呼ばれるジャンルが存在する。英語に直訳すると“アーバン・ロック”なのだけれども、この英訳だと、おそらくはとんでもない誤解を与えることになる。英語で“アーバン・ロック”という響きを聞けば、多くの人は都会的で洗練された、おそらくはコンテンポラリー・ロックやAORのようなものを想像するに違いない。ところが、メキシコの“ロック・ウルバーノ”とは、そのイメージとは一味も二味も違っている。それは、都市の貧困層や決して裕福ではない若者たちをターゲットにしたもので、そうした層から主に支持されるロック音楽である。そして、この“ロック・ウルバーノ”というジャンルには、ベタでB級ロック的なバンドが数多く存在する。 そうしたバンドのアルバムを多く世に送り出しているメキシコのレーベルにDENVERというのがある。このレーベルは他のメジャーレーベルよりもCDの価格を低めに設定し、低所得層の若者をターゲットにした音楽を多く提供している。アラガン(Haragán)やリラン・ロール(Liran'Rol)といったアーティストがこのレーベルで活躍する筆頭だ(ただし、リラン・ロールは長年ここに属した後、しばらく前に他レーベルへ移籍した)。前掲のEL TRI(参考記事(1) ・(2) )もメジャーデビュー前の前身、スリー・ソウルズ・イン・マイ・マインド時代はこのレーベルからアルバム(当時はいかにもアングラなレコードやカセット)を出していた。何年か前、久々に興味を持ったバンドをこのレーベルで見つけた。それが今回のカリフォルニア・ブルース(California Blues)で、それ以来少しずつアルバムを探索している。 カリフォルニア・ブルースという名前でも、別にメンバーがカリフォルニア出身とかいうわけではない(もしかしてロイ・オービソンの曲と関係あるのだろうか?)。メキシコシティ出身の若者たち(マヌエル、ラミーロ、アルフレドのラジョ3兄弟)が他のメンバーを加えつつ形成されたバンドで、元はカルマ・ブルース(Karma Blues)と名乗っていたらしい。やがて2002年に上述のDENVERレーベルと契約し、『ア・トラベス・デ・ラ・ベンタナ(A través de la ventana)』でデビュー。メキシコシティとその郊外を中心に活動を続けている。 本盤『マヒア(Magia, マジックの意味)』は、2006年にリリースされた第6作(ライヴ盤を除くとたぶんこの枚数と思われる)にあたる。この時点でのメンバーは、アルフレド・ラジョ(Alfredo Rayo, ヴォーカル)、ホセ・アンドレス・パニアグア(José Andrés Paniagua H., ドラムス)、ホセ・グアダルーペ・バレンティネス(José Guadalupe Valentines, ベース)、エルネスト・ゲレロ(Ernesto Guerrero, ギター&コーラス)の4人。なお、2013年現在はドラマーが交代したのと、ギタリストがもう1人加わって5人組で活動中とのこと。 注目曲としては、1.「ペルドナメ(許しておくれ)」、3.「クアンド・カミーナス・エン・ラ・アビタシオン(部屋を歩くとき)」は、このバンドのトーンがよく出ている好ナンバー。8.「ニ・ウン・モメント・キエロ・ペルデール(一瞬たりとも逃したくない)」はいかにもベタなロック・バラード調。スロー系ではもう1曲、恋人との別れを未練たらしく(?)歌う6.「エサ・ベス(あの時)」のベタさ加減もなかなかよい。 上でB級ロックなどという言い方をしたが、別に馬鹿にしているわけでも何でもない。B級映画はその愛好家を抱える立派なジャンル(?)であるし、ジャズなどに目を向けても、“B級”と呼ばれる好演奏者や好盤はそれこそ数多く存在する。概ね、そういった“B級”ものには、“ハマるツボ”みたいなものがあって、一度ハマると抜け出しにくくなるらしい。もうおわかりだろうが、筆者は“ロック・ウルバーノ”にハマってしまっている。日本では入手しづらいのだけれど、何かの機会に聴いたという方からの感想、お待ちしています(笑)。[収録曲]1. Perdóname2. Atrapado3. Cuando caminas en la habitación4. Enamorado5. Esa vez6. Condenado7. Mi única esperanza8. Ni un segundo quiero perder9. Que solo estoy10. Ayer soñé2008年リリース。 下記ランキングに参加しています。 お時間のある方、応援くださる方は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓ ↓