テーマ:Jazz(1961)
カテゴリ:ジャズ
名曲「レフト・アローン」なのか、名盤『レフト・アローン』なのか
ビリー・ホリデイの追悼アルバムとして発売されたマル・ウォルドロン(Mal Waldron)の『レフト・アローン』およびその表題曲の1.「レフト・アローン」。少なくとも日本ではジャズ史に残る名盤(もしくは名曲)として知られる。優勢なのは、名曲としての1.「レフト・アローン」を評価する声のようである。つまり、表題曲が名曲であり、それゆえに、アルバム自体も名盤として評価するという傾向があるのは否めない。 では、1.「レフト・アローン」以外は名曲・名演ではないのだろうか。筆者は3.「ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ」や5.「エアジン」も結構いいと思うし、何よりも2.「キャット・ウォーク」は十分にそうした評価を受けるに値すると思う。けれども、1.「レフト・アローン」と並べられると、この曲ばかりに注目が集まるのももっともだと、同時に思う。 1曲の名曲・名演のせいで他の4曲が忘れられがちなだけ、と言ってしまえばそうなのかもしれない。何よりもマル・ウォルドロン(ピアノ)が主役の4曲に対して、表題曲ではジャッキー・マクリーン(アルトサックス)がゲスト参加していて、泣きのメロディを歌い上げている。けれど、その一方で、表題曲が名演に聴こえる(もしくは、名演度をより高めている)理由が、聴き手の感情にもあるのではないかという気もする。 ジャケットにも記されている通り、このアルバムはビリー・ホリデイに捧げられたものである。ビリー・ホリデイは1959年7月17日に死去したが、数年前からマル・ウォルドロンはビリー・ホリデイの伴奏者としてピアノを演奏していた。ビリー・ホリデイの作詞、マル・ウォルドロンの作曲によるこの曲は、ビリー・ホリデイが歌ったヴァージョンが録音されることなく、彼女の死という事態を迎えた。本盤では、歌のパートはマクリーンのサックスが担当している。つまり、思い入れたっぷりに聴ける(そして泣ける)1曲というわけだ。 しかし、本盤の録音日は1959年2月24日とあり、つまりは、ビリー・ホリデイがまだ生きていた日付である。換言すれば、「今は亡きビリー・ホリデイを偲んで感情込めて演奏した」という事実はなかったことになる。おそらくはレコード会社(本盤を制作したのはベツレヘム・レーベル)が、彼女の死後、あと付けのようにして、追悼盤としてのアルバムを企画し、売り込んだということではなかったのだろうか(なお、6.「ビリー・ホリデイを偲んで」は演奏ではなく、インタヴュー(しゃべっているだけ)で、しかも録音日は演奏よりも後日とのことである)。 といったわけで、筆者としての見解としては、上で述べたような"思い入れ度"が高くなればなるほど、名曲「レフト・アローン」ばかりが注目される結果となる。逆にそうした感情抜きに冷静に聴けば聴くほどアルバム全体が名盤という印象に近づいていくのだと思う。こんな書き方をすると、表題曲に愛着がないのかと思われてしまうかもしれないが、実際のところ、そんなことはまったくない。筆者が聴いた回数で言えば、1.だけが突出していて、この物悲しい雰囲気と美しい曲調は、最初に聴いた時から忘れ難い素晴らしさである。ピアノのイントロからマクリーンのサックスが始まる冒頭部分などは、何度聴いても鳥肌が立つ。ちなみに、収録トラックのうち、6.(曲ではない!)だけは、本当に蛇足だと感じ、ほとんど聴いていない(あるいは聴いていてもつい飽きてほかの事をしてしまう)。アルバム全体としての名盤度を下げているとすれば、この6.が犯人、というか、こういう収録・発売方法を思いついた人物がその戦犯と言えるかもしれない。 というわけで、筆者の結論は次のようになる。1曲目の「レフト・アローン」は間違いなく超名曲である。アルバム『レフト・アローン』は、感情移入を少なめに、なおかつ6.を無視して聴けば、名盤と言える。 [収録曲] 1. Left Alone 2. Cat Walk 3. You Don't Know What Love Is 4. Minor Pulsation 5. Airegin 6. Mal Waldron: The Way He Remembers Billie Holiday(インタヴュー) Mal Waldron (p) Jackie McLean (as, 1.のみ) Julian Euell (b) Al Dreares (ds) 録音: 1959年2月24日 【楽天ブックスならいつでも送料無料】レフト・アローン +6 [ マル・ウォルドロン ] ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひ“ぽちっと”お願いします。 ↓ ↓ ↓ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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すみませんが、まず、ビリー・ホリデイの亡くなったのは’59年ですよ。
このアルバムは’60年の吹き込みでリリースされています。 年号はしっかり確認して書く必要があると思います ・・・ ニューヨークでの吹き込みの日付は不明です。 しかし、’59年の2月何てことはあるのでしょうか?? (2019年04月03日 19時29分21秒)
東リ須賀利さんへ
ご指摘ありがとうございます。本文中の年号の表記間違い、訂正しました。 録音は、ウィキ(英版等)をはじめ各所に書かれており、1959年2月ということのようです。 (2019年04月03日 19時50分40秒)
AnDaleさんへ
まことに失礼なコメントでしたが、紳士的ご回答ありがとうございます。(ペコリ) これ昔から’60年録音の追悼盤という形で売られていましたが、現在はどういうことになっているのでしょうか。 ビリーが亡くなる前にレコーディングされたものを追悼盤というのでしょうか? 追悼盤というからには死後の録音 ということになりますが、某有名評論家様方も’70年代の終わりころから’60年の録音と明言されていましたが ・・・ ウイキは初めて見ましたが、確かにそうなっていますね ・・・ そうなるとレコード会社や評論家様方の話に大きな矛盾が生じます ・・・ またこのアルバムを取り上げている方々の話も矛盾しますね。 ちょっと本気で調査してみます。 ありがとうございました。 (2019年04月03日 21時00分43秒)
東リ須賀利さんへ
ご丁寧なお返事ありがとうございます。 推測するに、当時から「追悼盤」と言われ、それが定着していったけれど、実は録音はその前だった(でも追悼盤としてしばしば見なされてきた)ということなのかな、と理解しています。 個人的には、音楽の背景にあることをあまり多く考慮して音楽を聴くのは好きではありません。でも、実際のところは、レコードやCDになって出回ったとたん、作者の手を離れてしまうわけで、いろんな解釈のされ方や聴かれ方をされていいんだろうという風に思ったりしています。 (2019年04月04日 08時25分18秒) |
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