テーマ:洋楽(3509)
カテゴリ:洋ロック・ポップス
過去の遺産と現代の創造力 ザ・ヴァイナルトーンズ(The Vinyltones)は、米国オハイオ州を拠点として活動する4人組バンド。“ヴァイナル”というのは、合成樹脂(ビニール)の意味だが、レコード盤のことを指すのにも用いられる単語である。つまり、このバンド名は“レコードの音”という意味で、それは彼らが愛してやまないレコードたち(ビートルズ、ザ・フー、レッド・ツェッペリン、ローリング・ストーンズ、ザ・バンドなどの作品群)を意識しての命名だとのこと。 メンバー4人中の3人が高校時代からのバンド仲間で、一度はバラバラに生活し始めたものの、やがてバンドを再結成し、2005年にデビュー。ここで紹介するのはそのデビュー盤をリメイクし直し、2006年に日本向けの盤としてあらためてリリースされたものである。 大きくまとめれば、パワー・ポップ、オルタナといったとこらへんでジャンル分けされて埋没しそうなバンドなのだが、実は彼らはすごいのではないか、という感想を初めて聴いてからというもの、聴くたびに繰り返し抱いている。バンド名の通り、上で挙げた過去のバンドをはじめとするロック史の遺産をちゃんと継承している。念のために言うと、彼らの音楽はビートルズ的ではないし、ツェッペリンっぽくもない。ザ・フーのような雰囲気を持っているわけでもなければ、ストーンズらしい音楽でもない。要は、“真似ごと”ではない形で、過去の遺産を自分たちなりに十分に消化し、受け継いでいる。 その音は基本的にアナログな感じがする。おそらくは意図的にそういう音の作りを狙ったのだろう。でも懐古趣味に走っているわけでは全くない。そうかといって、決定的に“いま風”な訳でもないのが不思議である。3.なんかは、ビートルズが拡げたポップ/ロックの世界の続きのようなもの展開されている(繰り返すが、ビートルズの真似ごとではなく、現代的アプローチでそれがなされている)。かと思えば、7.や11.では、カントリーロックのポストロック的消化の仕方と言えそうな曲調と演奏を披露する。いくつかの曲(例えば、1.や10.)では、“ザ・クラッシュが辿り着きたかったのはここではないか?”(つまりは、パンク・ロックが行き着けなかったその先の境地に辿り着いている)と思わせられたりもする。バラードの13.などはただのギター・ポップの曲として聴き逃してはもったいない。このバックの演奏(特にギタープレイ)は、明らかにザ・バンドの開拓した世界の上に成り立っているように筆者には思われる。 とどのつまり、2005年の段階でこの音楽が出来上がる必然性はなかった。無論、これが70年代に出てくるということはあり得なかったが、60年代~70年代のロックが一巡りも二巡りもした段階なら、いつ出てきても不思議ではなかったように思う。その意味では、ヴァイナルトーンズは全く時流に乗っておらず、1995年に登場してもよかったし、今年(2011年)に登場してもよかったのだろう。 結局のところ、時流に乗った音楽ばかりがもてはやされ、ロックやその周辺の音楽が細分化されて聴き手にすらよくわからなくなっていってしまう中、こういうバンドもちゃんと存在しているのである。リスナー(消費者)が悪いのか、業界(売り手)が悪いのか、難しいことはよくわからないけれど、こうしたバンドがちゃんと生き残って行くようであれば、まだまだロックは死んでいないし、ロックに未来はあると思うのだけれど。 [収録曲] 1. Numb (On A Monday) 2. So Far Away 3. She 4. Nashville 5. See What I'm Getting At 6. Hey Solomon 7. Motorcycle 8. If It's Gonna Rain 9. Hope To Remember 10. Burst Your Bubble 11. Unsimple 12. Don't Spend It All Tonight 13. Leaving Northport ~以下、ボーナス・トラック~ 14. Nobody's Man 15. Rockin' The Day 2006年リリース。 下記ランキング(3サイト)に参加しています。 お時間の許す方は、“ぽちっと”クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓ ↓ ![]() ![]() ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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