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バス停の目の前 じっとりと重い空気をまとわりつかせながら、バスを待った。 ビュンビュンと行き過ぎる他の路線バスを見送りながらジリジリと温度が上っていく。 手にはスルッとKANSAIのKカード(2000円分)。表にはディープインパクトの雄姿。 これ一枚で京阪の電車やバスに乗れる。京都市内の路線バスの料金は一律だ。 よーうやく上賀茂神社行き(4番)のバスが来た。 すり鉢のふちに向かって行くようにバスは進む。 きれいな住宅街や自然の残る地区を過ぎていく。 風情ある町並みを堪能しながら移動できるバスは得した気分になれる。 視界を山が占める割合が大きくなってくると、空を占める雲の割合も増えた。 ところどころ道が濡れていた。少し雨が降ったのかもしれなかった。 終点はバスの発着所のようなもので、上賀茂の土産物屋が並んでいる。 あの有名な「すぐき漬」の文字もある。帰りに寄ろうと脳内領域にメモる。 人影もまばらな中、水たまりを避けながら目的地へ歩いた。 世界遺産とは思えぬくらい閑散とした空気が流れる。 土地や空間の使い方がなんというか贅沢で、鄙びた感じが不安と安心の両方の気持ちを刺激した。 下賀茂もそうだが、華やかな国際観光都市らしくない雰囲気がした。 悪くない。 ミーハーな私は高級リゾート地の雰囲気が好きだが、さびれた場所や裏通りの雰囲気にも惹かれる。 見てはいけないものを見てしまった感がたまらない。 いけない性癖を持っているような、後ろめたい気持ちがいいんだろうか。 「イヤよイヤよも好きのうち」みたいなもんか?いや違うな。 苦労するのがわかっていて顔だけの浮気性の男に尽くしてしまう女のようなものだろーか。 (しつこい☆) 思いっきり着飾った休日の観光地やテーマパークでなく平日のスッピン姿にお相手(何の?笑)願っている感じがする。 そんな息の抜けた世界遺産に挑む私はちょっとドキドキした。 ここ上賀茂は競馬の発祥みたいで、神事に競馬があるらしい。 残念ながら今日は神馬には逢えなかった。(日曜祝日にはいるらしい。ちぇっ) 5月の5日には舞楽の装束を身につけた騎手がまたがり、競馬をするという。 それに先立って5月の1日には競馬に出走する馬の優劣を決める式もあるそうなので興味深い。 1年で最も気候のいい新緑の季節に、自然が溢れているここ上賀茂で煌びやかな装束の競馬は圧巻だろう。 古代装束の柄や色は今の殺風景な時代には信じられないくらいの色彩があるから、 古代の人の感覚は色鮮やかだったんだろうかと思う。 鳥居をくぐるとご神体。 いいのかしらこんなにすぐにご神体にめぐり合って・・・ というくらいあっさりと放り出されている上賀茂神社のご神体^^; でもこの「立砂」といわれているご神体は説明を聞くとすごく尊く感じられるから不思議だ。 雨風にさらされて薄くなった文字が読みにく~☆ 手っ取り早くいうと、この立て砂は上賀茂神社の後ろにある神山(こうやま)という昔昔神様が降りてこられた山の写しなんですね。 お椀をかぶせたようなきれいな山はUFOみたいな左右対称の形です。 その山は禁足地でお参りしに山に入ることはできないため、この砂を神山に見立てており、「立つ」という言葉は神様が出現した、降りたことに由来するものだといわれています。 ご神体がふたつあるのは、この上賀茂神社は陰陽道の影響を強く受けているので、陰と陽のふたつでひとつの存在とみなされているせいです。 鬼門にまく清めの砂の起源がこの立砂。 そしてよーくみるとこの立砂のひとつ(写真では右)の上には松の葉が一枝差してあります。(まるで波平のように) 神山の松の木に神様が降りたといわれているので、こうして必ず松の葉をてっぺんに飾るそうです。 この立砂は神様が降りてくるための依り代で、松の葉はアンテナのようです。 なんでもないようなことでも全てに意味があるんですね。昔の人はすごい発想力だわ。 上賀茂神社の本名。賀茂別雷神社(かもわけのいかづちじんじゃ)。 雷の神威によって厄除けを行い、北の鬼門を守るための神社。 葵祭りはこの神社で行うんですねー。上賀茂神社は下賀茂と合わせて京都で最も古い神社の一つだそうで、由緒があるんだなと。 関西の人に上賀茂のことを聞くと、紅葉がきれいだと言われましたが、葵祭りは5月15日。 この境内の様子を見るとその時期もきっと美しいんだろうなと思いました。 お参りするために奥へ向かう。舞台やお社が幾つかあって小さな川が流れ、橋が架かっている。 鳥居をくぐってからまっすぐに参内するのを阻む仕掛けがたーくさん。 風情のある妨害に心を奪われながら奥に行くと、「特別参拝」という文字があった。 500円を払うと、もっと奥にある神域の本殿と権殿を見ることができ、神宝殿にも入れるらしい。 せっかくなので500円払う。ハチマキに似た白いタスキを渡される。 靴を脱いで建物に上り、用紙に名前と住所を書いて箱の中に入れてと言われる。 スッと障子が開き、平安時代っぽいの装束を身につけた男性が現れた。 始まるので中に入れと言う。神職に就いているらしい男性は何人かを一組にして話をするらしい。 畳敷きの部屋の中には他にも人がいて、白いタスキを首にかけて神妙な面持ちで待っている。 パタンパタンと障子や戸を閉められた畳敷きの部屋は細長くて暗かった。 その狭さはどう考えても控えの間、次の間という雰囲気だ。 神職は私たち十数人の観光客に向かって話し始めた。 これから上賀茂神社について話をするということと、話の後で私たちのお祓いをするということ。 先ほどの用紙は次の日の朝に神社で厄除けとしてお祓いをするために書いてもらったこと。 (どこの誰かということがわからないとお祓いにならないらしい) 神様の前でお祓いやご祈祷をする時には身を清めたり衣装を改める必要があるが、 白いタスキを首から掛けることで代用(簡略化)したということ。 そして壁にかかっている何枚もの古代絵を観ながら順を追って上賀茂の神様の由来を話し始めた。 日本画の画法で描かれた古代の絵は幻想的で、掛け軸に似合いそうだった。 神様の話は現実感がないが、神職の衣装や舞台設定のせいかそうかもね~なんて思いたくなる。 「桃太郎」とかキリストっぽいところもあり、とても興味深い話だった。 500円払ってぜひ見て・聞いてもらいたい。 ここは雷(神鳴り)の神様を祀る神社で、その神様の話をしている時に、ゴロゴロという音がし始めて、そのうちに「ドドーン」とか「ガラガラ」とかすさまじい音がするようになった。 『げ~まじかよ』 『・・・・・』 という雰囲気が張り詰めるが、閉じ込められた薄暗い部屋の中で雷の神の話をする神職の声が殷殷と響くだけで、誰も何もつっこめない。 雨の降る音が強くなってくる。雷は一向に去る気配がなく何度も何度も鳴り響いていた。 神職は何事もないように話を続けながら部屋の反対側に移動した。 棚(簡易な祭壇なんだと思う)にはお祓いに使われる祓串(はらいぐし)or大麻(おおぬさ)が置かれていて、これからお祓いの儀式をすることを告げるとそれを手に持って独特の言い回しを口にし始めた。 (お祓いの祭具(祓串or大麻)を払う対象にかざして左右に打ち振るうとお祓いになるらしい) 「大麻(おおぬさ)」 = 榊の枝に紙垂をつけたもの 「祓串(はらいぐし)」 = 紙垂だけを束ねて串に取り付けたもの 榊の木というのは古くから神の依り代として神聖な木とされ、紙は清らかなものとして祓い清める力があると信仰されてきた。 そういえばうちの実家の庭にも榊の木があって、神様に祀っていたなあ。 そんなこと(神様の依り代)を全然知らないから、おままごとに使ったり、ぞんざいに扱っていたような気がする^^; 雷の轟く中でお祓いが終わり、いよいよ部屋を出て国宝である本殿を観せてもらうことに。 (続く)
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