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もの・いきもの

●詩と短文(のようなもの)●



   もの・いきもの


    おかし
    チューハイ虫
    Red
    Blue
    コウカイ
    ちょう
    らんちゅう
    ある日のスケッチ
    悪戯
















おかし



 カールは指輪に。

 とんがりコーンは魔女の爪に。

 アポロはコックピット切り離して。

 ピザポテトは波にそって割ろう。

 ハイチュウはねじれるけど。

 ポッキーもいつかプリッツになる。

 カッパえびせんは斜めに構えて。

 ワサビーフの味の素は指の先で層になる。

 「果汁グミで前歯を欠いたことは?」

 「うまい棒は口の中を接着するんですよ」

 チロルチョコへの目的は実は包み紙だったり。

 ぽたぽた焼はなめるとじゅわじゅわうるさく。

 プッチョなんては最近過ぎて知らんわい。

 ねるねるねるねは化学者を養成するし。

 ヨーグルッぺはサギ師だったし。

 サクマドロップはハッカばっか貯蓄していた。

 スコンブはいつまでたっても変わることなく。

 つよくなるグリコはプレゼントに凝ってたね。

 チュッパチャプスはホネの髄まですすられて。

 ロッテのガムはおしろい真っ白塗ってらあ。

 そんでさ、シガレットはオトナ・コドモの味。











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チューハイ虫



 甲虫が飛んできた。
 ので、チューハイをやったら、
 虫のくせに千鳥足をやっていた。

 チューハイ
 チューハイ
 チューハイチュウウウウウウ。









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Red



「いろいろ言いたいこともあるだろうけど、もうこれくらいにしてくれ」
 と、赤苗商店のおやじが言った。
 高橋はそれでも何か喋ろうとしたが、おやじにビニール袋に入ったトマト三個を渡されたものだから、諦めて店を出た。
「ったく・・・」
 高橋は、足元の石ころを蹴って電柱にぶつけた。
 (家に帰るしかないか)
 そう思って、彼は商店街の路地を抜け、大馬川の土手に登った。
 夕暮れ時。川は今、鏡のようで、透明な水銀のようで、まるでルビーグレープフルーツのゼリーのような空の色をはねかえしていた。
 高橋は、そのはねかえった光が自分の体の表面を滑ったり、あるいは一部が体の中を通り抜けていくのを感じた。体がアルミホイルのような音を立てて、空気と反応しているような気がした。
 俺は、「巨大」という言葉さえ不似合いになってしまうほど巨大なゼリーの中にいる。だが、あの特有のゼラチン質を本当に肌で感じることは無いのだな。そう思った。
 斜面に草が生い茂った土手の上には、赤とんぼが飛んでいる。何十何百と飛んでいるものだから、遠くのほうのはトンボではなくカゲロウみたいに弱々しかった。
 あの虫は赤くない。赤いのは、あれが飛んでいる空間だ。だれがあのトンボは赤いなんて言ったんだ。
 そんな言葉が頭の奥から浮かんで、しかし、元通り沈んでいった。
 川に架かる橋の上には車が走る。
 橋の骨組みがクロスしているあいだを、空の光が抜けてきている。
 あれは今、「橋」ではない。そうなんだ。なにものでもない。それは一体となっている。嗅覚がわずかに反応してくれる以外は分からない世界と。体の隙間から入ってきて、誰にも見えない奥のほうにひっそりと存在するものとつながる世界と。
 が、その嗅覚もだいぶ迷っているようだ。
 高橋は川が流れてくるほうに歩いていった。トマトがぬるくなっている。











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Blue



 イソは、声を出した。
 トンネルの中で反響する。
 内側に水の模様がゆらゆらしている。
 まつげが風の流れをわずかに感じた。
 彼女は、トンネルの壁面に手を当てた。
 すると突然、色は白くなった。
 さっきまで青だったのに。
 手を離すと、元通りになる。
 それは壊れやすく、
 しかし元にも戻りやすい。
 空気には細かい謎の粒子が満ちていた。
 吸い込んでも害は無い。
 モルフォ蝶の鱗粉ほど存在を感じない粒だった。
 足元には水路、水の流れ。
 砂が、その底で動いたり止まったりしている。
 トンネルの入り口から入る光子が、流れ出る青を分解している。
 そこから先は違う色。
 どんな色なのかは、分からない。
 トンネルの奥のほうは、青が濃すぎて、黒い。
 その黒もやっぱり、流れていく青をせきとめている。
 さわろうと思えばさわれるかもしれないほど濃密で、
 けれども、
 ほんとうに触れようとしたら、手の先には何の反応も無くて、失望する。
 手を伸ばさずに、見ているほうがいいのかな。











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コウカイ




 コウカイでコウカイをコウカイしてコウカイした。

 紅海で航海を公開して後悔した。




      *****




  ヴァージョンアップ。

 コウカイとコウカイのコウカイをコウカイしたのを
 コウカイでコウカイしたが
 コウカイでコウカイされてコウカイしたので
 コウカイした。
 なにをコウカイ?

 紅海と黄海の公海を航海したのを
 公会で公開したが
 後会で更改されて降灰したので
 後悔した。
 なにを恋うかい?











 
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ちょう



 空から降ってきたもんしろちょうは私のすぐ傍に落ちて、まだ生きていたのだろう、しかしもう飛べないのだった。白く乾いたアスファルトの上で小さな銀細工が二対の羽をふるわせている。その横を大きな車輪がいっつい容赦なく通り抜けて、蝶は彼方へ置き去りにされる。せわしく宙を横切ったすずめは電線にとまって、そのか弱いいきものになにを思うか。振り返る。アスファルトの上にはまだ、白の点が見える。 
 私は、その薄い衣をこの手のひらで、すくいあげたかったよ。けれどどういうわけか、止まれなかったんだ。私は実は、ただ無関心なだけだったんだよ。己以外に対してのこんなにも悲しい無関心さ。私がきみの傍にとまれなかったのは、ほんの些細な理由からなんだ。まったく些細な。必要のない心配事だったのに。ほんとうに必要なかったのに。きみを手のひらに乗せて、もうすぐ終わってしまうかもしれないきみを、せめて、この手で埋めてやれたならよかったのに。きみは今、なにの一部になっているんだろう。夜露とならんで草の葉の裏にとまっていなければ。もうきみは、きみという枠組みを剥がされ、なにかの一部になっているのだろう。私は明日の朝、同じ道をとおる。そこにもしきみのかけらを見つけてしまったとしたら、私は、どうすればいいんだろう。どうすれば。












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らんちゅう



 水槽の水が、まるで存在しないようでした。透明な空間に、その魚は浮いていました。魚はまるまるとして、柔らかな尾びれを垂らし、空間の中心に静止していました。魚には目がありました。魚の目は黒いのです。画用紙の黒よりも、日本人の髪の毛よりも墨の色よりも黒いのです。その黒は、吸い込む黒です。いろいろなものを吸い込んで、あっけらかんと、内包してしまいます。魚は鮮やかな色を帯びていました。朱色の風船のように、水草のそばで浮き沈みしました。魚は水槽の外にいるだれかさんに、真正面から向き合いました。たまに左右の目で交互に、相手の細部まで確認するように見たりもしました。口がコプコプいいました。笑ってはいませんでした。でも怒ってもいませんでした。悲しんでもいませんでした。虚しくもないのです。彼らは、余裕綽々、付けられた値札どおりの価値を支払って自分を手に入れるやつが来るのかどうか、傍観しているのです。









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ある日のスケッチ



 ぼっこぼっこ空いた蝉の穴と
 片隅に小鳥の死骸

 鳩は飛ぶ
 ほろほろ喉が鳴る

 あかとんぼが垂直に
 ほてった空気の中を上昇し

 楠ノ木の若葉がほろりと
 甲虫の羽音とともに転がり落ちる

 公園のべんちには
 ひとりの老人

 太陽の下に木陰
 あすふぁるとの上の車の音










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悪戯 



 道端に、何かが落ちていました。
 生き物のようでした。
 拾ってみました。
 それは、トカゲのおもちゃでした。
 赤くて黄色混じりで、緑色のまだら模様が入っている、
 ぷよぷよしたおもちゃでした。
 手でゆすると本物のようでした。
 私はそれを持って歩きました。
 こんな、見ては驚かれ、
 触られては気持ち悪がられる可愛そうなおもちゃを、
 どうしたらよいのでしょうか?
 目の前にお店が見えてきました。
 お店の前には洒落た丸テーブルとイスが幾つか並べてありました。
 あるイスには誰も座っていませんでした。
 私は手の中のトカゲを見ました。
 次の瞬間、トカゲはイスの上に横たわっていました。
 私はそのまま、何食わぬ顔で、
 そこから姿を消し、
 すぐにトカゲのことを忘れました。


                      ‐大学・生協食堂前にて‐



















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