カテゴリ:カテゴリ未分類
白川が黒のインクタンクの入ったビニール袋を提げて戻ってきたとき、正平はもう戻ってきていた。床の上にしゃがんだ彼の前には1匹の猫がいて、皿から黙々とミルクをなめていた。その横で、机に斜めにもたれかかったはるかがメールを打っていた。そして同時に、正平と話していた。
「へぇ、正平君、今日テストだったんだぁ」 「そう。国語と技術家庭。もう今日で終わり」 「ふーん」 「技術は余裕だったねー。製図が入ってたんだけど、木製の本棚の、幅が調整できるのも付いてないやつだもんな。すぐにできた」 「やるじゃんやるじゃん」 「やるよー。おれはやるときゃやる男なんだからー」 「なにそれぇ」 白川は机の上に広げてある図面の束を見た。これが例の“投石器”の設計図だ。 彼はその図面を眺めた。これは道具じゃないよ、作品だよ、などと作った本人が言っていたが、よく見ればそれも大げさではないのかもしれない。直線と曲線と記号が複雑に絡み合っていて、線の密度が場所によって違い、微妙なコントラストを生んでいる。抽象画と言ってしまうには、妙にリアルな感じもする。これがなにを示しているのかは書いた本人にしか分かりそうになかったが、ただ眺めるだけでも面白い、というよりも妙に気になってしまう代物だった。 「工作、好きなんだな」 「そうだよ?」 正平は三毛猫の横で白川を見上げた。 だが、その作品本体のほうはもう警察署に「寄付」されてしまったため二度と拝むことは出来ないのだ。彼は目の端で苦笑いすると、図面を縦に丸めて輪ゴムで止め、入り口から一番遠いデスクの横に立てかけた。 「放っとくなよ、ちゃんとどっかにのけとけ」 「気にしすぎだよ」 正平は猫の背中を撫ぜていた。 続 Crooks お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
April 5, 2005 10:20:38 PM
コメント(0) | コメントを書く |
|