テーマ:ショートショート。(573)
カテゴリ:ショートショート。
ここはとある会議室。 ぱりりとスーツを着た役員たちが、 ひとつの大きな机のまわりに座っている。 役員たちは、こんな時間になるまで、議論に議論をつくした。 この議題は、決してないがしろにしてはならないものだからである。 だけれども、みなもう疲れがでていた。 なんてったって、いつまでたっても、 結論がでてこないのだから。 会議室の入り口とは正反対の場所にあるドアの向こうで、 結論は、もじもじしていた。 なんてったって、役員はたくさん並んですわっているのだ。 でたとたんに、するどい目つきでにらまれてしまうにちがいない。 それで、もじもじしていた。 役員たちは、腕組みをしたり、タバコをふかしたり、うーんとうなったりしながら、 結論がでてくるのを待っている。 そこで、今までころあいをみはからっていた役員のリーダーが、 「どうです、そろそろ結論をだしてみては」 と、皆に提案した。 「そうですね」 一人がそう答えた。 見まわすと皆、おなじ気持ちらしい。 結論は早くだしたい。 だけれども、なかなかだせなかったんだ。 ようしそれじゃあと、リーダーは席を立ち、入り口とは正反対のドアまでいって、 こんこんとノックした。 びっくりしたのは結論である。 結論としては、こんなに急に呼ばれるとは、 思ってもみなかったのだった。 だからあたふた部屋のなかを歩きまわって、 どうしようどうしようと頭をかかえた。 するとそのとき、 結論がじたばたしているのをみつけた新人の秘書が、 「もう、こいつうるさいわねえ」 えいっと、 ハエたたきでもって、叩きつぶしてしまった。 なんてったって、結論はそうぞうしすぎたからである。 秘書はそうしてすっきりすると、 街のカフェーにコーヒーを飲みにでかけた。 残されたのは会社の役員たちとそのリーダー。 リーダーは、いくらノックしても返事がないことに、 不審をいだきはじめた。 役員たちは、いくらノックしても結論を呼び出せないリーダーに、 不審をいだきはじめた。 そうして、不信任決議案が可決されて、 リーダーはリーダーではなくなり、 役員たちは席をたった。 それからしばらくの月日が流れたが、 結論はいまだ、 あの部屋の床にぺちゃんこにへばりついたままである。 いったい誰が、この結論を見つけるのだろうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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