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2016年01月15日
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テーマ:ニュース(72427)
カテゴリ:政治問題
 前回は憲法96条の改正から始めようなどと言って世論の批判を浴びた安倍首相は、今度は「手」を変えて、テロや大規模災害の際に分立した権限を政府に集中させることが可能となる条文を付け加えるという「改正」を目指すことにしたいらしいのだが、果たしてわが国憲法に、そのような条文が必要なのかどうか、早稲田大学教授の長谷部恭男氏は、月刊誌「世界」1月号に次のように些細な考察を掲載している;


◆日本国憲法の「欠陥」?

 2015年11月22日夜(現地時間)、パリで発生した同時多発テロ事件を受け、フランスでは「非常事態宣言」が発令された。この「非常事態宣言」は、フランス憲法16条に定められた緊急事態における大統領への権限集中規定、あるいは36条に定められた戒厳令とは全く関係のないものであり、「1955年4月3日の非常事態に関する法律」(以下、1955年法律)に基づいて発令されたものだ。

 この非常事態は、大臣会議のデクレ(政令)によって宣言され、それによって平常時にはできないことが可能となる。たとえば、劇場・酒場など人の集まるような場の閉鎖を命じることができるし、司法官憲の令状がなくても家宅捜索が可能となる。この1955年法律に基づく非常事態宣言は、近年では2005年10月、パリ郊外で若者が暴徒化した際に発令されたことがある。

 一方、フランス憲法16条に定められた大統領への権限集中規定は、これまでにドゴール政権時代の一度しか使われたことがない。というのも、この権限はその要件として、共和国の制度や国の独立、領土の保全、国際条約の履行が重大かつ直接に脅かされ、かつ憲法上の公権力の適正な運営が中断されるときに初めて発動できるとされており、きわめて使いづらい条項となっているからである。また、憲法36条に定められた戒厳令とは、治安と司法の権限を軍に委ねるというものであり、今日においてはその発動自体が想定しがたいものとなっている。

 さて、視線を日本に転じると、2015年11月10日、安倍晋三首相は参議院予算委員会の閉会中審査において、大規模災害や外国からの侵攻に対処するために、権力分立を一時停止して政府に権限を集中させ、国民の基本権に特殊な制限を加えることを眼目とする緊急事態条項を盛り込む憲法改正に、優先的に取り組む姿勢を打ち出している。

 そうした中で、パリ同時多発テロ事件が発生したことで、フランスでは緊急事態に対処するための条項が憲法に盛り込まれているからこそ対テロ作戦に機動的な対応が可能である一方、日本国憲法にはこうした規定がないために、「テロとの戦い」においての欠陥となっていると解説する一部報道もある。実際には、すでに述べた通り、現在発令されている非常事態への対処措置は憲法上の措置とは関係がないのだが、こうしたパリ同時多発テロ事件を受けた憲法論議が、今後の憲法改正論議に影響を与える可能性も否定できない。

 そこで本稿では、まず、日本において緊急事態条項を憲法に盛り込む必要性はあるのかを検討した上で、安保法制の成立によって、法制度上はこれまで以上に深い関与が可能となった「対テロ戦争」に対して、私たちがとるべき姿勢とは何なのかを考えてみたい。

◆日本に緊急事態条項は必要か

 日本において、緊急事態条項を憲法に盛り込む必要性はあるのだろうか。緊急事態条項を憲法に置いている有名な例としてよく挙げられる、戦後ドイツとの比較から考えてみたい。

 戦後ドイツのボン基本法によれば、外国からの武力攻撃に際して、防衛上の緊急事態が発生したか否かの判断権限は「連邦参議院の同意を得て、連邦議会が行なう」こととなっている(基本法25a条(1))。

 また、国民の基本権の制限についても、法律によって特別に権利を制約できる権限はきわめて限られており、基本法115c条(2)によれば、「公用収用についての補償を暫定的に規律する」権限と、身体の拘束に関する期間の限定を1日から4日まで延ばすことくらいである。しかも、115g条で、連邦憲法裁判所の任務の遂行を侵害してはならない旨も明確に規定されている。

 このようにドイツでは、緊急時の権限の集中の度合いにも厳密な歯止めをかけており、権限の集中と同時に、立法・司法・行政の密接な協力と相互抑止の仕組みを設けていると言える。多様な世論や利益を反映する議会、専門的情報を備えて機動的に行動できる行政、法の支配を実現する司法と、さまざまな強みと正統性根拠を持つ憲法上の機関が相互に協力したり歯止めをかけたりするプロセスを通じて、緊急事態への対応がなされることとなっている。

 では、日本ではどうだろうか。ドイツでは必要だった防衛上の緊急事態条項は、日本では必要性がきわめて乏しいと言わざるを得ない。というのも、日本はドイツのような連邦制国家ではなく、立法権が連邦議会と州議会とに分配されているわけではない。つまり、日本はドイツとは違って、緊急事態だからといって各州の立法権を連邦へと吸い上げる必要性がもともと存在しない。近ごろ話題となった日本国憲法53条に基づいて、内閣が早急に国会を召集し、必要な法律を作ればよいだけの話である。

 また、先述したような、ボン基本法の明文で言及されている公用収用の問題は、日本では有事法制や災害対策基本法のような関連法令ですでに解決済みである(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律、災害対策基本法64、65条、82~84条など)。身体の拘束についても、日本では刑事訴訟法上、もともと身柄拘束の期間が長く、捜査機関に対する司法的コントロールも緩い。そもそも、緊急事態に限って国民の基本権に特殊な制約を加えることは、有事法制があることからも分かる通り、現憲法下でもじゅうぶん可能である。

 緊急事態条項が必要だとする論者の中には、衆議院の解散中に大規模災害や外敵の攻撃があって、日本国憲法54条1項の要求する期間内に総選挙を施行できない場合に備える必要があると主張する向きもあるようだ。だが、そもそも滅多にない不幸に、さらなる不運が重なる場面を想定することが、どこまで現実的なのだろうか。

 むしろ、日本のように大規模な自然災害に見舞われるリスクが高いところで、原子力発電をいつまで続けるつもりなのか、そちらを真剣に議論するほうがよほど重要なのではないだろうか。かりに、東京電力福島第一原発事故と同規模の事故がもう一度起きたとすれば、日本は再起不能になってしまうだろう。原発を維持したままにしておくほうが、よほど国家の存立を脅かすリスクが高いはずである。

(以下省略)


岩波書店「世界」2016年1月号 144ページ「日本国憲法に緊急事態条項は不要である」から一部を引用

 この記事の冒頭にフランスの憲法と緊急事態条項の説明をもってきた理由は、パリの同時多発テロの直後という事情もさることながら、仮に憲法に緊急事態条項を入れるとしても国民の権利の一時的規制は最小限に止めるという配慮が必要なのだから、結局は「使いづらい」ものになるだけだと注意を促す目的と思われます。しかしながら、上の記事が示すようにわが国では既に有事立法を制定しており、緊急事態に備えた法律上の準備は万端整っており、もし欠けているものがあるとすれば「国会議員の4分の1以上の請求があっても臨時国会を開かなかった」政府の「やる気」だけじゃないのか、というお粗末なオチだったという話のようです。この例からも、どうも安倍首相がやりたいのは、国民のための改憲ではなくて、自分の名を歴史に残したいという功名心に過ぎないのではないかとの疑いが濃厚です。しかし、こんなことでは、後世の歴史家からは「歴史に名を残すために一番じたばたした首相」と言われるだけなのではないでしょうか。









最終更新日  2016年01月15日 19時43分51秒
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