昨日の欄に引用した東京新聞「新聞報道のあり方委員会」の記事の続きは、森友学園・加計学園問題について、次のように議論している;
――森友学園、加計学園問題の追及については。
魚住 森友問題については不満がある。新聞発行エリア外で足場が悪いこともあったのだろうが、他社と共通の土俵に立ち、特ダネ合戦をしてほしかった。加計問題は連載もあり、熱意が伝わってきた。
森友関連の質問主意書と答弁書を並べた紙面もよかった。こういう特ダネの取り方もあるのかと思った。
ただ、ひと昔前なら内閣がつぶれる話。マスコミの力が落ちたのではないか。
木村 森友問題は土地のことより、園児に教育勅語を朗読させていたことに驚いた。違反にならないのが理解できない。
野党もマスコミも政権に押し切られ、だらしなかったが、社会部の望月衣塑子記者が菅義偉(よしひで)官房長官の会見で、相手が嫌がるまで質問をしたのはすごい。嫌がらせもあると思うが、どんどん続けてほしい。
田中 富山市議会の政務活動束の不正受給をスクープしたチューリップテレビ(富山県高岡市)の記者は営業出身で、記者になって二年目。しがらみのない人が入ることで、化学反応が起きることがある。
吉田 森友、加計問題で、マスコミがもう一歩追及できなかったのは、お金ではなく、思想に基づく協力関係だからだ。安倍政権が続くなら、この点にもっと切り込んでほしい。
臼田 森友・加計問題では、現場が発行エリアの外なので、歯がゆい思いもある。ここ一番の時に特ダネ競争に勝ち抜くことは重要だが、そればかりでは旧来型の報道になってしまう恐れがある。試行錯誤している。
――公文書管理のあり方もクローズアップされた。
吉田 防衛省が南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報を破棄したと説明しながら、陸上自衛隊が保管していた問題で、当たり前のように隠蔽(いんぺい)が行われていることにはびっくりした。シビリアンコントロール(文民統制)の機能不全が如実になった。
木村 逆に文民の側が隠蔽を統制しちゃった。米国では公文書を破棄すると連邦法によって処罰される。米国人はまじめだから文書を残すのではなく、罰せられるからだ。
魚住 日朝問題では自衛隊の中堅幹部の本音だとか、彼らの間にある勢力争いだとか、いろんな生の話が、もっとほしかった。
――アべノミクスについての報道への意見は。
田中 日銀政策委員会の審議委員は安倍首相のお友達のような人ばかり。日銀が国債の四割を保有し、ETF(上場投資信託)も17兆円前後持っている。中央銀行がこんなことをしていいのか。経済の世界でも「安倍一強」のひずみが生じている。
マイナス金利で金融機関は疲弊しており、特に地方銀行は深刻だ。経済問題は国民全体に影響するので、もう少し報道してほしい。
臼田 アべノミクスはおかしいと言いながらここまできてしまった。新聞の追及が弱かったのかとも思うが、この先も続く話だ。分かりやすく伝えていきたい。
深田 新聞は読者にきちんと判断材料を提供するのが仕事。公器として、全力でやっていきたい。
2017年10月15日 東京新聞朝刊 10ページ「権力の監視 継続的に」から一部を引用
森友学園や加計学園問題は、一昔前なら内閣がつぶれる話だとの指摘が出ており、それが何故いまはつぶれなくなったのかという点を、私たちは考えなければならないと思います。戦争に敗れたあと、新しい憲法でスタートしたわが国の政界は、本音と建て前という要素も抱えながら、曲がりなりにもポリティカル・コレクトネスを尊重した政治を志向してきたはずであったのが、どうもこれは一部の政治家の世界のことで、一般国民の間にはあまり深く浸透しなかったために、戦後70年も経って、政治の世界が弛緩して、園児に教育勅語を暗唱させるなどという違法行為があっても問題視されるどころか、首相夫人が感激して100万円寄付するなどということが起こり、首相自身も個人的な友人の儲け仕事に国家権力を利用しても、社会はそれを大目にみるという、そういう状況になってしまったのではないかと思います。国民がそういう雰囲気になると、マスコミの追及もそれなりに弱くなってしまうのではないでしょうか。