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2020年01月16日
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テーマ:ニュース(81197)
カテゴリ:ニュース
一昨日、昨日と引用してきた新井田十喜氏の記事は、その後半で2015年の「日韓合意」を取り上げて、どのような問題を含んだ「合意」だったのか、国際社会の評価はどうたったのか、詳細な検討を行なっている;


◆4、「日韓合意」という詭弁

 年の瀬も押し迫った2015年12月28日、日韓両外相が緊急共同記者会見の場で突如発表した日本軍「慰安婦」問題に関する「合意」(「日韓合意」)は、両国の世論に強い衝撃をもって迎えられました。具体的な内容は次のとおりです。

(1)日本政府は「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」責任を痛感し、安倍晋三首相は「心からお詫びと反省の気持ち」を表明する(太字強調筆者)。
(2)韓国政府が設立する財団に日本政府の予算で10億円を拠出し、すべての元「慰安婦」の「名誉と尊厳の回復、心の傷の雍しのための事業」を行う。
(3)日韓両政府は(1)(2)の措置を前提に、「慰安婦」問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」し、「今後、国連等国際社会でこの問題について非難・批判することは控える」。

 「日韓合意」の発表に続き、韓国の尹炳世外交部長官(外相)は、民間団体が設置した在韓日本人使館前の「平和の少女像」の撤去や移転等に関して「適切に解決されるよう努力する」と表明しました。日本ではこの表明を含めて「合意」だと受け止める向きもありますが、「合意」はあくまでも(1)(2)(3)の内容にとどまるものです。安倍首相は「合意」の記者発表を受けて、「最終的、不可逆的な解決を70年の節目にすることができた。子や孫、その先の世代に謝罪し続ける宿命を負わせるわけにはいかない」と「70年談話」で示された認識を繰り返しました。

◇[過去の「アジア女性基金」、「河野談話」との比較からみる「日韓合意」の問題性]

 「日韓合意」は、発表直後の日本メディアの評価はきわめて高く、そこで取り上げられる世論も好意的な反応が大勢を占めていました。しかし、韓国内では、とりわけ被害者への聞き取りや事前の相談等は一切されなかった点、つまり被害者の声を無視した政治的妥結として秘密裏に遂行されたという事実が問題視され、被害者と支援者を中心に反対運動が展開し、やがて世論も彼女たちの声に耳を傾けるかたちで批判に傾き、最終的には朴種恵政権が崩壊するひとつの要因となりました。

 「日韓合意」は他にも多くの致命的欠陥をはらんでいますが、それらを列挙すると以下のとおりです。

(1)文書として作成されていない。

 つまり、公式文書がない「口頭約束」にすぎず、外交文書としては極めて効力の低いものです。それはつまり民主主義国家であれば、政権交代後変更されることが容易に想定される類のものなのです。

(2)「慰安婦」の強制性を否定した閣議決定の維持を表明したこと。

 安倍首相は「合意」後に、2007年の閣議決定に変更はない、と答弁をしましたが、当該閣議決定は、「河野談話」発表までに「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである」という内容のものです。しかし、それ自体が実は破たんした見解であり、「河野談話」の作成過程では、例えばオランダ領東インド(現インドネシア)のスマランで強制的に連行したオランダ人女性を「慰安婦」としたスマラン事件(BC級戦犯裁判『バタビア臨時軍法会議』で軍人7名と「慰安所」経営者4名が有罪判決を受けたもの)のケース等が参照されていたことがわかっています。

(3)性奴隷制度であったこと、奴隷状態に置かれていたことの否定。

 安倍首相は「合意」後に参議院予算委員会において「性奴隷制という事実はない」と断定(16年1月18日)し、岸田文雄外相も性奴隷という言葉は「事実に反するものであり、使用すべきではない」と答弁しました。そうであるのならば、「合意」で述べた「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」や、「慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた」という認定は一体何を認めたことになるのでしょうか。

 安倍首相らは、(狭義の-車隊・官憲が家に押し入り暴行をもちいながら無理矢理ひっぱっていくなど、物理的暴力が伴うもの-)「強制連行」でなければ「性奴隷」でなく、犯罪ではなかったとの認識を示しています。しかし、そもそも「慰安婦」問題の本質は「強制連行」等の連行の形態にあるのではなく、「意に反して強いられた」制度や行為の実態そのものにあるといえ、国際社会はそれらを問題にしているのです。そして、「慰安婦」制度のもとで、被害者たちは「居住の自由」「外出の自由」「廃業の自由」「軍人の性の相手を拒否する自由」を奪われていたのであるから、性奴隷状態に置かれていることは明らかであり、だからこそ、日本軍「慰安婦」制度は性奴隷制であるとの認識が広がっているわけです。

(4)賠償ではないという「日韓合意」。

 岸田外相は、共同会見直後の単独の記者会見で、10億円は「賠償ではない」と明言しました。すなわち、請求権問題は、1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場を堅持した上で、10億円は「賠償」ではなくあくまでも支援金(それはつまり、当事者以外の第三者が払うもの)としての性格を有するものであると説明しました。

(5)真相究明措置、再発防止措置は言明されず。

 さらに加えて、「日韓合意」では、「アジア女性基金」や「河野談話」が言及した真相究明措置や、再発防止措置についてはまったく触れられず、その意味においても両者の歴史認識からさらに後退した措置であることは明らかでした。

◇[「日韓合意」の国際的位置づけ]

 以上のように多くの問題をはらんだ「日韓合意」に対しては、国連をはじめとする国際社会は極めて厳しい評価をくだしています。すなわち、女性差別撤廃委員会の最終所見(2016年3月7日)では、「『日韓合意』は被害者中心アプローチを十分に採用していない」とし、「被害者/サバイバーの見解を十分に考慮し、彼女たちの真実・正義・被害回復措置に対する権利を保障すること」を勧告しました。また、国連人権専門家たちは、「『日韓合意』は重大な人権侵害に関する国家責任の基準に合致していない。過去の日本政府と軍部の明らかな責任を認める明確で公式な謝罪と適切な賠償が被害者たちを保護し、真実と正義を守ることができる」との共同声明を発表しました(2016年3月11日)。拷問禁止委員会にいたっては、最終所見(2017年5月12日)で「合意の見直し」という厳しい勧告を行いました。

 日本国内では、「日韓合意」をメディア、世論はおおむね肯定的に評価しましたが、一方韓国内では、「被害者の声を抜きにした妥結」であるとして大きな批判が寄せられ、政権交代を迎えるひとつの要因にもなりました。そして、新たな文在寅(ムンジェイン)政権は「日韓合意」にいたる協議過程を検証し、18年1月9日「日韓合意に関する新方針」を発表しました。そこでは、

(1)被害当事者たちの意思をきちんと反映していない15年の「合意」では、「慰安婦」問題を真に解決することはできない、
(2)15年の「合意」が両国間の公式合意だったという事実は否定できず、したがって韓国政府は日本政府に再交渉は求めない。ただ、日本側が自ら、国際的な普遍基準によって真実をありのまま認め、被害者の名誉と尊厳の回復と心の傷の癒やしに向けた努力を続けてくれることを期待する。被害者の女性が一様に願うのは、自発的で心がこもった謝罪である、

とまとめています。

 そして文政権は18年11月、当初日本政府の拠出した10億円で設立された「和解・癒し財団」を解散させる決定をしました。日本政府は財団の活動を「慰安婦」問題の「最終的かつ不可逆的解決」をうたった「日韓合意」の根幹と位置づけていたため、このことはますます日本政府・世論の反発を強める結果となりました。しかしながら、右の「新方針」にあるように、そもそも、被害者に対して心のこもった、行動に裏打ちされた「真の謝罪」がないまま、「慰安婦」問題の「最終的かつ不可逆的解決」など望むべくもないのです。

◆おわりにかえて

 本稿を閉じるにあたり、今一度、「70年談話」の内容に立ち戻って考えてみたいと思います。「70年談話」の最大の欠陥は、日本の植民地支配への視座が完全に抜け落ちていることにあります。その上で、冒頭でも引用したように、「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と断言する厚顔無恥な姿勢には愕然とします。百歩譲ってそのように断言するのならば、「親」や「祖父母」たちの世代、「70年談話」を発表する政府が主体となって「謝罪」する責任を引き受けるべきは当然の道理であるにもかかわらず、そのような気配は微塵もありません。「70年談話」では「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。」として、サンフランシスコ講和条約や二国間条約等で賠償請求権は相互放棄したという歴代内閣の見解にのっとり、金銭的賠償の支払い義務(=「法的責任」)は負わないとする方針を貫徹しているのです。しかし、先に述べたように、昨今の研究によれば、日韓請求権協定の交渉過程では、日本軍「慰安婦」問題等植民地支配下の反人道的行為は議論の対象とされていないことが明らかになっており、交渉内容に含まれていなかった事項が、その条約によって「解決済み」とされることは果たして妥当なのでしょうか。

 日本政府の立場に反して、被害国・地域のみならず国際社会では広く、日本はいまだ「謝罪」をしない不誠実な国だと認識されています。それは一体なぜなのでしょうか。そのことを理解するためには、被害者たちが求める「謝罪」とは一体どのようなものなのかについて考えなければなりません。まず「謝罪」を行うには、そのための前提として、対象となる事実の調査と責任の追及を徹底的に行わなければならないし、調査によって判明した事実を正確に周知させねばなりません。つまり、「謝罪」とは史実の調査・責任追及・資料保存と継承等に裏打ちされたものなのです。そのような議論の提起と理解は、1990年代以降おもに国連の場で議論され、今や国際社会の場で広く認知されています。

 ひるがえって、これまで歴代内閣が表明してきた「お詫び」と「反省」には、果たして史実の調査と責任の追及、保存、継承がともなってきたでしょうか。村山内閣時の「アジア女性基金」は、日本軍「慰安婦」制度に対して「法的責任」は解決済みとの方針から「道義的責任」を果たすためのものとして組織されましたが、被害女性や支援組織による支持はほぼ得られませんでした。その理由は、一言でいえば史実の調査に裏打ちされた誠実な姿勢とは評価されず信頼関係が築けなかった、つまり「真の謝罪」とはほど遠いと理解されたためなのです。さらに被害者たちの不信感を補強したのが、日本の政治家たちの度重なる歴史修正主義的な妄言です。いくら「お詫び」と「反省」を標榜したとしても、政治家たちがそのような発言を繰り返せば「真の謝罪」とはみなされないのは至極当然のことでしょう。「日韓合意」はなおさら、安倍首相をはじめ立役者らが歴史修正主義的な歴史認識を堅持したまま、日本軍「慰安婦」をめぐる無知(無恥)を堂々と繰り返すわけですから、もはや「百害あって一利なし」です。

 つまり、これまで日本政府は史実の調査に基づく「真の謝罪」を行ってきたことは皆無であり、そのような姿勢が政治家の妄言や現在の歴史修正主義に無関心でヘイトスピー千を許容してしまう日本社会に端的に表れているとさえいえます。

 一度でも被害者の声をきいたことがある人ならば、被害者が求める「真の謝罪」とは一体何であるか、そのことに気付くはずです。被害者たちは、自らの身に起きた出来事を他者が学び、記憶し、同じ過ちを繰り返すことのないよう後の世代に伝えることを切望しています。裏を返せば、被害者たちにとって証言を否定され、軽んじられることはさらなる被害の重複に他なりません。以上のことを踏まえれば、後世はこれからも史実を調査し、記憶を継承し学ぶという意味での「真の謝罪」を引き受ける責任を負い続けるのです。
(にいだ・とき)


月刊「前衛」 2020年1月号 126ページ 「日本は何度も謝ったのか」から後半を引用

 村山内閣の「アジア女性基金」や安倍内閣の「日韓合意」が報道されたときは、そういう活動で一人でも多くの被害者が救済されればいいなと思ったものでしたが、どれも被害者が納得するような結果が得られなかったことを、日本国民は真剣に受け止めるべきと思います。上の記事も指摘するように、被害者が求める「謝罪」はその前提として、どのような「事実」があったのかという明確な認識が必要で、そのための歴史研究の成果は発表されているのですから、そのことを日本政府は広く世間に周知する必要があります。その上で、当時の日本軍と日本政府に明らかな責任があったことを認めて、資料を保存し後世に伝えるという作業を通じて始めて「謝罪」が被害者側に受け入れられる、という指摘は重要です。これは、取りも直さず「河野談話」に述べたことを誠意を持って実行することを意味していると思います。






最終更新日  2020年01月16日 00時00分15秒
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