1回目にとどまらず2回目の政権も病気を理由に放り出した安倍晋三氏の言動について、ライターの武田砂鉄氏は、11月15日の「しんぶん赤旗」に次のように書いている;
安倍晋三前首相が辞意を表明したのは8月28日の金曜日。なぜ曜日まで覚えているかといえば、ちょうど金曜日の夕方にラジオのレギュラー番組を担当しており、辞意表明を受けて番組が30分短縮、緊急特番が組まれたからだ。急展開だったこともあり、その特番に、自分がそのまま、コメンテーター的な役割で出演することになった。
◇ ◆ ◇
会見を聞いた上で、コメントをしなければならなくなった。急いでメモを取りながら、要旨をまとめていく。「いかがでした?」と問われ、こんな内容を話したのを記憶している。
「安倍首相は、在任中に達成できなかったこととして、3つをあげました。
北朝鮮の拉致問題、
ロシアとの平和条約、
そして
憲法改正です。
これらについて、志半ば、あと少しでできたのに、というニュアンスの話をされていましたが、どうでしょう。そんなことはないと思うのですが……」
ご存じの通り、この会見後、体調不良で辞めた安倍前首相に対し、「まずはお疲れさまを言おう」との空気感が高まり、体調に対する揶揄(やゆ)ではなく、安倍政権が放置してきたこと、隠してきたことに対する苦言まで、今はそんなこと言うべきじゃない、との指摘が飛び交った。
コロナ対策だけではなく、森友学園問題の再調査、桜を見る会の疑惑解明、辺野古基地移設問題、イージスーアショアの今後など、問うべきことはいくらでもあった。だが、それらが、辞任という判断によってすっかり薄まってしまった。彼の次に首相になった人は、ずっと彼のそばで仕事をしてきた人なのだから、そのまま引き継がれるべきなのだが、それらの議論はもう済んだこと、というスタンスを貫いている。
◇ ◆ ◇
8月28日の会見を安倍前首相は「治療によって何とか体調を万金とし、新体制を一議員として支えてまいりたいと考えております」と締めくくった。一議員としてとどまるのであれば、残した問題に少しは言及していくのだろう、と思っていたらそんなことはない。
むしろ、自由になった身分を謳歌(おうか)していらっしゃる。開催が危ぶまれている東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長が、組織委の名誉最高顧問に安倍前首相が就任すると発表した。続いて、自民党の「ポストコロナの経済政策を考える議貝連盟」の会長にも就任した。それを伝える毎日新聞(11日)の記事には「活動を活発化させており、周囲からは早くも3回目となる将来の首相登板を期待する声も出ている」なんて文言もある。
今月頭には地元・山口に帰り、県庁で挨拶、「憲法改正をはじめ、やり残した仕事もある。今後は一議員として残した課題に取り組みたい」と、再び憲法改正について言及した。
なんだろう、これは。今、私がSNSで安倍前首相について言及すると「もういいよ。見たくない」的なコメントがつく。その乱暴さは危険だ。彼に対して、あれってどうなったんですか、説明がまだですよ、と改めて問うべきではないだろうか。
(たけだ・さてつ ライター)
2020年11月17日 「しんぶん赤旗」 10ページ 「武田砂鉄のいかがなものか!?-説明がまだですよ」から引用
この記事は、表向きは安倍晋三前首相の言動について記述しながら、しかし筆者が訴えたかったのは「なんだろう、これは」と言っているところの、世間の「まずはお疲れさま」「(政権批判に対しては)今はそんなこと言うべきじゃない」という「反応」であるわけです。私が思うに、安倍氏は「自分がここで政権を投げ出せば、『まずはお疲れさま』風に反応する声は必ず出る」と計算した上での行動だったのであり、7年8か月でため込んだ数々の疑惑の「マイナス・ポイント」を「そういう声」で清算して、晴れて「第三次」に向けてゼロからのスタートを切る予定でいることは間違いないでしょう。しかし、国民はそういう邪な計画を許してはならないと思います。折しも検察は「桜を見る会」前夜祭の会費不足分を安倍事務所が負担している事実を確認したと報道されており、「桜問題」に関する安倍首相の国会答弁は全部偽証であったことを検察は認識したようですから、この問題については、最低でも本人を書類送検しないことには法治国家の名が廃るというものではないでしょうか。