植村札幌裁判で原告側弁護士だった大賀浩一氏は、確定した判決について、4日の「週刊金曜日」に次のように書いている;
植村降氏が櫻井よしこ氏らを相手取った名誉毀損訴訟は、今般の最高裁決定により、原告の請求を棄却した札幌地裁判決が確定した。
札幌地裁判決は、櫻井氏が植村氏を「捏造記者」呼ばわりしてその社会的信用を低下させたこと、すなわち名誉毀損の成立を認めつつ、櫻井氏が植村氏による「捏造」を真実だと信じたことには相当の理山があるとして免責した。
この判決は、「従車慰安婦とは、太平洋戦争終結前の公娼制度の下で戦地において売春に従事していた女性などの呼袮のひとつ」などと、河野談話などの日本政府の見解にも反する特異な歴史観をあからさまにした上、かかる歴史観を共有する櫻井氏の名誉毀損行為を安易に免責した不当判決に他ならない。
最高裁が、これまでいくつもの判例により営々と積み上げてきた名誉毀損の免責法理を正しく適用せず、植村氏や元「慰安婦」の方々、あるいは韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協、現正義連=日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯)への直接取材を全くしないなど、確実な資料・根拠もないまま、29年前に書かれた植村氏の記事を「捏造」と決めつけた櫻井氏を免責した札幌地裁・同高裁判決を追認したことには、強い憤りを覚える。
とはいえ、一連の司法判断は、植村氏の記事を「捏造」と決めつけた櫻井氏の表現そのものが真実であると認めたものではない。
むしろ、札幌地裁判決では、櫻井氏が元「慰安婦」の金学順氏を「継父によって人身売買され慰安婦にさせられた」と決めつけた点は「真実と認めることは困難である」と明確に認定した。
櫻井氏自身も、金氏が日本政府を相手取った訴状には「14歳の時、継父によって40円で売られたと書かれている」と真実に反する表現に及んだことを、札幌地裁の被告本人尋問で認め、「産経新聞」と「WiLL」に訂正記事を出さざるを得なくなった。
これらの事実からは、安倍晋三前首相ら一部の人びとが、”取高裁判決も植村氏の「捏造」を認めた”などと吹聴しているのは真っ赤なウソであることは火を見るよりも明らかだ。これらの人びとは、自分が名誉毀損で訴えられたとき、<判決が「捏造」と認めたことは真実であると信じた>ことに相当な理由があることを立証できる自信があるのだろうか。
植村氏が櫻井氏らを相手取った訴訟そのものは敗訴に終わったが、植村氏が敢然と訴訟に立ち上がった結果、櫻井氏による「捏造」非難を契機としたバッシングの嵐、植村氏やその家族・勤務先の大学に対する卑劣な脅迫行為をきっぱりと止めることができたのは、大きな成果であると確信している。
これまで本訴訟を支援してくださった皆様には、この場をお借りして心からの感謝を申し上げるとともに、二度とこのような人権侵害が繰り返されることのないよう、引き続き尽力したいと思っている。
<おおが こういち・植村札幌裁判弁護団>
2020年12月4日 「週刊金曜日」 2020年12月4日 「週刊金曜日」 1307号 29ページ 「判決は『捏造』を認めていない」から引用
この記事は、植村札幌裁判がどのような内容で、何が本質なのか、簡潔に記述されているので分かりやすいと思います。櫻井よしこを初めとする「慰安婦否定派」が何度となく右派の雑誌に書いてきた「デマ」が、法廷で櫻井本人の口から「事実ではない」と明言され、「産経新聞」や「WiLL」にこれまでの主張を訂正する記事が出たことは、世論を正しい歴史認識に導く大きな一歩になったと言えるのではないでしょうか。