SNSで切り抜き動画を多用した参政党と国民民主党が大きく議席数を伸ばした今回の参議院選挙について、朝日新聞記者の前田直人氏は、10日の同紙夕刊コラムに、次のように書いている;
「もしや、ショート動画の威力なのでは?」
そう直感したのは、SNSの威力が話題になった昨夏の東京都知事選と昨秋の兵庫県知事選でのことだ。
ピンと来る体験があった。私の趣味は音楽情報を追うこと。YouTubeやTikTokを、私用のスマホでよく見る。特に、指先でめくるだけでいいショート動画は便利だ。
興味をそそる場面が元動画から切り取られた1本60秒ほどのショート動画は、内容がおもしろければ一気に再生回数が伸びる。おすすめのアルゴリズムに乗って日常に割り込み、好反応なら、似た動画が芋づる式に後に続く仕組みだ。
視覚効果は鮮烈で、ついのめり込む。若者に人気のTikTokが特に使いやすく、認知への影響も大きい。音楽だけなら「楽しかった」で済むのだが、政治ネタが近年急に増えたことが気になっていた。
8月に「1議席のみらい SNS政治の新時代」という特集記事を展開した。その取材は、選挙の最前線に詳しい専門家や同僚記者とともに、この体感を確かめる作業となった。
結論から言うと、肌感覚の通りだった。
核心は、選挙関連動画の急増だ。選挙ドットコムを運営する「イチニ」社長の高畑卓さんが見せてくれたデータは衝撃的だった。昨年の衆院選期間中は3億回に満たなかった選挙関連動画の再生回数が、今回の参院選では17億5千万回にふくらんだというのだ。
「切り抜き職人」という言葉も多用された。自発的にショート動画を切り抜き、広める支援者たちのことだ。参院選で躍進した参政党や国民民主党は、この領域で優位に立っていた。
かくして「数%の得票率をかせぐ程度だったネット地盤が、数十%の影響力を持つようになった」(JX通信社の米重克洋さん)。もはや地殻変動である。
記事掲載後、旧知の政党関係者からも戸惑いの声が届いた。各党は今後、「切り抜き職人」育成に励むようだ。だが、それだけでは済まないだろうと思う。
一貫性が見えない「切り抜きポリティクス」の時代である。いかに格差と貧困、孤立化といった不満の奥底にあるものを読み取り、全体像を描き直せるか。それなしに政治課題の解決にはたどり着けない。
政治が大変革期に至ったことは間違いない。オールドメディアと呼ばれる私たちも正念場だ。腰を据えて役割を問い直し、アップデートを重ねるしかない。
(編集担当補佐〈前政治部〉)
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<まえだ・なおひと> 1992年入社。山口、福岡勤務をへて2000年に政治部。政治取材、選挙報道に長く携わり、16年から4年余り世論調査部長を務めた。25年参院選では政治部記者として主に比例区取材を担当。9月から編集担当補佐。
2025年9月10日 朝日新聞夕刊 4版 5ページ 「取材考記-政治 切り抜きより全体像を」から引用
この記事によれば、参政党と国民民主党がSNSの切り取り動画の多用で大量得票に成功したので、今後は各党が「切り抜き職人」育成に励むことになるらしいと書いているが、私は、SNSの切り抜き動画によって各党の政策の訴えが、果たして正確に有権者に伝わるのかどうか、大いに疑問だと思います。今回、動画に釣られて参政党に投票した人たちは、参政党が主張した「日本人ファースト」が、「外国人は優遇されている」というデマを拡散する手段であって、「外国人が優遇されている」という事実はないのに、参政党はしつっこくそのデマを流し続けたことを、今ごろどう考えているのか、あるはまた、まだ気付いてもいないのか、そういう問題は脇において、ねこもしゃくしも「切り抜き動画」というのは、何か釈然としないものを感じます。