中国がロシアと朝鮮民主主義人民共和国の首脳を招待して「抗日戦争勝利80年」を祝う軍事パレードを実施したことについて、毎日新聞専門編集委員の伊藤智永氏は、6日付け朝刊のコラムに、次のように書いている;
こんな光景は見たくなかった。中露朝3カ国の独裁的指導者たちが「抗日」を冠に頂く軍事パレードで談笑し閲兵する図。ヒトラー、ムソリーニ、東条英機の日独伊三国同盟首脳が一堂に会したら、こんな印象だったのか。
抗日戦争勝利80年? 政治プロパガンダのでたらめも甚だしい。
80年前、日本軍と戦った中国の主力は、後に内戦で共産党軍に台湾へ追われた国民党軍だ。
旧ソ連は、終戦1週間前に日ソ中立条約を一方的に破って旧満州(現中国東北部)と朝鮮へ侵攻。日本のポツダム宣言受諾後も南樺太・千島列島へ侵略を続け、60万人近い日本人を拉致、抑留し、強制労働させた。当時から国際法違反のオンパレードである。
朝鮮人の抗日闘争は実体に乏しく、大半は北朝鮮建国神話のための創作というのが定説だ。
第一、日本を倒したのは米国、日中戦争で中国を支えたのは英国だ。両国の参加しない戦勝記念などあり得ないが、歴史の偽造が現に国際政治を動かしている。
トランプ米大統領は自身のSNSで、戦時中の日本を「侵略者」と呼び、3首脳集結を「米国へ対抗する企て」とけん制しながら、自分は3人それぞれと話ができる関係だと誇示した。やっぱり「TACO」(トランプはいつもビビって退く、の頭文字)だ。
認めなければなるまい。第二次大戦後の米国主導による国際秩序や国際法の原則は、すでに壊れている。代わりがないので、専門家は「こんなのおかしい」と嘆くばかりだが、正しくない現実にも向き合わなければならない。
日本は何をすべきか。まず、こんな時「総裁選ごっこ」にうつつを抜かす自民党の解体。自民党は冷戦期の産物だ。「自由主義経済を守るコスト」として企業・団体献金を集めたが、冷戦後のグローバル経済で名目を失ったのに惰性で集めるから腐り果てる。「解党的出直し」ではなく、解党して政界再編に挑むべきである。
戦争と平和の見方も変わらざるを得ない。2週続けて惰性で続く戦後80年回顧への疑問を書いた。敗戦を平和と民主主義への希望と抱きしめ、米国主導の占領改革に身も心も投じて築いた繁栄。戦後の反戦主義も「アメリカの影」抜きには成り立たなかった。
今や米国は変わり、国際法も虫食い状態だ。歴史が「現在と過去との間の尽きることのない対話」である以上、歴史の見方には現在の世界の見方が映される。それでも過去からの声、死者たちの言葉なき沈黙に耳を閉ざせば、歴史の報いを受ける。
(専門編集委員)
2025年9月6日 毎日新聞朝刊 13版 2ページ 「土記-戦後秩序が壊れた後に」から引用
この記事は、冒頭で「こんな光景は見たくなかった」などと失礼なことを書いているが、1945年の夏に大日本帝国は中華民国を含む連合国軍に降伏したのは事実であり、現在の中国政権は日本の降伏の4年後に発足した新政権であるのは事実だが、かつて中国が日本の不当な侵略戦争をはね返して勝利したという「史実」を記念する行事を実施することは自然なことです。また、ロシアと朝鮮民主主義人民共和国が、ウクライナを侵略したり核兵器の開発を進めたりしているのは、アメリカ帝国主義がロシアと朝鮮民主主義人民共和国を封じ込める政策を継続して両国の経済活動を妨害してきた結果の「問題行動」なのであって、両国を世界のならず者であるかのように表現するのは片手落ちというものだと思います。しかし、その一方で、「こんな時に総裁選ごっこにうつつを抜かす自民党は解体するべき」というのは、確かにその通りです。日本の「失われた30年」は、世襲議員や裏金議員たちの政党が「立て直す」には、荷が重すぎるのだから、一度解体して、変な右翼思想に染まっていないまともな議員を集めて、新党を作るのが良いと思います。