少数与党だった自民党が一気に巨大与党と化した1月の衆議院選挙について、東京大学教授の宇野重規氏は、2月15日の東京新聞コラムに、次のように書いている;
高市早苗首相は政治的な賭けに勝利したようだ。2026年1月19日、衆議院解散を表明した記者会見で「高市早苗が内閣総理大臣で良いのかどうか」が争点であると高らかに宣言した。個々の政策でもなければ、政権のあり方でもない。自民党ですら問題ではない。高市早苗を選んでほしいという直截なアピールは実に異例のものであった。ここまで「私」を前面に出した選挙は日本の憲政史上でも珍しいのではないか。
「大義なき解散」、「政策論議を欠いたむなしい選挙戦」との批判にもかかわらず、高市首相率いる自民党は戦後最多の316議席(追加公認含む)を獲得、文字通り「地滑り的圧勝」となった。衆院で3分の2を確保した高市首相はあらためて憲法改正に取り組む意思を表明したが、この選挙は日本の戦後史の大きな転換点となるかもしれない。
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選挙中にしばしば耳にしたのが「推し活」である。高市首相をあたかもアイドルかのように支えた支持者の姿を「サナ推し」と揶揄する声もあった。政策をめぐる議論は吹き飛び、ひたすら首相のパーソナルな「物語」に動かされる人々が現れたことは、日本政治の変化を感じさせた。この選挙を通じて、「私」をひたすら語る首相と、それに共感して「私が支える」と思う有権者、その両極において〈私〉化が進んだことをどう捉えるべきか。
筆者はかつて「〈私〉時代のデモクラシー」という本を書き、2年ほど前に出した「実験の民主主義」では「ファンダムが政治を動かす」と論じた。アニメやアイドルのファンが、「推し」の対象に示す無償の献身や熱狂がひとたび政治に導入されたときにどうなるか。トランプ米大統領の支持者に見られるファンダムの政治が、既成の政党組織や選挙活動を覆す可能性を論じたものだ。
今回の衆院選は、このような「推し活」選挙が日本でも進んでいることを如実に示すものである。自分がいいなと思う「顔が見える」個人への投票は、既成政党への一体感の薄れた現在の有権者にとって、ますます魅力的になるだろう。スマホとSNSによって「推し」のスピードは加速し、人々の感情を揺さぶって誘導する操作は激増する。組織の論理や果てなき利益追求にくたびれた人々にとって、「好き」の感情は実に強力だ。それだけに、このトレントがすぐに収斂(しゅうれん)するとは思えない。
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ファンダム政治に私たちはいかに向き合うべきか。重要なのは「推し活」をポピュリスムの道具ではなく、民主主義のために活用することだ。確かにますます人々が共感できる「顔が見える」リーダーが鍵になる。発信力のある政治家の養成は、イデオロギーの左右を問わず急務だろう。既成政党組織が排除してきた女性や若者、少数派が大切な供給源となるはずだ。自分たちの理想や政策をしっかりと説得的に語れるリーダーを育てたい。
しかしながら、大切なのはそれだけでない。「推し活」の暴走を防ぐのは明確な政策的選択肢の提示と、一時的ではない継続的で持続的な日常の政治活動だ。「好き」の思いを地に足のついたものにするには、「何が社会にとって大切なのか」をめぐる地道で、真摯な議論が不可欠だ。「推し活」を恐れすぎてはならない。民主主義がそれを使いこなすための工夫が、いま求められている。
2026年2月15日 東京新聞朝刊 11版 5ページ 「時代を読む-『推し活』を恐れるな」から引用
受験生の間ではわが国最高峰と言われる東京大学の教授たる人物の、先の衆議院選挙に対する認識がこの程度とは、甚だがっかりである。学者であるなら、憲法に規定された「国会解散」の条件が存在しないのに、首相の個人的な都合で「解散」したのは明らかな「憲法違反」であると、指摘するのが学者の仕事というものであろう。しかも、解散にあたって高市早苗は「(自分自身が)内閣総理大臣でいいのか問う」と言いながら、自分のこれからやろうとする「政策」については、有権者に向けての説明は一切せず、テレビの討論番組もドタキャンする始末で、有権者をつんぼ桟敷に置いたのだから、「自分が総理大臣でいいのかどうかを問う」などという発言は詐欺師のセリフであると、厳しく指摘するべきである。それを「高らかに宣言した」などと持ち上げて見せる態度というのは、強いものに媚びる日本のメディアと同様であり、このような「態度」では民主主義の健全な発展は期待できず、ファシズムの芽を摘むこともできません。しかも、これからの選挙で「押し活」が重要になるのであれば、イデオロギーの左右を問わず発信力のある政治家の要請が急務であるなどと書いてますが、これもどこかピントがボケており、自民党候補者がSNSを活用して「押し活」に勝利したのは、それぞれの候補者がSNSを使いこなしたからではなくて、野党候補が手にすることができない違法な企業献金で大勢のソフトウェア・エンジニアを雇用して、一人当たり数百件ものアカウントを偽造させて自民党候補を盛り上げたという「問題」には目隠しをしている。その上、50%に満たない得票率で衆議院の80%以上の議席を占有するという致命的な選挙制度の欠陥も見落としている。このような状態では、わが国の民主主義はいよいよ暗雲に包まれていくばかりです。