昨日の欄に引用した朝日新聞「交論-危うい核保有論」の中で、元外務事務次官の薮中三十二氏は、次のように批判的な見解を述べている;
――高市早苗政権では首相自らや周辺から、戦争にまつわる勇ましい発言が相次いでいます。
「ちょっと理解に苦しむことが続きました。昨年11月の『(台湾有事は)存立危機事態になりうる』とした首相発言も、質問した方がおかしいみたいな議論が出ました。長く国会を見てきましたが、質問者が批判されるなど聞いたことがない。質問をどうかわすかが首相の腕の見せどころでもあるわけですから」
――防衛強化に突き進んでいる印象です。
「私がすごく驚いたのは首相が都内での講演で、『(日本の)継戦能力を高めていかなければならない』と述べたことです。継戦能力というのは、弾薬や燃料などを中心に戦闘を継続できる能力を指す専門用語。もちろん防衛力強化の観点から継戦能力を高めておくのは当然で、防衛当局が粛々とやれば良いことです。しかし、『ウクライナをみても戦争は長く続く、だから継戦能力を高めなきゃいけない、そのために所得税を1%引き上げる』ということを一国の首相が言った。いったん戦争が始まれば多くの人が死んで、街は壊れ、領土まで奪われる。ウクライナの教訓は、何としても戦争を回避すること。そのための外交努力こそが大事です」
「この首相発言について朝日新聞は小さな記事を書いただけで、もっとしっかり報じるべきだと思いました」
――……。昨年末には官邸幹部による「核保有」発言もありました。
「核の問題の議論自体がダメだとは言えないでしょう。ただ、何のために議論するのか。例えば米国の核をシェアする核共有というのがあります。韓国でも核共有が必要ではないかという声が出ています。だが米国の回答はいずれも『ノー』です。日韓に提供している拡大抑止の実効性を保てば十分なはずだ。米国からすると、自分たちが信じられないのですか、ということです」
――高市さんは「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則のうち、「持ち込ませず」の見直しを持論としています。
「2009年、政権が民主党に移り、当時の岡田克也外相が外務次官だった私に、いわゆる日米の核持ち込み密約の調査を命じました。それを私の責任で全面的に調査し、公開しました。ただ、米軍が冷戦終結後に水上艦の核搭載をやめたことにより、密約の実際の意味はなくなっていました。米軍からすると、艦船に核兵器を載せる方が軍事的にはかえって危ない。原子力潜水艦に載せてあるから不要なわけです。そうなると、抑止力を高めるために三原則を見直し、『核持ち込みを可能にする』といっても、米国からすると時代に合っていない」
――国会には「核武装は安上がり」と話す議員がいる時代となりました。
「これは核共有とは次元がまったく異なる。官邸幹部の『核保有』発言後、官房長官は非核三原則を堅持し、NPT(核不拡散条約)体制を守っていくと述べました。唯一の戦争被爆国として、日本は核廃絶を訴えてきた国柄です。そもそも(核保有は)本当に日本の安全につながるのか。抑止力を高めるのか」
――実際に核保有となれば制裁など多くの困難が予想されます。
「核を持つとなれば、NPTに違反するわけです。北朝鮮みたいになってしまう。世界から批判も制裁も受ける。その覚悟があって言っているのか。大いなる矛盾だと思います」
「北朝鮮について言うと拉致問題は絶対に解決しなければなりません。同時に非核化のための外交をもっとやる必要があるが、それがあまり見えません。トランプ米大統領は北朝鮮を核保有国と言っており、非常に心配なことです。日本はもっと大きな声で非核化の必要性を言うべきです」
――核兵器を全面的に禁止した核兵器禁止条約(核禁条約)に日本政府は参加していません。
「少なくとも核禁条約を敵視するのはおかしいですね。NPTでもなかなか核軍縮が前に進まない中で核禁条約ができました。確かに日本は拡大抑止という米国の『核の傘』を受け入れています。国民を守るという意味では必要です。同時に核は廃絶させるべきだとも考えている。今年、核禁条約締結国による初の再検討会議がニューヨークの国連本部で開かれる予定です。日本はオブザーバーででも加わるべきだと考えます」
(聞き手・箱田哲也)
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<やぶなか・みとじ> 1948年生まれ。外務省でアジア大洋州局長、外務審議官、事務次官などを歴任。「薮中塾グローバル寺子屋」を主宰。著書に「外交交渉四〇年 薮中三十二回顧録」など。
2026年5月14日 朝日新聞朝刊 13版S 11ページ 「交論-危うい核保有論」から「NPTに違反、制裁の覚悟あるか」を引用
高市早苗はかねてから非核三原則の「持ち込ませず」を廃止して、米軍の核ミサイル搭載の艦船が自由に日本に寄港できる体制を整えるのが日本の安全保障を強化する「道」と考えていたようであるが、上の記事で藪中氏が指摘するように、現在の米海軍は艦船に核ミサイルを搭載することを止めているのであって、世の中は変化しつつあるということを、高市氏は理解していないようで、自分では「国家運営という重要な職務に従事しているので、いちいち週刊誌が指摘したような『疑問』に対応するようなヒマはない」などと言ってるが、どうも時代錯誤のような価値観で「国家運営」などやってみても、ロクなことにはならないと思います。もっと現実世界のことを的確に認識できる人物と交代しないと、この先日本はとんでもない災難に巻き込まれるリスクがあると思います。