経済秘密保護法案 ここが問題(24日の日記)
国会で法案について審議する意味は、さまざまな角度から種々検討を加えて、より完璧な法律の制定を目指すという「目的」があったはずですが、安倍政権以来の自民党政治では国会で与野党の議論がまったくかみ合わず、政府与党の答弁は中身がまったく欠落しており、外観上は何か応えたような恰好をしながら、その中身は空っぽで、実質何も応えていない。それで一定の時間が過ぎれば、数に任せた強行採決で可決されるという仕組みで、数々の悪法が成立しているが、今また、国民の自由を縛る悪法が成立しようとしている事態について、ジャーナリストの青木理氏が7日の「しんぶん赤旗」に、次のように書いている; 経済秘密保護法案(重要経済安保情報保護法案)が国会で審議されています。問題点をジャーナリストの青木理さんに聞きました。(田中倫夫記者) 経済秘密保護法案を一言でいえば、特定秘密保護法(2013年成立)の大幅強化・拡大版です。特定秘密保護法が対象とする「秘密」は(1)防衛(2)外交(3)スパイ防止(4)テロ対策―の4分野。その指定は時の政府が行い、市民には何が秘密かも秘密という不透明さで、刑事罰付きの秘密保持義務を課されるのは主に公務員でした。 それが今回は「経済安全保障」にかかわる「重要情報」を政府が指定し、秘密保持義務を課される対象は大小を問わぬ民間企業の社員、技術者、研究機関や大学の研究者などへと一挙に広がります。防衛関連産業などはもちろん、重要インフラやサイバー、人工知能(AI)、先端半導体等々、民生と軍事の両目的に使用できる技術-デュアルユース(軍民両用)の分野も対象となる。 しかも「秘密」の具体的な範囲が示されていないため、対象は際限なく広がりかねず。「漏洩(ろうえい)」者には最大5年の拘禁刑が科され、その「教唆」や「共謀」も処罰されます。ならばメディア記者や各種の市民運動まで刑事罰に問われかねません。◆病歴や酒癖も もう一つ大きな問題は、「セキュリティークリアランス」(適性評価)制度を導入し、「秘密」情報を扱える民間人、技術者、研究者らを調査・選別することです。 特定秘密保護法も同様でしたが、相当機微なプライバシーが調べられます。犯歴や精神疾患などの病歴に加え、借金などの経済状況や酒癖、さらには配偶者や家族、同居人の身上や国籍まで調査対象とされます。 特定秘密保護法の際の議論では、配偶者が米国籍なら問題ないが、中国籍や朝鮮籍だったりするとアウト、などという話が政府関係者から伝わってきました。明白な国籍差別、人権侵害です。 調査には本人同意が必要、といいますが、たとえば企業や研究機関の社員が「適性評価を受けてくれ」と言われて断れますか? 断ったら担当を外されるかもしれない。結果的に優秀な技術者、研究者が排除され、自由な企業活動や研究開発がシュリンク(縮小)していくことにもなりかねません。◎公安の活動に”お墨付き” 特定秘密保護法と同様、この法案は警察庁警備局を頂点とする公安警察の活動に新たな権限、相当に強力な”武器”が与えられることにもなります。 従来は公安警察が一般市民のプライバシーをむやみに調べれば批判されるので隠密にやっていた。私が30年近く前に公安警察を取材していた当時、彼らは中央省庁の幹部などはもちろん、基幹産業の内部に「共産主義者」や「左翼」がいるかをひそかに調べていました。事件や犯罪の嫌疑もないのにです。ある意味で法的にグレーな活動でした。 今回の法案はそれに公的なお墨付きを与え、グレーな活動を「合法的」に堂々とやれることになります。 今度の法案も何が秘密なのかわからず、メディアや市民団体にとってはいつ”地雷”を踏むかわかりません。 何が秘密かがわからず、「知りたい」「教えてくれ」と聞きまわれば、それが秘密漏洩の「教唆」や「共謀」になりかねない。国民の知る権利や市民運動が制限されてしまいかねないのです。◎冤罪が横行 経済活動脅かされる 今回の法案の″露払い役”になったのは、内閣に設置された「セキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議」です。昨年秋の答申に沿って法案は作成されました。 会議のメンバーには北村滋・元国家安全保障局長がいます。故・安倍晋三氏の最側近で公安警察の外事部門を歩んだ人物です。同氏は最近、『外事警察秘録』という本を出しました。そこでは、特定秘密保護法成立のためには″メディア対策が大事だ″として「読売」主筆代理らに「反対の論陣を張らないでくれ」と頭を下げにいったということが公然と書かれています。 「経済安保」の動きをめぐっては、警視庁公安部の信じがたい暴走も起きています。「大川原化工機」事件です。優秀な技術を持つ同社が中国や韓国に化学機器を不正輸出した、と社長らが逮捕され、1年近くも勾留され、しかし初公判直前に検察が起訴を取り消す醜態を演じた冤罪(えんざい)事件です。 その背後には「経済安保」の旗を振るなか、組織拡大をもくろむ外事部門の存在意義をアピールしたい公安警察の思惑がありました。こんな事件が横行すれば、日本の産業を支えてきた中小企業や技術開発がつぶされてしまいかねません。 時の政権と警察の一体化が強まり、この十数年で特定秘密保護法や共謀罪法、通信傍受法(盗聴法)の大幅強化など、かねてから公安警察が欲しくてたまらなかった治安法が続々と整備されています。こうした「警察国家」化と防衛費の倍増など「軍事大国」化への動きはもちろん表裏一体、同時進行的なものと捉えて批判の目を注ぐべきです。<あおき・おさむ> 1966年生まれ。共同通信記者を経て、フリーのジャーナリスト、ノンフィクション作家。『日本の公安警察』『日本会議の正体』など著書多数。新著に『時代の反逆者たち』(河出書房新社)2024年4月7日 「しんぶん赤旗」 日曜版 31ページ 「経済秘密保護法案、ここが問題」から引用 この記事の終わりのほうで取り上げている「大川原化工機」事件は、お菓子の製造工程で砂糖その他の調味料を噴霧する装置が、テロリストに悪用されれば「細菌戦」の武器になる、などという荒唐無稽な「言いがかり」で、さすがの検察官も「こんな低レベルな言いがかりで裁判に勝てるわけがない」と直前になって提訴を取り下げたのでした。しかし、この低レベル公安警察に言いがかりをつけられた会社役員・数名は一年近く身柄を拘束され、そのうちの一人は持病を悪化させて死亡するという事態にまでなりました。このように、公安警察などというものが大きな顔をするようでは、国が滅びます。本当は「オウム真理教事件」が終わった時点で公安警察も廃止するべきだったのに、無駄に組織を温存してこの後も国の発展の方向も歪ませる危険性が大きい組織ですから、遠からず対策を考えるべきだと思います。