対日戦略調整に動く中国(13日の日記)
高市首相の「台湾有事」発言の前後からその後の中国の対日姿勢について、毎日新聞特別編集委員の坂東賢治氏は、12月27日の同紙朝刊コラムに、次のように書いている; 「是可忍孰不可忍(是(これ)をも忍ぶべくんば孰(いず)れをか忍ぶべからざらん)」は中国が使う最後通告の成語。論語由来で「これが我慢できるなら他に我慢できないことがあるだろうか」つまり「絶対に容認できない」という意味になる。 1962年の中印紛争の直前の中国共産党機関紙「人民日報」がこの成語をタイトルにした社説を掲げた。79年の中越戦争開戦当日の「人民日報」にも登場した。そんな物騒な言葉を日本に向かって使ったのが中国外交を統括する王毅外相(政治局員)だ。 訪中したワーデフール独外相との8日の会談後、中国外務省の報道発表で明らかになった。台湾有事をめぐる高市早苗首相の答弁に対する会談での批判をまとめたものだ。王氏は「台湾を50年間植民地化し、中国人民に数多くの罪を犯した国の現職指導者が台湾を利用して騒動を起こし中国に武力による脅威を与えようとしている」と述べた上で冒頭の成語を持ち出した。 2012年に日本が尖閣諸島を国有化した際にも使われたことがある。かつて「人民日報」社説に使われた時代とは重みが変わってきている。それでも到底許容できないという警告であることは確かだろう。 故事成語を重んじる中国共産党はマルクス・レーニン主義を中国化させた存在だ。共産党統治自体、中国歴代王朝の延長線上にあるように思える。かつての毛沢東もそうだったが、権力を集中させた習近平国家主席の姿は皇帝と重なる。王氏の強い言葉も日本への警告だけでなく、最高権力者にそんたくする官僚の保身に映る。 ◇ ◇ 10月末の韓国・慶州での日中首脳会談はぎりぎりまで日程が確定しなかった。中国が右派と警戒する高市氏との会談に応じるプラス、マイナスを吟味していたのだろう。実現した背景には王氏や呉江浩駐日大使の進言があった可能性が高い。 その直後の高市答弁である。習氏以上に王氏らのメンツがつぶされた形になった。それが国連憲章の旧敵国条項にまで触れ、国連に書簡を送り、他国との会談にまで問題を持ち出す「過剰反応」につながった理由の一つだろう。 「武力の行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になりうる」という高市氏の答弁は官僚が用意した応答要領からは外れた、いわばアドリブで前後の発言は揺れている。 中国側はそれを「中国に対する武力行使の暗示」(外務省報道官)と捉え、双方の認識に大きな開きが生じている。「従来の政府見解の変更ではない」という日本の釈明も「元々そういうつもりだったのか」と受け取っている。 3日に高市氏が「台湾に関する政府の基本的立場は72年の日中共同声明の通りであり、この立場に一切の変更はない」と答弁した際、一部の中国メディアが「ついに折れた」の見出しをつけ、中国の交流サイト(SNS)で人気ワードになった。 一昔前なら歩み寄りのチャンスだっただろう。だが、中国外務省報道官は答弁の撤回を求める姿勢を崩さなかった。6日には、中国軍戦闘機による自衛隊機へのレーダー照射も起きた。対立の長期化も辞さない中国の姿勢からは対日戦略の変化もうかがえる。 ◇ ◇ 中国の強硬姿勢の背景にトランプ米大統領と習氏の首脳会談を受けた米中関係の緩和があることは疑いない。「世界のあらゆる地域や問題に等しく注意を払う余裕はない」と西半球の権益確保を最優先課題に挙げた米国の国家安全保障戦略(NSS)にますます意を強くしただろう。 経度ゼロのグリニッジ子午線から太平洋の真ん中を通る西経180度線までの西半球にはほぼ南北アメリカ大陸しか存在しない。トランプ版のモンロー主義は建国以来の米国外交の「本流」だった孤立主義への回帰に映る。 「インド太平洋は主要な経済的、地政学的戦場の一つであり続ける」とアジアへの関与をうたってはいる。半導体の主要生産地で海上交通の要路に位置する台湾の重要性にも触れ、中国を念頭に台湾への侵攻を阻止できる軍事力構築の必要性も明記した。 だが「米国が単独で担うことはできず、担うべきでもない」と同盟国にその負担を求めたのがトランプ流だ。ならば台湾との統一を目指す中国にとって日本の軍事的台頭の抑止が優先課題になる。 日本の対中戦略を再構築する機会でもあるが、中国もまた対日戦略の再構築に動いている。米国が何もしない間に中国は「サプライチェーン(供給網)の支配力を強化し」「対米輸出の依存率を低下させた」。NSSが率直に認める、したたかな相手だ。 中国の経済的、軍事的威圧への反発もあり、高市氏の答弁に問題はないと考える国民が多数を占め、高支持率が続く。その期待に応えつつ緊張緩和を進めるには細心のかじ取りが必要だ。勇ましい言葉だけでは暗礁に乗り上げる。(特別編集委員)2025年12月27日 毎日新聞朝刊 13版 4ページ 「外事大事-対日戦略調整に動く中国」から引用 高市首相の「台湾有事」発言は、アメリカの世界戦略が変更されてアメリカの活動範囲を地球の西半球に限定されており、その範囲を超えた例えば台湾などは、アメリカが直接活動する範囲から外れていることを、高市首相は知らずに「台湾有事は日本の有事」と軽はずみに発言したという「事件」だったわけで、だからこそ事後にトランプ大統領から直接電話で、「コトを荒立てるのは止めろ」と注意されたのであった。それにしても、一国の安全保障を担う総理大臣ともなれば、莫大な数のミサイルを保有する中国を相手に、アメリカから少々の武器を購入したからといって、狭い列島に50基以上の原発を設置した日本が、「有事」だからといって中国に対抗できるわけはない、という程度の「常識」は持っていてほしいものです。そのような「認識」もなく、ただ「さなえ推し」に応えて高支持率を維持するだけの政治家に、我々の安全保障を託すには無理があるというものでしょう。