「核のごみ北方領土に」問題(25日の日記)
原発から出る「核のゴミ」処分場建設に関する説明会を東京で開いたところ、参加者から「北方四島に建設してはどうか」という質問に対し、エネルギー庁と原子力発電環境整備機構の職員らが「それは名案だ」とか「一石三鳥四鳥」などと応答したことが問題となり、後日石破総理が謝罪したことについて、5日の東京新聞は次のように論評している; 原発の高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場を、北方四島に建設してはどうかとの一般人の提案に、経済産業省資源エネルギー庁(エネ庁)幹部らが「魅力的」「一石三鳥四鳥」と発言していた問題。地元が反発し、3日には石破茂首相が「おわび」する事態に発展した。なぜ地元はこれほど強く異議を唱えたのか。怒りの根源を考えた。(木原育子) 3日の衆院予算委員会。石破氏は「緩みやおごり、思い上がりがあったと思っている。政府の責任者として深くおわび申し上げる」と陳謝した。 問題の発言があったのはエネ庁と、核のごみの処分事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)が1月23日に東京で開いた説明会。両者は2017年から全国で対話型説明会を開いており、この日が累計200回目の節目だった。 エネ庁などによると、参加者が少人数のグループに分かれて幹部らと対話する形式で、一般参加者が「処分場を北方四島に建設してはどうか」と提案。この発言に、NUMOの植田昌俊理事が一石三鳥四鳥だ」と呼応。エネ庁の横手広樹放射性廃棄物対策課長も「実現すれば魅力的な提案だが、現実的には難しい」との発言をしたという。 この騒動が報道されると、北方領土出身者らが一斉に反発。北海道は28日、「北方領土は北海道の一部で、容認できない発言だ」などと口頭で抗議した。 道民は実際にどう感じたか。最終処分場の文献調査を受け入れた寿都町の人らでつくる「町民の会」共同代表の三木信香さん(53)は「笑って受け流せる言葉では到底ない。とてもがっかりした」と語り、「悪く言えば、日頃からそう思っているのではないか、本性が出たなとも感じた」と畳みかけた。 「三鳥四鳥」とは何を想定していたか。NUMO広報部は取材に「理事の思いではなく、提案者の言葉を確認の意味で言ったに過ぎない」と逃げの一手。エネ庁の放射性廃棄物対策課の吉田勇介総括補佐も「一般の方に提案していただいたことに『ありがとう』という意味の礼儀として『魅力的』と返したが、軽率だった」と述べた。 一連の騒動に冷ややかな視線を送る人たちもいる。アイヌ民族だ。 樺太アイヌの子孫らでつくる「エンチウ遺族会」の田沢守会長はそもそも北方領土がアイヌ民族の土地であることが一顧だにされない現状を憂慮する。アイヌ民族は近代の植民地主義支配と、戦後の混乱で強制移住させられた歴史がある。 「樺太アイヌなど先住民族のことは頭の片隅にもなく話題にもならない。強制移住の歴史を正当化している証拠だ」と憤る。アイヌ民族から奪った土地に核のごみ処分場の建設を提案し、国側が礼賛する姿勢に「先住民族に返す土地だということを基本に協議してもらいたい。国がいかに先住民族と向き合っていないかも露呈した」と訴える。 さまざまな怒りが渦巻く今回の問題。1980年代から弁護士として脱原発依存の運動を続けてきた元札幌市長の上田文雄氏は「北方領土の問題にリアリティーがない人が質問したのだろう」とした上で、「そういった提案にやすやすと答えること自体、かなり浅はかな対応だ」と指摘する。 全国で3例目に佐賀県玄海町が文献調査を受け入れたことを振り返り、「玄海町は国の調査で『受け入れに好ましくない地域』とされていたのに、国側はあっさり認めた。NUMOやエネ庁は処理場がどこに設置されても本当はどうでもいいのだと映った。今回もそれに通ずる」とし、「根本的な信頼感の話で、おわびして済む言葉尻の話ではない」と切り捨てた。2025年2月5日 東京新聞朝刊 11版 18ページ 「『核のゴミ北方領土に』問題」から引用 この記事の終わりの部分に書いているように、政府や電力会社の人たちは原発から出る放射性廃棄物の処理場をどこに設置するかなどという問題は、本音では「どこでもいい」と思っているから、「北方領土は?」などという発言が出ると、「名案です」などと軽率な対応をしてしまうのだと思います。その上、北方領土は元々は先住民族の土地だったのであり、将来は先住民の子孫に返還するべき土地なのだという認識を持っている日本人は何パーセントいるか、実にあやしい。それというのも、日本政府は国民に対し、アイヌから土地を奪ったとか、朝鮮半島や中国大陸を侵略したという「歴史の事実」をまともに教育をしていない、という問題があるからであり、そのような環境で育った公務員が「核のゴミ処分場を北方領土に?」「あ、名案ですね」などと軽口を叩くようになるのも無理はない、と言えるわけで、私たちの社会は実は大きな問題を抱えているのだという「自覚」が大切だと思います。