カテゴリ:翻訳について
私がフリーランス翻訳者として翻訳の初仕事をつかむまでの日々を振り返って書いている日記の第二回目です。
★第一回目はこちら → A success or not? ー 翻訳の初仕事をつかむまで(1) 今回は、話を先に進める前に、翻訳の専門分野について、もう少しだけ私の考えを述べたいと思います。 ・・・・・・ 前回の日記で私は、当時の自分には翻訳の専門分野がなかった、と書きました。 そして、翻訳の実務経験について、翻訳会社でチェッカー兼社内翻訳者として働いたのが1年数か月で、メーカーでの社内翻訳が半年ほどだった、とも。 もしかしたら、読んでくださった方の中には、 「期間はそれほど長くないにしても、2年弱ぐらいは翻訳業務に携わっているのだから、そのときに経験した分野も専門分野になるのではないか?」 と思われた方もいるのではないでしょうか。 確かにそうです。 実務を通して学べることは非常に多いですから、翻訳会社とメーカーでのあの日々も、その後の私の翻訳者としての人生を助けてはくれたのですが・・・。 ・・・・・・ 私が新卒で入社し、1年数か月ほど働いた翻訳会社は、特許翻訳専門の小さな翻訳会社でした。 私がその翻訳会社に入社を決めたのは、大学のOGがそこで働いていて、「いい会社ですよ」と請け合ってくれたからなのです。 さて、特許翻訳は、実務翻訳の一分野とされていますが、実際はその特許の中でもさらに細かく専門が分かれていきます。 つまり、出願される特許の内容は主に先端技術なので、特許文書は実は技術文書でもあるのです。 そして、特許文書が扱う技術分野は幅広く、電気、機械、半導体、IT、化学、バイオ、医薬・・・など、多岐にわたります。 ・・・・・・ それにしても、私の大学のOGは、なぜあの翻訳会社をいい会社だと言ったのか・・・? 私が入社した翻訳会社は、入社してみるといろいろな意味でひどい会社だったのです。 (今にして思えば、ここを選んで入社してしまったのが運のツキだったのか?!) なかでも仕事のまわし方が最悪で、上記の技術分野をとっかえひっかえ、ちゃんぽんのようにチェックさせられました・・・それも入社したその日から。 「ちゃんぽん」とはつまり、今日は電気、次の日は化学、その次の日はIT・・・みたいな感じで、技術分野を問わず仕事がまわってくるのです。 それにしても。 ついこの間まで、大学の英文科でアメリカ文学を学んでいた私が、特許の「と」の字もわからなかったこの私が、なんの指導も研修もなしに、そんなのチェックできると思いますか? 人を育てる気がゼロのこの会社、私が勤めていた1年数か月で、10人もの人が辞めていきました。 小さな会社でしたので、社員の実に半数にも及ぶ人たちが、会社を見限って去って行ったのです。 しかも、辞めるときは社長と大喧嘩して辞めていくというありさま・・・。 ・・・・・・ 入社したその日に私が教わったのは、翻訳された文書をチェックする際に入れる校正記号だけでした。 ものの数分で校正記号の指導が終わると、 「さあ、今日はこの文書をチェックしてちょうだい。」 と、どさっと、特許明細書の英訳文を手渡されたのです。 (ちなみに私は、「英文科卒」という理由だけでいきなり英訳担当にさせられました。) ・・・さあ、どうしたもんか。 英語とはいえ、英訳された技術文書は、当時の私にとっては暗号文みたいなものでした。 それに、技術分野で使う英単語なんてほとんどひとつも知りませんでした。 ・・・だけど、もう入社してしまったし。 後戻りはできない。 もうやるよりほかに道はないのです。 ・・・・・・ 私がどうやってその窮地を切り抜けたかというと、まずは英文法や文の構造をたよりに、 「おそらくこの言葉は、英語ではこう言うんだろうなあ・・・」 「たぶん、この表現は英語ではこういうふうに表現するもんなんだなあ・・・」 と、推測しながら読み進めました。 まさに暗号の解読・・・といった感じ。 そんな感じでしたから、最初の頃は、単純な誤字脱字ぐらいしかチェックできていなかっただろうと思います。 ・・・・・・ しかし、そんな推測の日々でも、それを何か月も続けていると、だんだんといろいろなことを覚えてくるのです。例えば、米国出願するための特許の様式や、技術分野の英単語や、表現法など。 私は自前の英単語ノートを作って、チェック中に新しく知った技術用語を書き留めるようになりました。若かったこともあり、ノートに書き留めた単語は意外にすんなりと頭に入ってくれました。 毎日毎日朝から晩まで、ほとんど人とも話さずに、何十枚もの、そしてときには100枚以上の英訳文をチェックする日々が続きました。 ・・・・・・ 1年もすると、私は社内翻訳を担当させてもらえるまでに成長していました。 同期入社した仲間の中では、もっとも早く翻訳を任せてもらえたのです。 自分で言うのもなんですが、社長からはものすごく信頼されるようになっていました。 私のことをうまく育てることができたと言わんばかりに悦に入る社長・・・校正記号以外何も教えてくれなかったのに、まったくいい気なもんです。 ・・・・・・ はたから見れば、1年足らずでよく頑張ったように見えるかもしれません。 でも、その当時の私には、ものすごい違和感がありました。 たくさんの技術用語を覚え、原文の和文を英文へと、右から左へ機械的に訳せるようにはなったけれど、私には、肝心の「文書の内容」がわからないことが多々あったのです。 つまり、いくら技術英語ができるようになっても、文系の私には、技術の知識だけはどうしても追いつかなかったのです。 中身のない翻訳。 こんなことを、一生続けるのか・・・? 私には、その自信はありませんでした。 《つづく》 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.04.23 21:53:22
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