やっぱり読書 おいのこぶみ

2004/09/26(日)08:51

「古本」松本清張

名作の散歩道(90)

短編集「死の枝」のひとつ。 先日映画「私家本」という古本の偽作を作って復讐を果たす、に面白みを感じていたところ、古本つながりで松本清張氏のこの作品を見つけ再読した。 ひところ売れっ子作家だった主人公(長府敦治)は時代が変って書くものがなくなり隠棲生活をしていた。昔の栄世のなごりで細々とは執筆の依頼ががあったし、蓄積してあった物で郊外でのまだ優雅とも言える暮らしを営めるのだった。 ところが、ある雑誌の穴埋めでひさしぶりに連載の依頼が来た。二つ返事で引き受けた彼は空虚だった自分の心が活気を帯びて来るのを感じる。 しかし、苦悶が始まる。書くものが浮かばない。焦った。期限は迫ってくる。 地方に講演に出かけた彼はある古本屋さんに入る。何気なく手にとった「室町夜噺(むろまちよばなし)」という「文学士林田秋甫(しゅうほ)」なる人物が書いた古本を購入する。 読んでみて掘り出し物だった。文章は平凡だが筋、構成葉素晴らしい。たちまちネタ本となろう、壮大なロマンとなる予感。東京に帰って神田の古本屋をまわったり、国会図書館に行き調べたがもう忘れられている本のようだった。 そうして出典を明らかにせず連載をが始めた。たちまち読書界の人気を得、カムバック、文学賞の話まで飛び出した。 だが...、ここからが松本清張たる所以、絶頂は急降下暗転。 短編のあらすじをここまで書くとルール違反かもしれない。 清張の短編は殆ど読んでいる。いまさら言うまでもないがやはりよく書けていると思う。短い中に構成がしっかりしているので、メリハリが効いていてテレビドラマにし易い。よくテレビに登場するのは知られているだろう。私はこの短編たちの原文を読むのがこよなく好きだ。 他の収録短編は下記の通り。 「交通事故死亡1名」「偽狂人の犯罪」「家紋」「史擬」「年下の男」「ペルシャの測天儀」「不法建築」「入江の記憶」「不在宴会」「土偶」 この題名を見ていると題名をつける天才だな―と思う。もう内容忘れているから読みたくなるもの。それは私だけではないだろう。 ---------- 恩田陸さんの「球形の季節」つながりで「球形の荒野」も再読している。

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