やっぱり読書 おいのこぶみ

2007/01/07(日)07:51

日影、月影、星影

読書感想(317)

日影丈吉(1908~1991)という作家をご存知だろうか。幻想小説家といわれている。ミステリ色濃い、翳りの作品が多いのだ。私は「孤独の罠」を読んで以来強く惹かれているのに、寡作ゆえ読んだ作品が少ないのが残念。 月影、星影は神秘的な光であるけれど日影は陰の部分を浮き立たせる。夢と現(うつつ)が渾然とし、そこに妖しさが加わった幻想に引き込まれる。時代ファンタジーとも思う。 国書刊行会より全作品集(9巻)は出ているが、手軽な傑作短編集『日影丈吉集』がちくま文庫にあったので、このお正月のたのしい読み物になった。 「かむなぎうた」「狐の鶏」「奇妙な隊商」「東天紅」「飾燈」「鵺の来歴」「旅愁」「吉備津の釜」「月夜蟹」「ねずみ」「猫の泉」「写真仲間」「饅頭軍談」「王とのつきあい」「粉屋の猫」「吸血鬼」の16編。 特に印象的なのは 「かむなぎうた」…処女作といわれている。作者40代からのデビュー。 「狐の鶏」…日本探偵クラブ賞。この作家の冥利。「東天紅」が姉妹編。 「旅愁」…前に読んだ「夢の播種」という短編集にあったのにすっかり忘れていた。SFめいた世界が広がっている。戦争で傷ついた体を人工的に改造してゴム人間として生かしてくれる「中立療養所」の発想はおもしろいが、大々的に成功しないところが恐ろしい。 「吉備津の釜」…土中に埋めた釜が「ぐわん、ぐわん」と鳴り響くような妙な心持。 「ねずみ」「吸血鬼」…台湾もの、戦争の経験 「猫の泉」「粉屋の猫」…フランス及び西欧の博識が光る 古めかしいかもしれないが、なんともしゃれているところが好もしい。背景は懐かしい時代で、最近のいファンタジーより手が込んだつくりというか、時代自身がファンタジーめく。その理にあった作品がすごい。

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