やっぱり読書 おいのこぶみ

2007/08/10(金)15:10

『道草』夏目漱石

読書感想(317)

漱石の文学は一面的に読むものではない、この小説でも多面的に考えさせられる。 このことがひどく気になった。 主人公「健三」は大勢のきょうだいの末っ子で生まれてすぐ養子に出され、それが「健三」の精神的放浪になり、行き場所を失うのにつながり、本人が悩むとはなんてことだろう。 昔は家名を残すために養子縁組が多かっただろうし、子どもがない夫婦が寂しさのためもらい子しただろうが、「健三」の養子先は将来めんどうを(働いて)みてもらうがためもらったのだ。それでは子どもが道具ではないか。 養家先の不都合で9歳ぐらいの時に実家へ帰されたけれど、籍は養家先に20歳過ぎまであり、吝嗇な養父、養母の後難を恐れ、実父がそれまでの養育費を払い証文まで交すすさまじさ。 その実父もいらなかった子が返ってくるなんて、という態度なのだからたまらない。 三つ子の魂百までも、精神的苦しみは性格をゆがめる。 もう結婚して娘も3人いる主人公、その養父母に、きょうだいに、妻の父に金銭的にたかられるのだ。しかも夫婦の関係がうまくなく、錯綜した悩みに襲われる。 悩みに悩む主人公を、こんなに追い詰めてどうしようというのだろうと、怖気づいてしまった。『道草』なんて題はとんでもない。 全くこの通りではないだろうが漱石の自伝的作品という、なんとつらい人生だったのだろうね。 しかも、これがために文豪になったかも知れず皮肉なものだ。

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