やっぱり読書 おいのこぶみ

2021/04/10(土)08:43

『青春の蹉跌』石川達三

昭和の作家探訪(新聞切り抜きから)(8)

​​「昭和の作家」探訪の読書、石川達三『青春の蹉跌』 時代背景は1960年代後半どっぷり昭和に漬かった、しかし古びていない題材。 いつの世も経済的に不如意な青年が、勉学、容姿に自信あり、上昇志向があるとすると、手っ取り早いのは後ろ盾を見つけること。いわゆる「逆玉の輿」を狙うのもその一つ。 法律を学んで国家試験を目指している青年が、学費を援助してもらい、その支援者の娘と結婚の運びの実現となったところで、その道は安易ではなくなった。そのつまずきはこっそり付き合っていた元カノが妊娠「生みたい」と言われ、万策尽きて・・・そしてどんでん返し。斎藤美奈子氏が​文学論『妊娠小説』​で「妊娠サスペンス」と名付けているほどの緊迫感だ。 石川氏はけっこう結婚つまずき小説を書いていて(『薔薇と荊の細道』『僕たちの失敗』など)、石川達三の特徴は堅苦しく理詰めと言うけれど、法律を学んでいる青年が主人公のこの小説では、それがよく発揮されていてなかなか読ませるものである。 古いからもう読む人もいないのではと思っていたら、昭和4年5月初版のこの文庫本、令和2年3月に76刷だというから。見つけたわたしもびっくり。たぶんこういう状況はこの超現代にも転がっているだろう、だから読み継がれているのだと。 ​ ​​​

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