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カテゴリ:読書日記
田辺聖子「私的生活」を読む。 デザイナーで、薄化粧にTシャツとジーンズが好きな乃里子は、財閥の御曹司、剛と結婚する。 豪華なマンションで始まる、ふたりきりの甘い生活。 お菓子の家で暮らす小人のようなその生活は、乃里子の「私的生活」を犠牲にすることで成り立っていた…というお話。 乃里子の「私的生活」を象徴しているのは、彼女が仕事場にしていた大阪のマンション。 そして、かつて彼女の仲間だった画家や芸術家たち。 夫は乃里子に何不自由ない、(剛が考える)女として満たされる生活を与えてくれるけれど、彼女が「私的生活」の中で満たしていた自尊心が、結婚生活の中でゆっくり押しつぶされ、からからに渇いていくことには気づかない。 気づいていても、片目をつぶり見ないふりをする。 乃里子が私的生活の片鱗でも見せようものなら、子供のように腹を立て、ふて腐れる。 剛はたぶん、こわいのだ。 ふたりの生活の危うさに、動物的な勘でうすうす気づいているから。 乃里子もわかっていながら剛の感情に振り回され、自分の感情に振り回される。 感情に振り回されると、現実は思いがけない、とんでもない方向に流れていく。 それは剛の甘えだけれど、同時に乃里子の甘えでもある。 甘えの中で、ふたりはがんじがらめになっていく。 ああ、わかるなあ。 文庫の初版が出たのは25年前だけれど、全然色あせない。 もっとさかのぼれば、イプセンが「人形の家」を書いたときから、女性が抱えるジレンマは何も変わっちゃいないのだ。 乃里子はノーラ、剛はトルヴァルだ。 ラストはフランスの映画のような気だるさ。 決して明るくはないけれど、乃里子の変化を予感させる。 「私的生活」は3部作の真ん中なので、これから1作目の「言い寄る」、3作目の「苺をつぶしながら」も読むつもり。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.06.29 17:11:35
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