本読みのひとりごと

2008/06/25(水)14:48

星に降る雪/月蝕書簡/人間の土地

読書日記(367)

雪のちらつくころからずっと一緒に過ごしてきた物語が、昨日の朝、旅立っていった。 行ってらっしゃい。たくさんの人に読んでもらえるといいね。 さて、次。 頭を切り替えるために、書きもの部屋を片づける。 日当たりのいい部屋で、大好きな本に囲まれ、自由に書いたり読んだりできるのはありがたいことだなあ。 待ちに待った高山なおみさんの「日々ごはん(10)」。 読んでしまうのがもったいないような気持ちで、少しずつ大切に読む。 台所に住む「おいしい神様」のくだりで、深くうなずく。 わたしにとっては、高山なおみさんの本がおいしい神様だ。 ただのレシピじゃなく、本の間から小さい人が出てきて、おいしくなる魔法をかけてくれる感じがする。 若い友達の野外結婚パーティーのことも書かれていた。 結婚式って、あらゆるポイントにその人たちらしさが出ると思う。 会場の人たちの言いなりに、情報誌とかを研究してごく平均的に目立たないようにやったとしても、あちこちの隙間からかならず雰囲気がにじみ出る。 自分たちが結婚式を挙げてみて、そのことがしみじみとわかった。 池澤夏樹「星に降る雪/修道院」。 このひとの文章が、わたしは生理的に好き。 浮遊感と、グラウンディングのバランスが適切で、安全な感じがする。 もともと詩人だから文章が端正で美しいことは言うまでもないが、読者の頭の中に映像を結ぶ描写力がすごいと思う。 「星に降る雪」で印象的なのは、パラグライダーで雲に突っ込むシーン。 読み終えてもう10日も経つのに、窓を開けて雲を見るたび脳裏に絵が浮かぶ。 寺山修司「月蝕書簡」。 無意識と意識のはざま。 そのぎりぎりの場所から、びんに詰めた手紙のようにこちらへ流されてくる三十一音。 何気なく口をついて出た意味のない言葉の羅列のようにみえて、実はすみずみまで作為が張りめぐらされているのか、あるいはその逆かもしれない。 いずれにしても、好きな世界観。 綴じ代の闇に、ページが溶けてゆくようなデザインも手が込んでいてすてき。岩波の職人仕事だ。 サン・テグジュペリ「人間の土地」をふたたび読みはじめた。 ああ、なんておもしろいのだろう。 胸がときめく。高鳴る。 翻訳した堀口大学の、わざと引っかかりを作ったような日本語も、読者の冒険への憧れをつのらせる。 雲海の上、静寂を突っ切って飛ぶ心持ちや、遠い空港からの通信。危険な旅に命を落としてゆく僚友たち。 「冒険」という言葉が人の心に呼び起こす高揚や儚さ、果てのない広がりが、この1冊にすべて収まっている。 表紙をかざる宮崎駿のイラストもいい。 わたしが男の子で、15歳のときこの本に出会っていたら、飛行機乗りをめざすか、叶わないなら飛行機乗りの登場する冒険活劇を作りたいと思ったにちがいない。

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