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カテゴリ:読書日記
ゼイディー・スミス「直筆商の哀しみ」を読む。
有名人の直筆サインを売買するオートグラフマンのアレックス・リ・タンデムと、彼をとりまく人びと。混乱と放浪の9日間。 クセのある文章で、読みすすめるのに時間がかかったが、そのぶん、いったん入り込んでしまうと中毒性も強い。特に後半、舞台がニューヨークに移ってから、格段に面白くなった。 これはたぶん、原語で読んだら倍も楽しめる小説だろう。言葉あそびが散りばめられ、文体が疾走している(と、推察される)。 中身のないもの、空虚な箱を売り買いするアレックスの日々は、魔法の靴で空中を散歩しているみたいに実体がない。その浮遊感と、はねるような文体がよく合っていると思う。 川本三郎「旅先でビール」を読む。 読んで字のごとく、題名どおりのエッセイ集。 ひとり、ふらりと出かけた旅先の、何ということのない大衆食堂でビールを一杯。 過去にも、未来にも、何ものにも固執しないこのたたずまい、心地いいなあ。いつまでも読んでいたい。言葉の温泉に肩までつかっていたい。 わたしも年を重ねたら、こんなふうにさらさらと流れ、それでいて心にのこる文章を書けるようになるかな。なりたいなあ。 ゲド戦記3「さいはての島へ」読了。 大賢人となったゲドが、少年アレンを連れて世界の均衡を取り戻す旅に出る。 1では少年期の虚栄心とのたたかいを、 2では青年期の心の闇を、 そして3では壮年期の死へのおそれを、ル=グウィンは目をそらさず真っ向から描きだしていく。 これは子どもたちのファンタジーであると同時に、大人にむけてひらかれた哲学の書でもあるのだな…なんて思うのは、池田晶子さんにかぶれているせいかもしれない。 ジブリの「ゲド戦記」はまだ見ていないが、3を下敷きにしていると聞いた。 「さいはての島へ」はより思索的、哲学的で、映像にするのはとても難しそうだ。 1の「影とのたたかい」はなんといってもゲドが少年だし、脇をかためる登場人物たちもはなやかで想像力をくすぐる。ストーリーもわかりやすい。 ありえないことだけれど、もしもこの先、宮崎駿監督がゲド戦記をつくるなら、「影とのたたかい」が観たいなあ、と個人的には思うのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.11.10 17:19:22
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