本読みのひとりごと

2009/06/05(金)10:48

太陽の花。読書案内。

読書日記(367)

家の周りで、草刈りがはじまった。 夏のあいだ、蚊の襲撃を防ぐには欠かせない草刈りだけど、いちめんに咲いた黄色いタンポポも刈られてしまうのは残念…と毎年思っていた。 草刈りの日、今年は朝早く外へ出て、朝露のついた大輪の花を摘んで家に連れてきた。 一緒に暮らして初めて知った。 タンポポって、朝ひらいて夕方しぼむんだ! 朝、部屋のカーテンが閉まっていても、日がのぼるとちゃんと咲いている。 夕方、蛍光灯をつけていても、日が沈むとするするしぼんでいく。 こんな小さな花の中にも体内時計があって、太陽のリズムと響き合って生きているのだなあ。 小川洋子「心と響き合う読書案内」を読む。 たびたび書いているが、「本についての本」を読むのがとても好き。 まして、それが好きな文筆家の手によるものなら、嬉しくてわくわくしてしまう。 尊敬するあの人の書斎におじゃまして、一冊ずつ説明を聞きながら、本棚を見せてもらっているような幸せを感じる。 本書は「春」「夏」「秋」「冬」4つのパートに分かれていて、全部で52冊ぶんの読書案内を読むことができる。 それぞれの文章は長くても5~6ページにまとめられ、語りかけるようなやさしい言葉で書かれているので、とても読みやすい。 …と思ったらそれもそのはず、これは、小川洋子さんがパーソナリティをつとめている実際のラジオ番組を書籍化した本なのでした。 未読の本に出会える喜びはもちろんだけど、それに加えて、いつか読んだあの名作が、小川洋子さんの目を通すとどんなふうに見えるのか、作家のまなざしを疑似体験できるのが楽しい。 印象にのこったのは、本書の冒頭に置かれている一冊、金子みすゞ「わたしと小鳥と鈴と」の案内文。 金子みすゞの詩は、子供のころから当たり前に読んでいて、詩人が若くして亡くなったこともぼんやり知っていた。 だけど、彼女が26歳で自死しなければならなかったその理由を、わたしはこの本を読んで初めて知った。 あんなにやさしい言葉をあやつる人が、これほどの烈しさを胸に秘めていたなんて、とおどろいた。 小川洋子さんも書いている通り、時代が違えば、死ぬ必要などなかったひとだ。 男も女も関係ない、どうどうと書きたい言葉をつづり、生き生きと自分を表現することができるのが今という時代。 でも、その「当たり前」は、ほんの百年前には夢物語だったんだな。 この時代に女であることの贅沢を思う。  * 「銀河鉄道の夜」の宮澤賢治について描写した一文も心にのこる。 「文学の世界にもたくさんのきらめく星がありますが、宮澤賢治だけは、一番星のように、一人空の高いところで静かに光を放っています。」 心にぼんやりと抱いていた宮澤賢治についての印象を、一言でぴたりと言い当ててもらったすがすがしさよ! 小川洋子さんにとって特別な本である「アンネの日記」や、ホロコーストを扱った書物としてアンネの日記と双璧をなす「夜と霧」。 「冬の犬」「銀の匙」「阿房列車」「富士日記」…… 大好きな本たちが新しい表情でずらりと並んでいて、旧友に再会したみたいに興奮してしまう。 「ああ、そうですよね。この本はラストシーンが本当に素敵でした!」と心のなかで小川洋子さんに返事をしながら読む。 何か心に残る本を読みたいけれど、何がおもしろいかわからないという方や、名作とよばれる本はだいたい読みつくしたという本好きの方にもおすすめです。 六月桜桃、読書の季節です。梅雨入りにむけて、準備は万端ですか?

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