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カテゴリ:読書日記
いせひでこ「七つめの絵の具」を読む。 画家で絵本作家の著者によるエッセイ集。 海、旅、チェロ、雪… 絵のない本であるのに、ページをめくるたび豊かなイメージが眼前に広がる。 画家のまなざしを通して、わたし自身がいつか見た風景を再発見している。 そうか、絵筆を持たなくとも、画家は常に「描いている」んだな。 心にのこるのは、たとえば父島の海を描いたこんな一節。 伊豆七島をひとつひとつ右手に見ながらさらに七〇〇キロ南下。絵の具ではたちうちできないインディゴブルーの太平洋。そして父島が近づくと、海はラピスラジュリの青からシアンブルーへ、さんご礁のあるあたりではみごとなエメラルドグリーン、ターコイズグリーンへと、色見本帖をはみだしたすさまじいまでの色のバリエーション。私はもう絵描きを廃業したい。 いせひでこさんという人は、まだ絵の具をのせていない、一本の線も引かれていないまっさらなカンヴァスみたいなひとなのだと思う。 描いても、描いても、汚れるということがない。 色を塗り重ねるほど透明に、純粋になる。 いせさんの手による絵本『ルリユールおじさん』の原画展にかんするエッセイも収録されていて、大好きなルリユールおじさんにまた会いたくなり、図書館で借りてくる。 シンプルでやわらかな線、印象的な色づかい。 気がつくと、小さなソフィーと一緒にパリの街を歩いている。 ルリユールおじさんの工房をたずね、大切な本を胸に抱いて絵本の世界から出てくると、見なれた景色が、たしかにいつもとはちがって見える。 心がほんわりとぬくまって、それからしんとする。 わたしはほんとうにこの絵本が好き…と思いながらページに指をはさんだままうたたねしたら、画家が(そしてわたし自身が)生まれ育った北海道の、次々に色を変える大きな空の夢をみた。 ルリユールおじさんのように、そしていせひでこさんのように、わたしもこの人生で魔法の手をもてるだろうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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