本読みのひとりごと

2010/10/04(月)14:34

秋の愉しみ

お散歩日記(119)

理想の図書館ってどんな場所かなあ、とときどき夢想することがある。 ゆったりと広く、明るくて、天井は高く、でも書棚は低く、じゅうぶんな広さの書庫があり、夜通し本が読めるように、コーヒーとパンとシチューとブランケットが用意されていて…(クラフトエヴィング商会の影響が混ざってきました) そこにたどり着くには、わたし自身が、その図書館にいるであろう理想の図書館員として日々ふるまうよりほかにないのだ、たぶん。 一瞬でもいい、自分と誰かのあいだに、理想の空間を出現させること。 その頻度を、時間を、少しずつ増やしてゆくこと。 古民家を改装した田舎料理の店へ、くまと行く。 朗らかで元気のいい、看板娘のおばあちゃんが出迎えてくれる。 大きな鯉のいる日本庭園を眺めながら、蔵座敷でたっぷりのお膳をいただく。 なすのずんだ和えと、車麩の揚げ煮、くるみのおこわ、庭の湧き水で養殖しているというヤマメの塩焼きが特においしかった。 どのお料理も心がこもっていて、口にするごとに「ほっ」とする味。 お客さんにどんどん声をかけ、てきぱきと働くおばあちゃんは、とても幸せそうに見えた。 玄関先に猫の親子がいて、「やあ、ひなたぼっこ日和だね」と声をかけたらすり寄ってきた。 「ごはんは持ってないよ」と事前にことわったんだけど、お腹を見せたりのどを鳴らしたり、いろいろサービスしてくれた。 さすが料理屋さんの猫だけあって、客あしらいも慣れている。 すっかりいい気持ちになって、帰るのが惜しいような感じだったので、そのまま秋のドライブに出かける。 山道に差しかかったら、いがのついた栗がいっぱい落ちて、木々もほのかに色づいている。 車を降り、山の湧き水を汲んで、川辺の道をのんびり散歩。 展望台で、誰もいないと思っておへそを出してのびをしたら、茂みの中から帽子をかぶったおじさんがぬっと顔を出した。 「変なやつがいてびっくりしたべー」と言うから、「何してるんですか?」と聞いたら、きのこ狩りだって。もうそんな季節なんだなあ。 前回の日記を書いた後、あちこちの古書店サイトでハンマースホイ展の図録を探したら、一冊だけ、当時の四倍の値段で売られているのを見つけた。 美術館でも売り切れているし、評判の展覧会だったから、なかなか値崩れしないのだ。 ほしい、ほしいとうわごとのようにつぶやいていたら、「半年間留守番お疲れさま」とくまがプレゼントしてくれた。 一冊の本をこんなに欲しいと思ったのも、届くのがこんなに待ち遠しかったことも、手渡されてこんなに胸が高鳴ったのも久しぶり。 二年前、展覧会を観たときに手に入れていたら、もしかすると、これほど大事な一冊にはならなかったかもしれない。 宝物にして、何度でもページをめくろう。

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