2016/01/27(水)12:26
さようなら、クウネルくん
リニューアルした「ku:nel(クウネル)」を読む。
そして分かった。
これは「リニューアル」というより、まったく新しい別の雑誌に生まれ変わったのだな。
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私の手もとにある一番古いクウネルは2004年11月発行の10号「小さな町へ」。
この号の特集を読んで、いつか必ず行きたいと思っていた嬉野温泉。
昨年末、10年越しの夢が叶って嬉野に行ったときは、何度も読み返してボロボロのクウネルをカバンに入れて出かけた。
あのころの自分に、「10年後のあなたは夫の転勤で九州に住んでいて、息子とおなかの赤ちゃんと一緒に念願の嬉野温泉へ行くよ」なんて言っても絶対信じないだろう。
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この号を買ったころの私は就職したばかりで、「ストーリーのあるモノと暮らし」どころか、掃除も料理もろくにせずに仕事ばかりして、深夜に帰宅しては玄関で倒れて寝るようなひどい生活をしていた。
「ちゃんとごはんを作って、何かひとつでも家に帰る楽しみをつくらないと体も心もだめになる」と気がついて、おそるおそる自炊を始めた私の毎日を、灯台のあかりみたいに照らしてくれたのが、クウネルだった。
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この10年間で数えきれないほど引っ越しをしたけれど、買い集めた数十冊のクウネルのバックナンバーはいつも一緒だった。
時間が経っても古びるということがなくて、読み返すたびに新しい発見がある雑誌。
高山なおみさんもハナレグミも、アリステア・マクラウドもジュンパ・ラヒリも、最初に知ったのはクウネルの特集だった。
お弁当のコーナーや、川上弘美さんの小説、江國姉妹の往復書簡も大好きで、毎号楽しみだったなあ。
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本も、雑誌も、売れなければ始まらない。
すべては変わっていく。
だけど、ひとつだけ確かなことがある。
次の10年も、私は引っ越しのたびに、荷造りの手を止めて今まで集めた数十冊のクウネルを読み返し、1冊ずつ大切に箱にしまい、新しい家ではまた本棚の一角にずらっと並べて夫にあきれられるだろう。
そういう雑誌と同じ時代を過ごせたことは、たぶん、とても幸福なことなのだ。
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