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カテゴリ:日本の小説
筒井康隆
『愛のひだりがわ』 新潮文庫 荒廃した近未来の日本を舞台に、多くの仲間に支えられてさまざまな困難を乗り越え成長してゆく少女を描いたジュヴナイル。 後輩の勧めで読んだ。いまさらジュヴナイルもないだろうなどと思いながら読み始めたが、意外と面白い。この本を貸してくれた後輩に感謝している。どうもありがとう。これまで何冊か筒井康隆の作品を読んできたが、同氏によるジュヴナイルはこれがはじめて。こんどはあの傑作『時をかける少女』あたりでも読んでみたい。 主人公月岡愛は、父を探すたびの中で出会いと別れを繰り返す。さまざまな事件に巻き込まれつつも、愛の不自由な左側には常に彼女を守ってくれる仲間がいた。数多くの体験を重ね、成長していくというストーリーは、子供から大人への成長を描く物語の定石を踏んでおり安心して読める。また、冒険の舞台となる日常的に暴力が横行する荒廃した不条理な世界は筒井康隆特有のブラックさを持っており、月並みで単調になりかねないストーリに刺激を与えると共に、さまざまな問題を読者に提起している。一見細切れにも見れるたびの途中の各エピソードは最後にひとつに繋がり大団円を迎える。成長と同時に、少女時代の特権を喪失してしまうというラストの物悲しさも、この手の成長物語の醍醐味の一つ。非常に良く出来たジュヴナイルの王道である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.11.29 23:50:34
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