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カテゴリ:教養・実用
蔡焜燦
『台湾人と日本精神 日本人よ胸を張りなさい』 小学館文庫 日本人以上に日本的な“愛日家”蔡焜燦が台湾に息づく日本精神を紹介。そして、自虐史観に迷い込んでしまった日本人に、自信と誇りを取り戻すよう訴える。「日本人よ胸を張りなさい」 知日派の台湾本省人の著作の代表作。この手の本の流れはだいたい以下のようなパターンが多い。 (1)規律正しく、「公」を重んじる日本精神を日本統治時代に学んだ、(2)日本統治によって台湾は近代化に成功した、(3)日本の敗戦後、独立を喜び、中華民国に期待を寄せたが、中国人のていたらくを知って失望した、(4)外省人の苛烈な支配と腐敗した日常に耐えてきた、(5)李登輝以降、我々本省人は台湾人としてアイデンティティーを回復し、れっきとした国民国家へと更なる繁栄の道を歩んでいる、(6)現在の日本は敗戦以降の自虐史観を脱することができずにおり、中国の顔色を伺ってばかりでだらしがない、(7)日本と台湾は手を取りあって、輝ける未来へと前進するべきだ。 最近の日台友好の原動力としてよく取り上げられるのが司馬遼太郎の『台湾紀行』と小林よしのりの『台湾論』で、この『台湾人と日本精神』の著者、蔡焜燦はどちらにも登場する。 この本で特に面白かったのは、蔡焜燦の韓国・朝鮮人に対する意識。日本人と台湾人、大陸の中国人と台湾の中国人、台湾の本省人と外省人を、比べて書かれた文はよく読むが、日本時代の台湾人と朝鮮人の違いを皮肉たっぷりに書かれた文章は始めて読んだ。これについてもっと詳しい話を知りたくなった。 参考までに軽く紹介しておく。 ・創氏改名について 朝鮮人:自己申告制、日本名を名乗る人が多かった、戦後は反日に 台湾人:許可制、日本名を名乗る人は少なかった、戦後も親日 先に日本に組み込まれた台湾よりも朝鮮を優遇した政策に蔡焜燦は苦言を呈し、朝鮮人は優遇されていたにもかかわらず戦後反日に走っていると指摘する。植民地統治について「反省」する際には、このように同化政策を捉える「アジアの人々」もいるのだということを踏まえる必要があるだろう。補足で記すと、創氏改名は朝鮮人側の要望に渋々応じたものであり、無理矢理押し付けたものではない。 ・戦後の三国人問題について 朝鮮人:日本人に対して横暴な振る舞い、戦勝国中華民国の人間には卑屈な振る舞い 台湾人:特権をいかして人々のために親切な振る舞い 三国人とは、戦勝国の人間でも、敗戦国日本の日本人でもない、旧植民地の人間のことを指した戦後の言葉。蔡焜燦は台湾人として、朝鮮人の悪行を暴き、台湾人の美談を紹介している。しかし、騒乱・衝突を引き起こした台湾人もいたわけで、日本人の感覚からしてはどっちもどっちだという意識もある。しかし、戦後60年以上たったいま、朝鮮・韓国と台湾の意識の違いは歴然と現れてきている。 第3章では、上に紹介したようなエピソードが紹介され、最後のほうの章では今後の関係について言及している。その内容を紹介すると下記のような感じである。 日本は反日的な韓国や中国よりも親日的な台湾をパートナーに選ぶべきで、中国にへつらい過ぎていれば、世界で一番親日的な台湾も今の日本を批判する立場に回らざるを得ない。もっとも、この反日は媚中派日本人に対する反日であるが。 この指摘は、非常に示唆的なメッセージである。かつて親日的であったからといってこれからも親日的であり続けることが保証されているわけではない。親日的な「多桑」世代はもう高齢化している。「哈日族」の若者が惹かれているのは、日本そのものというよりも日本の先端的でクールな文化についてで、流行が日本以外に向けばその熱は醒めやすいだろう。今の日本の行動は、台湾に対して冷たすぎるとの指摘はご尤もである。にもかかわらず、日本人は親日的な台湾というイメージに満足しきっている。 友好の為には、かつての歴史も重要だが、いまどのように行動するかが重要だということは言うまでもない。インドネシアも親日国として良く取り上げられるが、果たして親インドネシアの日本人はいまどれくらいいるのか。台湾にしてもその他の親日的なアジアの国々に対しても、格下の国々として軽んじ、根拠なく蔑視している日本人が多い気がする。これではとても、アジア諸国との友好は難しいだろう。 失ってしまった“日本精神”を取り戻し、西洋との協調、アジア諸国との友好をバランスよくこなしていかなければ、中国の覇権を前に、日本は太刀打ちできなくなってしまうだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.04.13 20:06:30
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