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テーマ:社会関係の書籍のレビュー(95)
カテゴリ:社会
![]() 2004年3月、おしまれつつ休刊した『噂の真相』。その編集長岡留安則の25年にもわたるジャーナリズム活動の内幕をつづった待望の新刊である。 2005年3月から施行される個人情報保護法。岡留は、むろんこの動きに警鐘をならす。すでにその流れは、田中真紀子長女の離婚に関する『週刊文春』記事差止訴訟地裁判決と、その判決を読売新聞が支持したことからわかるように、施行前から厳しさをましている。名誉毀損の損害賠償も、上に手厚く下に薄いという判例がまかりとおっているんだそうだ。政財界の公人・みなし公人は、プライバシー保護の名の下、市民の目から隔離。かれらが公式に発信した都合のいい情報しか手に入らない危機。こうした中で、「雑誌冬の時代」の中にありながら、国民雑誌『文藝春秋』につぐ第二位の売り上げを誇った黒字誌の休刊。ちょっとした一大騒動であったことは記憶にあたらしい。 たしかにその25年間は「戦記」と形容されるにふさわしい華々しさだ。皇室ゴシップ、ロス疑惑、グリコ・森永事件の報道協定スッパヌキから、筒井康隆の断筆宣言、森首相売春検挙事件、安倍晋三・蓮池透・小林よしのりの素性にいたるまで、この20年間、つねにジャーナリズムの震源地でありつづけた。1行情報はとりたてて貴重であった。実はこれ、印刷1日前までつっこめる体制をとり、編集長みずから、締切間近深夜の新宿ゴールデン街にたむろする、ジャーナリストや社会部記者から情報を仕入れていたらしい。週刊誌記者匿名座談会の面白さは、あらためていうまでもなかろう。 「反権力」をなのった同誌。それは法政大学にあって新左翼運動に挫折した岡留のパーソナリティと深いかかわりがあるのはいうまでもない。朝日ジャーナル休刊後、『世界』『週刊金曜日』があのザマの中で、唯一健闘していた左翼雑誌であった。闘争につぐ闘争の日々。「私人には手を出さない」「正義の味方の本性をあばく」「ざら紙をつかう」…実はなかなか考え抜かれた編集方針だったことが分かって、隠れファンとしてはついついうれしくなる。アングラ性を醸し出していた本誌のみに許される、さまざまなアプローチがもうみられなくなるのはとても悲しい。 あのスキャンダリズムこそ、左翼の衰退に拍車をかけたのだ、と眉をひそめる人も多い。かくいう評者も、あの読者コーナーや執筆者の、えもいわれぬ左翼腐臭が嫌いだった一人である。たしかに『噂の真相』はウソも多い、いかがわしい雑誌であったかもしれない。しかし、みんながそんなことを知っていたが、みんな『噂の真相』を読んでいたため売れていた。みんなに読んでもらえないと、そして雑誌は発行し続けられないと、なんの意味もない。いかように『噂の真相』をあげつらおうと、現実に『噂の真相』は売れていたのだ。これほど大事なことが他にあるのか。自称左翼がかんがえるべきことは、『噂の真相』のイデオロギー的欺瞞ではなく、噂の真相がうれていたこと自体にあるのではないのか?。 岡留編集長と川端副編集長は、この25年でマンションのローンを完済しているとのこと。もともと2000年休刊予定だったのだが、名誉毀損裁判も山場をこえたことでやっと休刊させることができたのだそうだ。今では沖縄でスローライフ、本土と沖縄を行き来する日々らしい。団塊の世代のある種の象徴だった人物にやっと魂の平穏がおとずれたのか?。とはいえ、沖縄国際大への米軍ヘリ墜落事件、内地と沖縄の関心格差に激怒している所をみると、まだまだ平穏は遠い先の話のようだ。ついでだから、『週刊金曜日』の編集長になってもらって、テコ入れした方がいいんじゃないかと愚考する次第である。 価格: ¥735 (税込) 評価 ★★★☆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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