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書評日記  パペッティア通信

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Mar 6, 2005
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カテゴリ:社会


もし現代にマルクスがやってきたら、いったいなにを言うだろう。

この魅力的なテーマは、酒場でクダをまくとき酔った勢いでふるう長広舌、はたまた、若気のいたりで先輩の党員につかみかかってふっかけた議論、などにとどめておくべきではなかったか。いいかげん、50をすぎた人間がやることではないだろう。たとえ、向こうから企画がもちこまれたとしても、断るくらいの良識をしめすべきではなかったか。

この書では、マルクスは社会主義国家の崩壊をみても、自分の誤りとは思わないだろう、とされる。そして、グローバリズムとのあらたな戦いをはじめるだろう、とされる。しかし、なによりもマルクスは、ヘーゲル哲学との対決と転倒など、主張の当否そのものより、その主張をみちびきだした「思考の範型」にこそ、偉大さが讃えられるべき御仁ではなかったか。かれは経済学者なのではない。哲学者なのである。ならば、復活したマルクスは、それこそマルクス主義的亡霊と戦い、さらなる転倒を、さらなる前進を予告して考察をすすめていくはずであろう。マルクスは、マルクスと戦い、マルクスをこえる。まさしく、筆者がマルクスに何をたたかわせたかで、筆者のお里、筆者のマルクス理解の程度が知れてしまうのだ。これほど、嫌らしい標題があろうか。これを書く私ですら嫌だというのに。よくこんなものを引き受けたもんだと感心する。

むろん、ここには有益な知見がてんこ盛りにつまっている。それは、マルクスを考えるとき、参考になることこのうえない。マルクスとスピノザ。マルクスとアメリカ。マルクスと同時代の「粗野な社会主義」の関係。とくに、ユーロ・コミュニズムに通暁する筆者であるだけに、戦後のヨーロッパ左翼史の整理はすばらしい。サルトルからはじまり、アルチュセールのあきらかにした重層的決定とマルクスにおける認識論的断絶。その他にも、構造主義、ポスト構造主義、ポストコロニアリズム、などなど、無菌化された左翼思想史について、手際よい整理がならんでいて、おみごとのひとこと。こちらも随分蒙がとかれたようにおもわれたものだ。それから、マルクス主義経済学の立場からみた日本経済と世界経済も簡潔でよい。労賃は、世界レベルで低位に収斂しつつある。国民国家の時代は終わって、グローバリズムの下、世界レベルで中産階級は瓦解しつつある。資本主義の外部がなくなって内部に包摂された今、やっとマルクス主義によって本格的な世界規模での変革を展望しうる段階に入ったのだ。たしかに、一聴に値する主張であろう。

しかし、NAMの柄谷行人といい的場といい、千年一日のごとく、対案がアソシエーションの連呼というのは、いかがなものか。共同体で資本=貨幣を包囲して覆滅するシナリオ。貨幣は、共同体の外に生まれつつ、アソシエーションにみちていた伝統的な共同体の内部を切り崩し、資本として独自の運動をはじめる。そのため、あらたなるアソシエーションをたちあげて、貨幣を包囲して資本主義を死滅させる手続きが必要なのだろう。しかし、貨幣とは、人と人の間に横たわる、根源的不可能性=亀裂を隠蔽する、直接的な交換を禁じ安定させる象徴秩序ではなかったのか。そこに、あたらしい共同性の回復をこいねがうなんて、アジア的共同体を転倒させて、資本主義の未来に社会主義的共同体を夢想したマルクスとおなじ手順をふむ、いささか夢想地味た妄想としかいいようがない。それこそが、最悪の象徴秩序、スターリニズムをまねきよせる苗床になったのことは、とっくの昔にソ連で実演ずみであろうに。

とはいえ、現代マルクス主義をかんがえるうえで、またとない書となっているのも事実。みなさんも、読んでみて世界をかんがえていくための一助としたらいかがであろうか。


価格: ¥756 (税込)
評価: ★★☆

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Last updated  Nov 7, 2005 10:33:08 PM
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