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テーマ:経済分野の書籍のレビュー(50)
カテゴリ:経済
![]() 光文社新書が大変な頑張りようだ。薮下史郎、ジョセフ・スティグリッツ(薮下訳だが)といった制度経済学派の重鎮から、高安秀樹『経済物理学(エコノフィジックス)の発見』など、現役バリバリの専門家による入門書がつづく。とくに後者は必見。ちょっとした哲学すら漂う。藤巻健史『藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義』も、素晴らしい。これは、『証券投資論』(日本経済新聞社から版をかえつつ刊行)を理解していくうえで、格好の手助けとなるであろう。証券市場に関心をもつ人は、ぜひお読みいただきたい。 本書は、どちらかというと、構造改革を重視する派の著作といってよい。やや専門的であるが、金融をめぐる議論がコンパクトにまとめられている。議論は平明で、参照した論文名には注がつけられ、親切なことこのうえない。 過剰融資と追い貸しによって、不良債権問題の泥沼にあえいだ、1990年代の日本金融システム。その原因は、オーバー・バンキング、それも銀行数の過剰ではなく、預金の過剰にあるとされる。日本では、規制、預金者、株式、のいずれの「規律付け」も、銀行経営に有効に働くことがなく、ずるずるとBIS規制をさけるための会計操作が横行することになった。そこから著者は、間接金融=銀行システムから直接金融=市場システムへの転換をもとめてゆく。預金保険制度は、銀行のモラルを欠いた資産運用を助長しかねないこと。退場ではなく合併によるメガバンク化をおこなう竹中金融行政が、オーバー・バンキングに手をつけていないことから批判される。また、現在の「郵政民営化」のかかえる問題点も、適切に整理されていた。 裁量よりルールを。証券化による市場システムの活用を。オープンな市場とそこで決まる金利体系によって、経済主体間の適切な資源配分をもとめてゆく、ゆるぎなき主張。これこそ本書の核心となっている。 ただ、マクロ経済になると、畑違いからなのか、問題ある記述が多い。デフレ適応型の経済の推進。そこでは、預金の実質金利課税や、デフレにあわせて預金者の預金を削減していくことが大真面目に提唱される。そんなできもしないことを言うくらいなら、インフレ・ターゲットを導入して「流動性の罠」からの脱却をはかる方が、はるかにてっとりばやい。 また、仕事のできない人がクビにされているのだとして、失業率増加をふせごうとする、マクロ景気対策を「効率」の側面から問題にしている。つ~か筆者は、現在の成長率・失業率こそ、日本の潜在成長率・自然失業率であると、本気でおもっているのだろうか。そこのところの実証をぬきにしては、無能失業者の救済はやめるべきだという議論は、なんの根拠もない、姑息なスリカエにすぎまい。政府は国民を解雇できない、という意味を深く噛みしめるべきだ。そもそも、効率的な産業分野への速やかな希少資源の移転を達成するためにも、安定したマクロ経済運営は不可欠だろう。また、預金から株式への資産形態の転換の上で、貯蓄率の低下をどう評価するかは、避けてとおれない。なぜか、本書ではまったく言及されていないのだが。 そのため、若干評価を低くしてある。しかし、不良債権問題・郵政民営化などについては、大変参考になるでしょう。 価格: ¥735 (税込) 評価 ★★★ ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Oct 31, 2005 03:07:17 PM
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