書評日記  パペッティア通信

2006/11/04(土)15:09

★ 吾妻ひでお 『失踪日記』 イーストプレス(新刊)

サブカル・小説・映画(43)

吾妻ひでおは、本当にギャグマンガ家なのだろうか?? こんな突拍子もない疑問が、評者の脳裏から離れてくれない。 鴨川つばめも読んでみた。 山上たつひこも読んでみた。 とり・みきも読んでみた。 いづれも、予想通りにつまらなかった。 いや、なにも喧嘩をうりたい訳じゃない。 ギャグマンガには旬がある。 時代の制約が大きすぎる、といいたいのだ。 その時代に読めなかった人は、縁なき衆生として、あきらめるほかはない。 今さら、「あずまんが大王」を読む気になれないのは、そのためです。 とある事情があって、読む機会を逸してしまったのだ。 おまけに、ギャグマンガは、才能の枯渇がはやい。 上り坂と絶頂、そしてその後の枯渇まで、歩みをともにしないと、 そのギャグマンガ家の価値なんて分からない。 さらに面白かったギャグマンガ。 今読みかえして、面白いかといわれると、困ることがありませんか? ほりのぶゆきも、中山ラマダも、面白かったのに今読むと面白くない。 たぶん、当初の衝撃がなくなってしまうからだろう。 おそるおそる 「失踪日記」をひらいてみた。 面白い。もう、どうしようもなく面白い。 ギャグマンガをかけなくなって、浮浪者となって街や公園を放浪し、配管工をやり、やがてアル中になってしまう。すてられた妻。万能の天ぷら油。アル中は精神障害らしい。どうしようもないほど、せつなくて、どうしようもないほど、面白い。いきおい余って、「不条理日記」を読み直してみたほどだ。それでも、やっぱり面白い。どうしてだ。20年前の作品と同じような輝きが、どうして今あるんだ。なぜ、今も面白いんだ。 たぶん、吾妻ひでおは、ストーリーのみで勝負しているのだ。 怖い話も、ほのぼのと優しいお話にかわる。 ギャグマンガ家として、時代と寝た、吾妻ひでお。 本人も、周囲も、誰もが勘違いしてしまったのだ。 だから、浮浪者になるほど追いつめられてしまったのだ。 時代がすぎさり、ギャグの才能も枯渇したとき、 「時代と才能」がはなつ、まばゆいばかりの光沢に隠されてしまっていた、 吾妻作品の本当の面白さ。それが表に出てくることになったのだ。 ほのぼのとした絵柄で、優しくて、それでいてシニカルで、、、 失踪という重いストーリーが、こなれていて本当に素晴らしい。 だからこそ、今読みなおしても20年前の「不条理日記」は面白い。 あのときの名作は、ナンセンスだからロリな絵柄だから 面白いのではなかったのだ。 シニカルで優しくて、、、、 もっとはやく気付くべきだった。 吾妻が「時代と才能」というまばゆい光をはなっていたとき、その面白さを支えていたもののことを。まばゆい光に隠されてしまった部分こそ、かれの真価だったのだということを。 わたしは不明を恥じる。 wikipediaによれば、吾妻は「ナンセンス漫画」からの引退を宣言したという。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%BE%E5%A6%BB%E3%81%B2%E3%81%A7%E3%81%8A 50にして天命を知った作者。 その未来が輝かしい物であることを心からねがってやまない。 評価 ★★★★ 価格: ¥1,197 (税込)

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