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書評日記  パペッティア通信

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May 5, 2005
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カテゴリ:社会


(承前 昨日の日記)

つかのま、1927年の武漢に出現した労働者・農民(プロレタリアート)を主体とした政治体制に、「民主主義的独裁」なる概念をあたえて「人民中国」の起源、「毛沢東革命」の原点をみてきた、従来の中共の公式史観。

それに対して筆者たちは、決して軍事的にも優勢とはいえなかった右派・蒋介石陣営と、右派の予想できた政変に対処できなかった左派・武漢政府陣営、という2勢力のヘゲモニー争いを詳細にあきらかにしていきます。過熱化する革命運動。それによって、商工業の破滅的惨状と、ナショナリズムで連携していた武漢政府陣営内で資産階級と無産階級の内部分裂がひきおこされてゆく。やがて「労働者の工場管理」「土地均分」「資産没収」にまでいきついた階級闘争と民主化、この2つの課題の「調整の失敗」に武漢政府崩壊の原因をみようとする筆者。そこから、旧来否定的にとらえられていた反革命の蒋介石・南京政府や、分裂させないため武漢政府に妥協しつづけ「民主主義的独裁」の芽をつんだとされた、陳独秀・コミンテルン路線への、中共の一方的な評価に疑義をとなえてゆきます。

蒋介石らの南京国民政府は、資産階級の利害を吸収したナショナリストの政権であること。国民革命は、「未完の革命」に終ったこと。なぜ、汪兆銘ら国民党左派は、1937年以後の日中戦争のとき、日本の傀儡(かいらい)政権に参画してしまったのか。なぜ中共は、その後、都市・農村蜂起路線に走ったのか。その淵源に筆者は、武漢時代の大衆運動にこりごりさせられた国民党左派の大衆不信をみるとともに、階級闘争の不徹底をよぎなくされた中共とコミンテルンの武漢期の自己「否定」をみようとします。そうじて、やや古さがめだつ理解といえるかもしれません。

しかし、1920年代の「国民革命」の成果や課題の継続として、1930年代~1940年代の中国史をとらえようとするのは、現在ではスタンダードな見解といってよいものです。それは、1949年の「中国革命」=中華人民共和国の成立についてまで、それを「国民革命」として把握しなおそう、という試みとさえいえるでしょう。ここでは、建国初期の「社会主義」「人民中国」でさえ、中国ナショナリズムの変奏にすぎないのです。いささか、突拍子もないような議論のように、感じられるかもしれない。とはいえ、今もなお中国には、「民主化」の達成という課題が残されているという筆者たちの理解に、疑義をとなえるものはいないでしょう。

ただ本書の白眉は、こうした中国ナショナリズムの通史的理解そのものにあるのではありません。国共合作。国民革命。熱い、変革をめざした人々の肉声が再現されているのです。中国のナショナリストの熱い思いを再現するために、1925年3月12日、肝臓ガンのため北京で倒れた、孫文のソ連の指導部宛遺書から、煩瑣をいとうことなく引用してみたい。


 ソビエト社会主義共和国大連合中央執行委員会の同志へ

  私は不治の病に伏しておりますが、わが心は今あなたがたのこと、わが国
  の将来のことに絶えず馳せ巡っております。あなたがたは、自由な共和国
  連邦の指導者です。その自由な連邦は、不滅のレーニンが被圧迫民族に残
  した世界的な遺産です。帝国主義下の難民はそれを頼りとしてみずからの
  自由を保衛し、古来からの人を奴隷となす道理なき国際制度からの解放を
  めざしています。私は残していく国民党に、帝国主義制度より中国および
  被侵略国を解放する事業を完成するにあたり、あなたがたと一致協力する
  よう希望しております。(中略)
   親愛なる同志のみなさん。あなたがたとの訣別にあたり、わたしは強い
  期待を禁じえません。まもなく中国に夜明けが訪れるでありましょうが、
  その暁にはソ連邦は良き友として、同盟国として強盛なる中国を歓迎して
  くれるでありましょうし、中ソ両国は世界の被圧迫民族の自由への偉大
  な戦いに手をとって馳せ参じ、勝利を収めるでありましょうことを希望
  してやみません。
   心から兄弟としての友誼を表します。あなたがたの平安をお祈りします。
    (同書333頁)


われわれはすでに知っています。中国に「夜明け」がこなかったことを。各国の共産党は、ソ連の国益の道具にすぎなかったことを。ソ連は、被支配民族に残した遺産ではなかったことを。共産主義は、あらたなる圧迫にすぎなかったことを。コミンテルンが孫文にもとに派遣したヨッフェは、その幻影に殉じるかのごとく、スターリンによるトロツキー派の粛清をおそれ自殺。それは、中国人や活動家がコミュニズムにいだいた、あまりにも美しい誤解への、冷酷な現実からくわえられた復讐なのかもしれません。否、日本が共産主義にいだいた誤解も、また然り。最後、本書はこのように語ります。

  戦後日本の民主化過程で、不戦と非軍備、国民一人一人の基本的人権と
  民主的権利などの高遠な理想を掲げるがゆえに、自主解放と人間的生存
  と自由を達成したかにみえた新中国に熱き思いを託してきた立場の人々
  からすれば、…(中略)

なぜ人々は、日本人をふくめて、新中国へ、人民中国へ、といざなわれていったのか。これほど、的確にまとめたものは、みたことがありません。そして以下の展望がしめされ、締めくくられています。

 
  植民地支配と家父長的支配に規定された後進性克服の課題、政治権力の
  獲得が先行したことによって残された課題、つまり生産力などの経済的
  解放と「民主と人権」などの政治的人間的解放との緊張関係の課題を
  「社会主義」「国民国家」の変容と再編過程として動態的に把握しなおす
  ことが、われわれに求められている。
 
あくまで、中国の「社会主義」が「解放」として、この書ではとらえていることがわかるでしょう。かつて「人民中国」に惹かれた人にとっては、現代中国とは苦々しい存在であることを言外に滲ませつつ、筆者たちはギリギリまで今の中国を「社会主義」「解放」の枠内で把握しようとする営為を止めようとはしないのです。

だからこそ、この書は不滅の意味をもつ。なぜなら1942年、43年に生まれた筆者は、中共による社会主義の「解放」と「民主」を、肌で体感できた時に青春をおくった、最後の世代だからです。彼ら以後の研究者からは、体感できた「解放」「民主」の「社会主義」から、現代中国を問いなおそうとする動機は、生まれてくるはずがありません。あったとしても、それはアカデミズムとは無縁な、政治・ジャーナリスティックな言説でしか、ありえないでしょう。本書は、おそらく新研究によって、実証レベルでは、今後乗りこえられてゆくかもしれません。だからこそ、「解放」と「民主」の同時代的共感から、極限まで「解放」の先に現代中国をみすえようとする行為は、あまりにも尊い。なぜなら、中共は国民党が解決できなかった課題の克服という輿望をになって大陸を制覇したように、現代中国の行き先は、中共が解決しえなかった「解放」「民主」の彼方にしかありえないことは、あまりにも自明のことだからです。

われわれは、中共が「解放」と「民主」であることを理解できない。理解できている人には、やや古さの目立つ「国民革命」の通史にしかすぎません。そういう方には、星一つ分、減らした評価にしてほしい。しかし、理解できていない人には、現代中国のナショナリズムの淵源として、または中共支配の終焉の先になにがあるのか、その一つの有力な回答として読まれるべき、アカデミズムの側からわれわれに届けられた、屈指の著作のひとつだとかんがえています。

評価 ★★★★☆
価格: ¥4,935 (税込)

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Last updated  Nov 7, 2005 11:04:44 PM
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