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書評日記  パペッティア通信

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May 22, 2005
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カテゴリ:経済


1989年、総和社から出版され、絶版になっていた本書。
2004年、ちくま学芸文庫として、再版される運びになった。
まことに喜ばしい。

「東方のモスクワ」ハルピン。帝政ロシアの極東経営の拠点として、ロシアが心血を注いで建設した、美しい都市。ロシア革命による亡命ロシア人によって、上海に次ぐ国際色の豊かな都市へと発展します。その後、1920年代の日・露・中の主権争いをへて、1932年、ターニングポイントとなる、「満州国」の成立。

その後満州は、日本国内では類をみないほどの、理想的な都市計画を総合的に実践する場になっていきます。景観を守るため、さまざまな規制がしかれた住宅建設。完備した緑地計画。水道事業…。ここでは、アール・ヌーボー都市ハルピンの全貌が余すところなく描かれています。

欧米最先端の試みを実践する場だった、満州。

この視角で整理した本書は、1930年代、朝鮮・台湾・満州など、植民地において先駆けて実施・施行され、後に本土に展開された、企画官僚主導の総力戦体制をかんがえるためにも、ふさわしいエリア・スタディーになっている、といえるでしょう。都市計画は、直接的には戦争に寄与しないので、戦時中、なにも影響をあたえなかったようにみえます。しかし、廃墟になった戦後、名古屋や仙台、広島などの「大通り」建設は、こうした満州国で都市計画に携わった人々によって、になわれたのです。

むしろ、古典ともいえるものだけに、研究ではとっくにのりこえられるべき対象なのかもしれません。この書には、地域住民の匂いが、どこからも漂ってこない。喧噪でまみれた中国人たちの息吹は、日本人官僚の計画によって、どこかに消えてしまう。

きれいで清潔で美しい、
まるでファシズムのような居心地のよい、植民地のユートピア。
どこにも存在しなかった理想郷、ハルピン。

この本が隠蔽しているものは、あまりにも明らかでしょう。

ほとんどが、「企画」倒れに終わった、ハルピンの都市計画。
この書があきらかにしたものは、ハルピンという都市ではない。
中絶を余儀なくされた、うたかたの夢に過ぎない。
夢に隠された、搾取と抑圧。

「極東最先端」という甘いノスタルジアもまた、
所詮「模倣」にすぎなかった、近代日本の悲惨を隠蔽するために機能します。

この書が満州からの引き揚げ者に読まれた理由がよくわかります。
夢に破れたものたちがつむいだ、すでに存在しないものへのあこがれ。

企画官僚と、地域住民はどのようにせめぎ合ったのか。
その結果、どのように計画は変容していったのか。
そもそも、満州という強権的支配を可能にした場でしかできなかった、企画官僚による住民支配は、戦後中国共産党によってどのように接収、改変されていったのか。

この書が、未解明のままわれわれに残した課題は、あまりにも大きいものがあります。後続の人々が、のりこえていくことを期待してやみません。

評価 ★★★
価格: ¥1,470 (税込)

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Last updated  May 16, 2007 02:38:21 PM
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