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書評日記  パペッティア通信

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Jun 17, 2005
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カテゴリ:音楽・文化


「戦前日本はナチスと違う!ファシズムではなかった!」と喋るアホがいる。
逆の意味で、まったく同感だ。

ナチス・ドイツはカッコイイ
ヒロヒト・ニッポンはカッコワルイ

ドイツの文化を愛するものにとって、日本と一緒にされてはたまらない。本物のエリートは、植民地朝鮮ですら欧米にあこがれた。モンペに国民服。猫背のチビが現人神になったため、欽定憲法明記の帝国議会が潰せない。その現人神はのうのうと生きて、人間宣言。やったことは大してかわらないのに、何やらせてもマヌケでジメジメ。その証拠に、サブカルをみよ。敵役はナチスだらけだ。ヒロヒトをお呼びなのは、それ以上にダサい、中国くらいしかない。ドイツの名誉のために、「マヌケファシズム」くらいが好ましい……失礼。

世界に鼓吹された、「ドイツ音楽の絶対性」

バッハ、モーツアルト、ベートーヴェン、ワーグナー、ブラームス… その正統な嫡子にして「最後の大音楽家」、リヒャルト・シュトラウスくらい、その偉大さが評価されていない音楽家も珍しい。ひとつにはシュトラウスは、ワーグナーの楽劇様式の完成者とされ、それ以後の活動は「衰退」とみられたこと。なにより、解任されたとはいえ、ナチス政権下、帝国音楽局総裁に就任したためでしょう。

本書は、その評価に敢然と異をとなえ、音楽史の再考をせまります。

「喜劇」によって「昏迷の時代」を治癒せんとする、老芸術家の40年にもおよぶ、後半生の孤独な戦いをえがきだすことによって。

西欧啓蒙主義への反発から、汎ゲルマン主義をもとにして、「非理性」をかかげたドイツ・ロマン主義。退廃・不安・倦怠におおわれた世紀末。その脱却からか、第一次大戦やナチス台頭時には突如として、狂信的愛国主義や「自由からの逃走」に熱狂してしまう。自由と「全体性への渇望」の狭間にゆれるドイツ。そうした「時代の迷妄」を代表する台本作者、ホーフマンスタールとの「オペラ史上空前の黄金コンビ」による創作活動。

ただ、悲壮・勇壮感あふれた愛と戦いの神話=「悲劇」にこだわる、彼との共同作業は、不協和音の連続だったのです。バイエルン生まれの個人主義者。そして陽気なシュトラウスは、「かけがえのない個人」をえがこうと、「喜劇」台本をもとめました。そこに、ホーフマンスタールを介して時代を治癒しようとする、シュトラウスの努力を嗅ぎつける筆者。「ワーグナーの後継者」は台本作者にめぐまれない。「空疎な台本」で、その音楽の才能を浪費しつづけるシュトラウス。

時代を治癒せねば。
人々に悲劇ではなく喜劇を! 
今こそオペラ・ブッファ(喜劇オペラ)、純粋喜劇の復興を!

そこにあらわれた、ユダヤ人作家シュテファン・ツヴァイク。
70歳の老巨匠の手に、待望の台本がとどいた!
その名は「無口の女」。

そこに訪れた、1933年のナチスの政権掌握。息子フランツは、ユダヤ人女性と結婚していました。絶望的な状況下、第三帝国の支配原理そのものを愚弄した、シュトラウスの命をかけた活動が、ここからはじまるのです。喜劇オペラ「無口の女」の台本にそった、<喜劇的>闘争が。メンデルスゾーンの銅像が壊され、マーラーとマイヤベーヤの上演が禁止され、ユダヤ人音楽家がつぎつぎと追放されていった、ナチス・ドイツ。そのナチスが、狡猾な魔術師によって翻弄され、ユダヤ人台本作家のオペラ「無口の女」は、とうとう上演されてしまうのだ。あわや、ヒトラーとゲッペルスが、初演に臨席させられる予定だったとは! その顛末は、ぜひ読んでみて確認してほしい。

それだけではありません。1935年7月、当局に公然たる反ナチ活動が知られ、総裁の地位を解任されるものの、その後もシュトラウスは粛清されることなく、ナチスの獅子身中の虫として生きつづけます。『オリンピック讃歌』『紀元2600年祝典音楽』の指揮・作曲のみならず、ナチをあてこするように、オペラ『カプリッチョ』『ダナエの愛』『平和の日』を送りだした、シュトラウス。戦時下に行なわれた数々の闘争。かれが音楽にこめた精神と哲学は、ヨーロッパの教養ある人びとの目をゴマかすことはできない。「ナチ協力者」の汚名も、人々の歓呼の声で晴らされることになる。1949年逝去、享年85歳。

この要約だけでも、そのすばらしさの一端は理解できるでしょう。
ナチス協力の過去ゆえに、後期ロマン派を代表した、若い頃の交響詩とオペラしか評価されてこなかった、シュトラウス。そこに筆者は、セルバンテス、ベン・ジョンソンに連なる、一貫した「反ロマン主義」「反ワーグナー」音楽としての、連続性と発展性を見出そうとします。そのアイデアと精緻な実証は成功しているといってよいでしょう。むろん、豊潤な先行研究にたよっている部分が多いのは、難点かもしれません。とはいえ、知られざる一面には、さらに別の角度が加わっているのです。邦訳文献の少なさもあって、讃えられるべきことでしょう。


「自分がアーリア人であることを証明できる作曲家を二人あげよ」

解任後の1935年暮、帝国音楽局から届いた、作曲家の資質を問う調査書。
その質問の一つに、リヒャルト・シュトラウスは、こう記入したという。

「モーツアルト」
「ワーグナー」

伝統と、未来とをつなぐ、自負と諧謔。
なんと心地のよいことか。

シュトラウス・ファンやクラシック・ファンだけが読むのは、あまりにももったいない。音楽が「もうひとつの政治」であった国ならではの、激烈な闘争の数々。ナチスに興味のある方なら、ぜひ読むべき、すばらしい好著になっているといえるでしょう。

評価 ★★★★
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Last updated  Nov 17, 2005 11:25:31 PM
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