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テーマ:経済分野の書籍のレビュー(50)
カテゴリ:経済
![]() 元・朝日新聞経済部記者による、トヨタ自動車礼賛本。 と言いきってしまうには、あまりにも対象が面白すぎるのが難点か。 トヨタ自動車「群雄伝」の趣さえ、醸し出しています。 そのタイムリーな出版には、心から感謝したい。 ただいま、ちまたで絶賛されているトヨタ自動車。 2年連続、税引後利益1兆円、生産台数は700万台。トヨタモデルは、中部国際空港から惣菜店にまで広がります。その代名詞「かんばん方式」を生んだ、元紡績工場技術者、大野耐一(副社長)。フォードの大量生産システムから生まれる「在庫」を禁じるために、「後工程引き受け」の徹底化をおこないます。そうした戦略を可能にするために欠かせなかった、「改善」「ラインストップをおそれない」「ジャスト・イン・タイム」「自働化」「見える化」の徹底には驚くばかりです。 また、社風の違いも垣間見えていい。しばしば、左から批判された、ベアゼロトヨタの労使一体の企業風土。「社員を大事にする」トヨタは、日産の様に労組が経営に介入することはなかった。石橋を叩いても渡らない。シェア1割をこえ、利益の7割を叩きだす北米市場のみならず、中国進出も最後だったらしい。韓国・現代自動車の台頭にも、注意しているようです。 さらに、ハイブリッド・カー、プリウス誕生「秘話」も面白い。ホンダを出し抜いたほどの、バネ研究に一生をささげるような、そんな1万2千人もの技術系人員を擁するトヨタの厚み。「技術の日産、販売のトヨタ」だけにおさまらない、その技術力のすごさにはおそれいる。他にも、戦前GMにスパイまがいのことをさせられた「販売の神様」神谷正太郎による、GMの直営方式とはことなった地域の有力者層に販売網をつくらせる話。トヨタ家への大政奉還はあるのか。さまざまなトヨタのトピックをおりまぜており、たいへん興味深い。 さらなる品質の改善とコストダウンを下請企業にもとめ、世界のもっとも安い価格よりさらに1割安い水準をめざしているトヨタ自動車。「乾いた雑巾をさらに絞る」といわれるものの、そこは天下のトヨタ様。「下請」への過剰な負担転嫁には、終らせていません。そこには、濃密なトヨタとの技術・人員交流だけではなく、キャッシュ面で抜群の支払条件(16日締め翌月15日払、現金振込)も中小企業に提供しているらしい。ムチ面のみ語られやすい、あるいはムチ面を礼賛するだけの低レベルの経営関連書籍が多い中、こうしたキャッシュへの着目は、さすがといえます。 人を極限までこき使いながら、いかにそれを生産性の高さに結びつけることができているか。仕様書の徹底や、事務作業効率の改善に導入される、トヨタモデルはそうした思考に由来するのでしょう。人は、存在するだけでは、なんら価値を生み出しはしない。生み出すように、人をいかに組織化できるか。「濃密な関係性」ゆえに、日本型経営としてしばしば礼賛されるトヨタ。その一面ばかりに着目すると、足をすくわれてしまうのではないか。そもそも戦前、そんな「家族経営の本家」であった、武藤山治ひきいる鐘紡(現・カネボウ)は、先ごろ破綻したばかりでしょう。そんな中で、成功にともなう影の部分、失敗を生み出すかもしれない部分にも触れているこの書。なかなか価値が高いといえます。 とはいえ、トヨタ自動車はデンソーの子会社化するのではないか?という話について、もうすこし議論を深めていっても良かったのではないか。部品メーカー主導の予感。コンピューターにおける、インテルの覇権にも通じる議論でしょう。そもそも「トヨタ車体」な訳だしね。その辺がちょっぴりマイナスかもしれません。 評価 ★★★☆ 価格: ¥777 (税込) ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Jul 13, 2005 07:43:04 PM
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